付き合いの長い信頼できる相手だからこそ、契約書を作る理由
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
「契約書が無いのですが、代金を請求できますか?」
といったご相談を受けることがあります。
契約書が無くても費用を請求できますが、回収は簡単ではありません。
上記のご相談には以下のように回答します。
「契約書が無くても、約束した内容を証明できれば、請求できます。メールやLINEのやり取りは残っていますか?」
中小企業では、売上確保を優先に考え、約束どおりに費用が支払われない場合に対するケアが不十分なことがあります。
また、「信頼できる相手だから」、「長い付き合いだから」という理由で、契約書を作らないということもあります。
しかし、信頼できる相手と一緒に仕事をできる嬉しい場面だからこそ、後で「思っていたのと違う」ということにならないよう、契約書は必要なのです。
この記事では、契約書を作る理由を確認した上で、契約締結の方法について詳しく解説します。
目次
契約は、①申込みの意思表示と、②それに対する承諾の意思表示があれば、成立します(民法522条1項)。
連帯保証契約など、契約する本人に重大な責任が生じる契約は、書面でなければ効力が生じないこととされています(民法446条2項)。
しかし、それ以外の契約は口頭でも成立します。
民法でも、契約書を作らなくても契約が成立することが明記されています。
民法522条2項
契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
口頭でも契約は成立するのに、なぜ契約書を作るのか。
その理由は、以下の3点です。
① 合意内容を明確にする
いつからいつまで、どこからどこまでやるのかなどを明確にします。
明確にしておかなければ、想定外のことをやるように求められたり、やってくれると思っていたことを別料金と言われたりします。
② 合意内容の社内共有手段
契約書を作っていなければ、合意した内容を社内に共有することが困難です。
契約書のデータを社内で共有すれば、自社が取引先とどのような合意をしたのか、すぐに理解することができます。
③ 合意内容証明の手段
よく言われることですが、「言った言わない」にならないように契約書を作ります。
お金を請求する場合、請求する側が請求の根拠があることを証明しなければなりません。
契約書があれば一発ですが、契約書が無ければ、これまでのメールやLINEのやり取りなどを提出して、どういった合意があったのかを証明しなければなりません。
このように契約書には重要な役割があります。
そのため、たとえ、付き合いの長い信頼できる相手であっても、いや、そのような相手だからこそ、安心して一緒に仕事をできるように契約書を作成するのです。
もし、「契約書を作ろう」と言いにくいのであれば、「顧問弁護士がうるさいから」と、専門家のせいにしていただいて結構です。
ある程度は、契約書のタイトルと中身が一致しているほうがわかりやすいですが、タイトルは何でもいいです。
業務委託契約書というタイトルだけれども、中身は別の契約といったケースはよくあります。
以下では、よく用いられる契約書のタイトルについて、コメントします。
紛争解決や交渉終了時、最終的にまとまった条件を整理して、合意書という文書を作ることが多いです。
元の契約書の内容を変更する場合には、合意書や覚書という名称の文書を作ることが多いです。
「契約内容変更に関する覚書」といったタイトルにすることもありますが、タイトルは何でもよいです。
契約は、①申込みとの意思表示と、②それに対する承諾の意思表示があれば、成立します。
①が注文書(発注書)、②が注文請書の役割を担います。
契約書と異なり、一方だけが捺印して相手方に送付するという特徴がありますが、注文書と注文請書が1セットそろえば契約が成立します。
注文書に契約内容が書いてあることが多いので、注文書を受け取った場合は記載された内容が正しいか、自社に不利な内容がないか、よく確認しましょう。
不特定多数の相手と契約をする場合に用いられるのが利用規約です。
令和2年4月1日の民法改正で利用規約に関するルールが整理されました。
民法548条の2以下の「定型約款」に関するルールの部分に詳しく記載されています。
ネットでサービスを申し込む時に、「利用規約に同意して申し込む」などといったチェックボックスにチェックを入れたことがあると思います。
このチェックを入れる行為は、利用規約に承諾したことを意味し、利用規約に書いてあるとおりの契約が成立することになります。
例えば、Amazonで買い物する場合、Amazon社と契約しているのですが、Amazon社と契約書を作ることはありませんよね。
この場合、Amazon社の利用規約に書いてあるとおりの契約が成立します。
利用規約がある場合、「利用規約だから契約条件を修正できない」と言われることがあります。
「みんな平等に」という考えだと思いますが、利用規約の内容を修正する覚書を交わすことで契約内容を修正することは可能ですので、自社に不利益な内容があれば修正を打診してみましょう。
当事務所にて、ECモールの利用規約を作成した事例については、以下の記事を参照してください。
契約書作成の重要性は1で説明したとおりです。
その上で、契約書のリーガルチェックは必ず行いましょう。
契約書のリーガルチェックとは、
・契約書に法的なリスクはないか
・契約書に不利な内容が含まれていないか
・契約書が取引内容に合っているか
を弁護士がチェックすることです。
契約書のリーガルチェックの重要性と主要なチェックポイントについては、以下の記事を参照してください。
【飲食店】契約書のリーガルチェック、ちゃんとやってますか??
