【特商法】ちょっと厳し過ぎる?訪問購入規制の実態 - 大阪市で労使、飲食、M&Aに関する相談は「findaway法律事務所」へ

 

【特商法】ちょっと難し過ぎる?訪問購入規制の実態


 

こんにちは。弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

特定商取引法(以下「特商法」といいます)では、消費者保護のために、訪問販売や電話勧誘販売等の7種類の取引について厳しい規制が敷かれています。

 

特商法は年々厳しく改正されているだけでなく、規制の内容も非常に細かくなっております。

 

そのため、適法に営業しようとしているのに、法律を知らなかったせいで過度の不利益を被る事業者があとを絶ちません。

 

そのような事故を防ぐためには、特商法関連の注意喚起をコツコツ続けていくことが肝要です。

 

今回は、特商法の規制対象の中でもややマイナーな、訪問購入という取引類型について解説していきます。

 

 

 

1 訪問購入とは?

 

(1) 定義

 

訪問購入とは、①物品の購入を業として営む者が、②営業所等以外の場所で行う、③物品の購入です。

 

「営業所等」には、店舗だけでなく、屋台や露店等も含みます。

 

営業所の具体的な定義については、「特定商取引に関する法律等の施行について」という消費者庁の通達の1ページ目以降に詳しく記載されています。

ただ、あまりに定義が細か過ぎるので、ここからは、顧客の住居を訪問して商品を買取るタイプの訪問購入に限定して説明を進めます。

 

 

 

 

(2) 例外

 

訪問購入に特商法が適用されない場合は主に以下のとおりです。

 

① 営業のため、または営業として契約を締結するもの

 

② 海外にいる人に対する訪問購入

 

③ 事業者がその従業員に対して行う訪問購入

 

④ いわゆる御用聞き取引や常連取引

 

⑤ 引越しの際に消費者から出張買取を申し込んだ場合

 

特商法は消費者を保護する法律なので、①の場合に適用されないのは当然のことです。

 

②と⑤が例外とされているは、これを認めた方が消費者にとってメリットが大きいからです。

 

引越しの際に不用品をわざわざ店舗に持っていって売るのは大変ですからね。

 

とはいえ、引越しをする人に対して、事業者の側から「不用品売ってくれませんか?」と声をかけてしまうと、規制を受けることになってしまうので要注意です。

 

あくまで広告やチラシで宣伝するだけにしておきましょう。

 

また、訪問購入規制は、突然訪問して安く買いたたくような不意打ち的な取引を防ぐためのものなので、③や④のような関係性が既にできている間柄での取引にも適用されません

 

御用聞きとは、顧客台帳等に基づいて定期的に顧客の住居を巡回訪問して行う取引です。

 

常連取引とは、平たく言えば、過去に取引歴がある顧客との取引です(特定商取引に関する法律も一部を改正する法律の概要について9ページ目をご参照ください。)

 

また、消費者庁令和4年2月9日付通達別添8に列挙されている商品を対象とした訪問購入についても、規制は及びません。

 

ここに列挙されている商品に該当するか否かは非常に重要なので、訪問購入事業者の方は必ず目を通してください

 

 

 

 

2 規制の内容等

 

(1) 主な規制

 

ア クーリング・オフ

 

顧客は、法定書面を受け取ってから8日間以内(クーリング・オフ期間)であれば、クーリング・オフをすることによって無条件で商品を取り戻すことができます。

 

法定書面とは何か、どのような内容を記載しないといけないのかについては、当事務所記事「令和3年改正 特商法における書面交付義務とデジタル化について」をご参照ください。

訪問購入のクーリング・オフで特に問題になるのが、買い取った商品を早々に第三者に転売してしまった場合です。

 

訪問購入による物品であること、クーリング・オフされる物品であることを知らずに過失なく買い取った第三者に対しては、「クーリング・オフされたから商品を返してくれ」と主張することができません

 

そうなると、顧客に商品を返すことができず、クーリング・オフをした顧客との間で更なるトラブルに発展するおそれがあります。

 

とはいえ、そもそも訪問購入した商品を転売する際には、クーリング・オフされる可能性があることを第三者に通知することが義務付けられています。

 

通知さえしていれば、第三者が「クーリング・オフされるとは知らなかった!」と主張することはありませんので、転売の際にはしっかり書面でその旨を通知しておきましょう

 

なお、転売の際には、誰に転売するのか等の情報を顧客に通知することも義務付けられています。

 

 

 

 

イ 物品の引渡し拒絶権

 

