不当なクレームによるサービス代金の返還請求を斥けた事例
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
今回は、不当なクレームを付けて、サービス代金の返還を求めてきた顧客に対し、法的に返還請求が認められないことを説明して、請求を断念させた実績を紹介します。
目次
ご相談者のA社は、売上向上のためのコンサルティングサービスを提供する会社でした。
A社のサービス内容は以下のようなものでした。
①顧客との契約時にノウハウをまとめた資料をオンラインですべて提供する。
②毎月、定例ミーティングを行い、顧客によるノウハウの活用状況等についてアドバイスをする。
③その他、顧客の希望があれば、回数、時間無制限で追加のミーティングを行う。
売上が伸び悩んでいる特定の顧客Bが、A社に対し、「商品をヒットさせるためのコンサルティングをして欲しい。それができないなら全額返金して欲しい。」と要求してきました。
しかし、A社のサービスは、契約時にすべてのノウハウを提供するものですので、契約書上、1年間の契約期間中は解約できないことが明記されていました。
そもそも、いかに優れたノウハウであっても、必ず売上が向上することを保証できるものではありません。ノウハウを上手に活用するためには短期的な結果に一喜一憂せず、根気強く長期的に取り組む必要があります。
A社の担当者は、顧客Bにその旨を丁寧に説明しました。
すると、顧客Bは、A社の担当者の人格を否定するような発言をし、全額返金しない場合にはA社のサービスが詐欺であることを公にすると示唆してきました。
A社は、インターネット上に悪口を書かれるのも困るが、これで返金に応じていては、売上が伸びなかった顧客には全員返金しないといけないことになってしまうと悩まれ、当事務所にご相談されました。
A社が遠方でしたので、ご相談はZOOMを使って行いました。
弁護士が内容証明郵便を送付し、法律や裁判例に基づく反論をしたところ、顧客Bからの不当な返金要求を停止させることに成功しました。
その後、A社のサービス内容を批判するようなインターネット上の書込みも見られません。
弁護士は、まず、A社の担当者と打合せを重ね、サービスの概要や契約書の記載内容を把握することに努めました。
その後、弁護士は、A社の代理人として顧客Bに内容証明郵便による回答書を送付し、契約書上、途中解約ができないこと及びサービス代金は返金されないことが明記されているため、返金に応じることはできないと伝えました。
また、A社のサービスが詐欺であるという事実がないことを伝え、万が一、顧客Bの一方的な判断を公にすることでA社を誹謗中傷した場合、損害の賠償を求める可能性があると伝えました。
その後、顧客Bの代理人司法書士から文書が届きました。
文書の内容は、具体的な主張の把握が難しいものでしたが、概ね、以下のような内容でした。
・A社の行為が、消費者契約法に違反しているため、契約を取り消す。
・特定商取引法に基づきクーリングオフする。
このような理由により、支払済みの代金を返還せよという内容でした。
しかしながら、相手方の主張は法解釈に誤りがあったため、文書を送付し、その旨指摘しました。
こちらの指摘に対し、相手方からも反論がありましたが、やはり法解釈が誤っており、事実誤認も含まれておりましたので、再度、その旨を指摘しました。
すると、代理人司法書士からの反論はなく、返金要求も停止しました。
消費者契約法は、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差」の存在を前提として、消費者を保護するための法律です(同法1条)。
そのため、「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合」は、消費者契約法は適用されません(同法2条1項)。
つまり、A社の提供するサービスは、事業者の売上向上のためのコンサルティングサービスですので、そもそも消費者契約法の適用対象となりません。
相手方にその旨伝えたところ、A社との契約以前に顧客Bが事業を行っていた事実がないため、実質的に考えると、顧客Bは消費者にあたるとの反論がありました。
消費者契約法における「消費者」にあたるかを実質的に判断すべきだとする主張はそのとおりです。
しかしながら、結論として、相手方の主張は以下の2つの点で誤っていました。
まず、その顧客Bは、A社への申込時のアンケートに、リニューアルして売上を立て直したいと記載していました。
そのため、A社との契約以前から顧客Bが事業を行っていたことは明らかでした。
相手方代理人の主張は、誤認した事実を前提としたものでした。
次に、もし、顧客BがA社との契約以前に事業を行っていなかったとしても、裁判例上、開業することを前提として締結した契約には、消費者契約法が適用されないとされています(東京地方裁判所平成25年1月15日判決)。
したがって、事実誤認という観点からも、法解釈の誤りという観点からも、消費者契約法に関する相手方の反論は認められないものでした。
特定商取引法は、訪問販売等の特定の商取引について事業者を規制することで、消費者を保護するための法律です。
一定期間内であれば無条件で解約することができるクーリングオフの制度は、特定商取引法に定められています。
顧客Bは、A社との契約が特定商取引法の「電話勧誘販売」に該当するため、クーリングオフにより解約すると主張しました。
「電話勧誘販売」とは、①電話をかけて販売した場合のほか、②勧誘であることを告げずに電話をかけさせて販売した場合、③有利な条件で契約できると告げて電話をかけさせて販売した場合を含みます。
しかし、顧客Bは、自らA社のオンライン個別相談会に申込み、サービス内容の説明を受けた上で、申込みをしていましたので、「電話勧誘販売」にはあたりません。
また、特定商取引法は消費者契約法と同様に消費者保護を目的とする法律です。
そのため、顧客が「営業のために若しくは営業として締結する」契約には特定商取引法は適用されません(同法26条1項1号)。
したがって、消費者契約法と同様に、事実誤認という観点からも、法解釈の誤りという観点からも、特定商取引法に関する相手方の反論は認められないものでした。
クレームがあった場合、その顧客に不快感を与えたことは事実ですので、その点については謝罪しても差し支えありません(あまりにも理不尽な場合は謝罪の必要はありません)。
謝ったら責任を認めたことになると誤解されている方が多いのですが、謝っても法的に不利になることはありません。
謝罪した上で、その顧客の要求が法的な根拠に基づく正当なものか否かを十分に検討し、具体的な対応を決めます。
顧客が金銭を要求している場合、その顧客が要求の根拠を説明しなければなりません。
そのため、根拠が不明であれば、「説明が不十分だ」ということだけを伝えれば十分です。
こちらが支払わない理由を説明する必要はありません。
恐喝と言われることを避けるために、ひたすら「誠意をみせろ」と言い続ける顧客もいます。
その場合は、「誠意をみせて謝罪した」と伝えれば十分です。
それでも、解決しない場合は、弁護士に相談してください。
弁護士はしっかり理論武装して理屈で話をしますので、最終的に相手方が何も言えなくなることが多いです。
もちろん、法的に一定の金銭の支払いが必要である場合は、必要な限度で金銭を支払って和解するようにお勧めすることもあります。
本件では、最終的に顧客Bからの不当な返金要求を停止させることに成功しました。
弁護士が間に入って交渉を行ったため、A社は本業に専念することができました。
現時点で、A社のサービス内容を批判するようなインターネット上の書込みも見られません。
当事務所では、クレーム対応や不当な金銭要求への対応も行っております。
一例として以下のような業務を行っておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
当事務所のその他の実績は以下をご参照ください。
・賃料を支払わない賃借人への仮処分、訴訟提起により建物の明渡しを実現した事例
特商法については以下の記事もご参照ください。
find a way 法律事務所
弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明