契約を締結する場合、一方が契約書の案を相手方に提出し、相手方がリーガルチェックをして返却するというやり取りを何度か行い、最終版を確定するという流れが多いです。
しかし、一方(元請企業など)の力が強く、契約締結交渉にもパワーバランスの影響が生じます。
契約書の修正を求めると、「それでしたら御社との契約を見直します」などと言われることがあるのです。
何でもかんでも自社に有利に修正するのはやめたほうがよいですが、極端に不利な条項は放置すべきではありません。
以下、注意すべき点を解説します。
例えば、大企業とスタートアップ企業との契約において、「一切の知的財産権は大企業が保有する」といった条項があるケースがあります。
知的財産権とは、著作権などのことです。
この条項がある場合、スタートアップ企業が制作物を別のプロジェクトに使う場合、常に大企業の許可を要することになります。
しかし、このような条項は独占禁止法の「優越的地位の濫用」に該当し、違法となる場合があります。
「優越的地位の濫用」とは、立場が上なことを利用して強引な要求をする、独占禁止法で禁止されている行為です。
公正取引委員会が公表する「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」には、様々なパターンの「優越的地位の濫用として問題となり得る事例」が掲載されていますので、困ったときには参照してください。
また、提示された契約条項が下請法に違反する場合もあります。
下請法の内容については、以下の記事を参照してください。
「独占禁止法、下請法に違反するおそれがありますので…」と修正を求めれば、相手方のほうが力関係が上でも、無視はできないはずです。
その他、パワーバランスが上の相手方から、民法や商法の原則を大きく修正した契約条項が提案されることがあります。
少なくとも、リーガルチェックをして、法律よりも自社に不利に修正されている条項を見逃さないように気を付けましょう。
その上で、「民法(商法)の原則に従った内容でお願いします」と修正を提案しましょう。
ただし、民法や商法は任意規定と言って、契約当事者が自由に修正できますので(民法521条2項)、修正に応じてくれないかもしれません。
その場合でも、自社にどういったリスクがあるのか、把握しておくことが重要です。
契約書のリーガルチェックや作成は弁護士に依頼したほうがよいです。
弁護士には以下の情報を提供すれば、より精度の高い契約書を準備できるでしょう。
・会社の事業内容
・取引の背景、概要
・リーガルチェックの場合契約書案を作成したのは、当方と相手方のどちらか
・取引内容や契約書案について不安を感じている点
・契約締結時期、期限
また、事業内容を把握している顧問弁護士がいれば、契約書のリーガルチェック等がスムーズに進むでしょう。
この記事でお伝えしたいことは、
付き合いの長い信頼できる相手であっても、契約書を作成しましょう
ということです。
契約書を作成すると合意内容が明確になりますので、契約書に盛り込む内容は慎重に検討しなければなりません。
契約書を作成するということは、自社に有利にも不利にもなり得ます。
そのため、契約書に署名捺印する前には、必ず弁護士に確認することをお勧めします。
当事務所では、以下のようなサポートを提供しています。
・契約書の作成、リーガルチェック
・利用規約、プライバシーポリシーの作成、リーガルチェック
・就業規則その他社内規程の作成、リーガルチェック
・契約締結に向けた交渉
また、当事務所は、契約書の作成、リーガルチェックを顧問契約の範囲内で行っておりますので、顧問契約についてもご検討ください。
契約書の作成を考えておられる方は、問合せフォームまたは事務所LINEアカウントよりお気軽にお問い合わせください。
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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明