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下請法の概要と令和4年改正のポイント


 

弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

令和4年1月16日に下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(以下「下請法ガイドライン」といいます)が改正されました。

 

改正後の内容は公正取引委員会のHPでご覧いただけます。

経営者の方であっても、下請法に目を通すことはあまりないかも知れません。

 

しかし、下請法に違反することのデメリットは決して軽視できないものです

 

事業者が下請法に違反した場合、公正取引委員会から勧告を受け、企業名や違反事実を公表されたり、多額の課徴金を課されることがあります。

 

昨今、企業に求められるコンプライアンスはますます強化されています。

そのような時世において、下請法違反の事実を公表されてしまうと、下請業者だけでなく、消費者からも敬遠されることとなります。意図的に下請業者から搾取したのならともかく、知らずに違法な行為をしてしまった場合は目も当てられません。

 

そこで、本日は下請法の概要ガイドラインの主要な改正点について、解説させていただきます。

 

 

1 下請法とは

 

(1) 概要

 

下請法は、下請事業者の利益を保護するための法律であり、親事業者に対し、4項目の義務11項目の禁止行為を課しています。

 

親事業者の義務は次の4項目です。

 

① 下請代金の支払期日を定める義務(下請法2条の2)

親事業者が下請代金の支払期日を定める義務です。委託した物品を受け取った日、または委託した役務が提供された日から60日以内の日を支払期日としなければなりません。

 

② 書面交付義務(同法3条)

親事業者が、委託をしてから直ちに発注書を下請事業者に交付する義務です。発注書には、公正取引委員会規則に定める事項を記載しなければなりません。

 

③ 遅延利息の支払義務(同法4条の2)

親事業者が、委託した物品を受け取った日、または委託した役務が提供された日から起算して60日経過後から支払いをする日までの日数に応じ年14.6%の利息を支払う義務です。

 

④ 取引経過書類の作成・保存義務(同法5条)

親事業者が、給付の内容、下請代金等を記載した書面(5条書面)を作成し、2年間保存する義務です。

 

 

 

親事業者の禁止行為は次の11項目です。

 

❶ 受領拒否(下請法4条1項1号)

親事業者が、下請業者に責任がないのに、下請業者の納入する目的物を受け取らないことです。

 

❷ 下請代金の支払遅延(同条1項2号)

親事業者が、下請業者から物品を受け取ってから60日以内に代金全額を支払わないことです。

 

❸ 下請代金の減額(同条1項3号)

親事業者が、発注時に決めた下請代金を、下請事業者に責任がないのに、発注後に減額することです。

 

❹ 返品(同条1項4号)

親事業者が、下請事業者に責任がないのに、納入された物品を返品することです。

 

❺ 買いたたき(同条1項5号)

親事業者が下請代金を決定するときに、通常支払われる対価に比べて著しく低い額不当に定めることです。

 

❻ 購入及び利用の強制(同条1項6号)

親事業者が、下請事業者に対して、正当な理由なく、親事業者の商品を購入したりサービスを利用することを強制することです。

 

❼ 報復措置(同条1項7号)

親事業者が、下請事業者に対し、親事業者の下請法違反を公正取引委員会等に知らせたことを理由に、不利益な取扱いをすることです。

 

❽ 有償支給原材料等の対価の早期決済(同条2項1号)

親事業者が、下請事業者に対し、下請業者に責任がないのに、有償で支給している原材料等の支払期日を早めたり、原材料代等を下請代金と相殺すること等です。

 

❾ 割引困難な手形の交付(同条2項2号)

親事業者が、下請事業者に対し、割引困難な手形で下請代金を支払うことです。

 

❿ 不当な経済上の利益の提供要請(同条2項3号)

親事業者が、下請事業者に対し、経済上の利益を提供させて、下請事業者に不利益を与えることです。

 

⓫ 不当な給付内容の変更及びやり直し(同条2項4号)

親事業者が、下請事業者に対し、下請事業者に責任がないのに、発注の取消、変更をしたり、リテイクをさせることです。

 

 

この中で最も注意すべきは❸下請代金減額の禁止です。

 

公正取引委員会からの勧告及び公表を受けるほとんどのケースがこれです。

とはいえ、下請代金減額の禁止(下請法4条1項3号)は、「発注時に決定した下請代金を」「発注後に」「減額する」ことの禁止という平易な条文なので、解説は省略します。

 

買いたたきの禁止は、ガイドラインの基準が改正されており、重要です。

 

買いたたきの禁止については後に詳しく説明します。

 

 

 

(2) 下請法の適用範囲

 