顧客は、クーリング・オフ期間内であれば、売却した物品の引渡しを拒絶することができます。

 

これにより、すぐに転売する予定だったのに商品を渡してもらえないという事態が起こり得ます。

 

ただ、転売してから「やっぱり返してくれ」と言われるよりマシではあります。

 

訪問購入した商品を転売する際は、常にクーリング・オフ期間のことを計算に入れておきましょう。

 

なお、購入業者は、顧客に対し、引渡し拒絶権についての説明を事前にしておく義務があります。

 

 

 

 

ウ 損害賠償額の制限

 

顧客が契約を解除した場合、訪問購入事業者は顧客に対して損害賠償請求をすることができます。

 

しかし、金額には上限が低過ぎるため、ほとんど損害賠償の意味を成していません。

 

なお、クーリング・オフによって契約が解除された場合、上記の損害賠償請求すらできず、代金を返してもらうことしかできません。

 

 

 

 

エ 勧誘に関する規制

 

顧客の住居で「こういう商品を買わせて欲しい」といった勧誘をすることや、勧誘をしてよいか意思確認をすること禁止されています。

 

要するに飛び込み営業の全面禁止です。

 

顧客の側から「この物品を売りたいから見に来てくれ」と言ってきた場合に、ついでに他の物品について買取の勧誘をすることも禁止されています。

 

また、一度訪問購入を断った顧客に対し、再度勧誘をすることも禁止されています。

 

 

 

 

オ その他

 

書くまでもないことですが、顧客を脅したり、騙したり、居座って強引に物品を買取る等の行為は厳に禁止されています。

 

このような悪質な行為を行った場合、個人に対して「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」、会社に対してはなんと最大1億円の罰金が科されることがあります。

 

なお、こちらに騙すつもりがなくても、判断能力が低下している高齢者等から物品を買取った場合、刑事罰を受けるおそれがあります

本当に売るつもりがあるのか、商品の価値を理解しているのか等、顧客の意思確認はしっかりと行うようにしてください

 

 

 

 

(2) 何故これほど厳しいか

 

これらの規制に違反した場合、違反を是正するための指示が消費者庁から出され、従わなければ業務停止を命じられることがあります。

 

いきなり業務停止命令が出ることはまずありませんが、転売先への通知漏れのような軽微な違反であっても、条文上は業務停止命令の対象とされています。

 

店舗を持たず、広告を大々的に出せないような小規模の事業者は、もはや中古品の買取販売という業種を選択できないといっても過言ではありません。

 

訪問購入がこれほど厳しく規制されている理由は、「訪問」という営業形態を採用しているからという一事に尽きます。

 

特商法では、通信販売<電話勧誘販売<訪問販売・購入の順で規制が重くなっていきます

 

営業形態のみに着目しているので、良心的な価格で購入しているか否かといった実質面が考慮されることはありません

 

 

 

 

(3) どう対策するべきか

 

訪問購入規制の適用対象になった時点で、ほぼ勝ち目はありません

 

前述の定義の例外のいずれかに該当するように営業形態や取扱う商品を限定することが唯一にして最大の対策です。

 

なお、具体的にどのような営業形態や商品ならOKかについては、消費者庁に問合わせてもほとんど何も答えてくれません

 

消費者庁はガイドライン以外で独自の判断を示すことを極端に嫌うからです。

 

自社の営業形態が訪問購入の規制を受けるか否かについては弁護士に相談するのが最適です。

 

 

 

 

3 まとめ

 

飛び込み営業や電話、ZOOM等による営業は、ほんの少しスキームを変更しただけで命取りになることがあります。

 

特商法は比較的ガイドラインが充実している分野ではありますが、全ての営業形態や商品をカバーできているわけではありません。

 

少しでも「これ大丈夫かな…」と不安に思われたら、迷わず弁護士にご相談ください。

 

当事務所は、

 

・スキームの適法性リサーチ

・想定し得るトラブルの予防策についてのアドバイス

・契約書、利用規約の作成及びチェック

・顧客との交渉及び訴訟対応

 

等、様々な業務を取扱っております。

 

また、顧問先企業からの相談には、無料で応じております。

 

ご依頼を検討されている方は、お気軽にお問合せください。

 

特商法については以下の記事もご参照ください。

【特商法】令和3年改正 書面交付義務とデジタル化について

【特商法】電話勧誘販売を避けるべき3つの理由

【特商法】電話勧誘販売を避ける具体的方法

【特商法】クーリングオフ通知がオンライン提供OKに

【特商法】特定商取引とは何か?

 

 

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