下請法は、全ての下請関係に適用されるわけではありません。

 

適用範囲は、取引内容と資本金の額で決まります。

 

 

ア 取引内容

 

下請法が適用される取引は、製造委託(下請法2条1項)、修理委託(同条2項)、情報成果物作成委託(同条3項)及び薬務提供委託(同条4項)です。

 

情報成果物には、ソフトウェアやプログラムだけでなく、映画、デザイン、設計図等も含まれます。

 

各取引の詳しい内容は下請法ガイドラインの第2に列挙されていますが、かなり複雑な記載となっております。

 

ご自身の事業が下請法の適用を受けるか否かは、弁護士に相談して確認した方がよいでしょう。

 

 

 

イ 資本金の額

 

資本金の額については、公正取引委員会のHPに詳しく記載されています。

「政令で定める情報成果物作成委託」とは、プログラムの作成委託のことです。

 

「政令で定める役務提供委託」とは、運送、物品の管理及び情報処理の委託のことです。

 

なお、資本金の額が低い(下請法の適用を受けない)子会社に業務を委託し、その子会社から下請業者への再委託を行わせた場合、その子会社が下請法の適用を受けることとなるので、注意が必要です(下請法2条9項、いわゆるトンネル会社規制)。

 

 

 

2 下請法ガイドライン改正の内容

 

令和4年1月16日付の下請法ガイドライン改正では、買いたたきの認定基準が改められました。

 

買いたたきに該当するか否かは、下請代金の額の決定に当たり、㋐対価の決定方法㋑対価の決定内容㋒通常の対価と比べて安過ぎないか及び㋓原材料等の価格動向等を総合的に考慮して判断されます。

 

そして、下請法ガイドライン第4の5(2)には、類型的に買いたたきに該当するおそれのある行為が列挙されています。

 

令和4年改正では、この列挙事由について変更及び追加がなされました。

 

 

 

(1) 変更点

 

改正前の下請法ガイドラインでは、「原材料価格や労務費等のコストが大幅に上昇したため、下請事業者が単価引上げを求めたにもかかわらず、一方的に従来どおりに単価を据え置くことが買いたたきに該当するおそれの行為の一例として挙げられていました。

 

改正後の下請法ガイドラインでは、同じ行為について、「労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くことという記載に変更されています。

 

 

 

(2) 変更のポイント

 

改正前の文言は、下請けからの値上げを拒絶したことをもって、買いたたきに該当し得ると判断するものです。

 

これに対して、改正後の文言は、親事業者が理由を説明せずに値上げを拒絶したことをもって、買いたたきに該当し得ると判断するものです。

 

一見すると、理由を説明していれば値上げを拒絶しても買いたたきに該当しないとする点で、改正後の方が親事業者に有利なようにも思えます。

 

しかし、改正後の文言は、「一方的に」という要素を削除する代わりに「理由を…回答することなく」という要素を付加しています。

 

すなわち、理由を説明していないことをもって買いたたき該当性を推認するという変更がされているのです。

 

したがって、この変更によって、買いたたき該当性の判断基準は、やや厳格なものとなったといえます。

 

 

 

(3) 追加点

 

買いたたきに該当するおそれのある行為として、新たに「労務費、原材価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと」という類型が追加されました。

 

この類型が追加されたのは、親事業者と下請事業者の力関係を考慮し、形式的な話し合いをするだけでは十分な協議とはいえないことを注意的に示すためです。

 

 

 

3 まとめ

 

改正によって買いたたき規制はやや強化されています。

おそらく今後も規制は強くなっていくでしょう。

 

買いたたき規制に違反しないために注意すべきポイントは対価を決定するにあたって下請事業者との十分な協議をすることです。

 

改正下請法ガイドラインの変更点、追加点ともに、下請事業者との十分な協議があったかどうかという点を問題としています。

 

下請代金を据え置く場合であっても、その理由を合理的に説明し、きちんとした場を設けて協議をすることで、買いたたきに該当するリスクを下げることができるのです。

 

そして、協議の場で下請事業者から納得を得るためには、常日頃の一つ一つの取引を誠実に行って、下請事業者との健全な関係性を維持することが大切です。

 

弊所では、あらゆる業種に精通した弁護士が、親事業者と下請事業者との間の契約書や発注書のリーガルチェックを数多く取扱っております

下請事業者との関係が気になった際や、いつも使っている発注書の文言の見直しをお考えの際には、是非弊所へご相談ください

 

 

フリーランスと契約する場合における下請法の留意点については、以下の記事をご参照ください。

「雇用?業務委託? フリーランスと契約する場合のポイント」

 

 

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