【特商法】令和3年改正 特商法における書面交付義務とデジタル化について - 大阪市で労使、飲食、M&Aに関する相談は「findaway法律事務所」へ

 

【特商法】令和3年改正 書面交付義務とデジタル化について


 

こんにちは。弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

令和3年に特定商取引法(以下「特商法」といいます)が改正されました。

 

主な改正内容はこちらになります。

 

これらの改正内容の中でも、事業者の方が特に意識すべき改正が書面のデジタル化です。

 

何しろ特商法は書面に関する規制が非常に厳しい上に、改正によって追加されたチェック項目も煩雑です。

 

自分で一から調べて不備のない書面を作成するのはなかなか骨の折れる作業になります。

 

また、ちょっとした書面の不備で契約を取り消されるのであれば、事業の継続に対するモチベーションも低下します。

 

何より、特商法を知らなければ、気づかないうちに違法な書面を顧客に渡してしまい、契約を一方的に解除されたり、紛争に発展したりするというアクシデントがごく普通に起こり得ます。

 

今やクーリング・オフ等の強力な消費者保護制度は、YouTubeやSNS等で一般消費者に広く周知されつつあります。

 

特商法が年々規制を強めていく中、事業者だけが法律に無頓着なままだと、どんどん不利な立場に立たされてしまいます。

 

そこで、事業者の方のリスクや負担が軽減されるとともに、紛争を未然に防ぐことの一助になればと思い、書面に関する規制とデジタル化について解説させていただきます。

 

 

1 そもそも書面交付義務とは?

 

(1) 書面の種類

 

今回の改正でデジタル化される「書面」は、契約締結等に際して、事業者が消費者に渡さなければならないと特商法で義務付けられている書面(以下「交付書面」といいます)のことです。

 

交付書面には、申込書面契約書面の二種類があります。

 

申込書面は、顧客に申込みをしてもらうために渡す書面です。契約書面は、顧客と契約を締結する際に渡す書面です。

 

そして、顧客が申込みをした時から、申込書面は契約書面として扱われます。

 

使用する場面が異なるだけで、両者に大きな違いはありません。

 

 

 

 

(2) 交付義務がある業種

 

交付書面を渡す義務は、全ての業種に定められているわけではありません。

 

特商法上、交付義務が定められているのは、以下の6業種です。

 

①訪問販売(4条、5条)

営業所以外の場所(消費者の自宅等)で契約を締結する取引です。キャッチセールスやアポイントメントセールスを含みます。

 

②電話勧誘販売(18条、19条)

電話で勧誘をして申込みを受ける取引です。

 

③連鎖販売取引(37条)

いわゆるマルチ商法です。ネットワークビジネス、MLM、リレーションビジネス等、様々な呼称があります。

 

④特定継続的役務提供(42条)

長期・継続的なサービスを提供する取引。エステ、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービスの7種類が規制対象となっています。

 

⑤業務提供誘因販売取引(55条)

仕事を紹介する等の誘い文句で商品等を販売する取引です。

 

⑥訪問購入(58条の7、58条の8)

消費者の自宅等を訪問して物品を買い取る取引です。

 

()内は、その業種についての書面交付義務が定められている条文番号です。

 

 

 

 

(3) 記載事項

 

交付書面には一定の重要事項が記載されていなければなりません

 

何を記載すべきかは業種によって微妙に異なるので、紙面の都合上列挙することは控えますが、概ね以下のような事項を記載することが求められています。

 

・商品やサービスの種類

・商品やサービスの価格

・代金の支払時期及び支払方法

・商品の引渡し時期やサービスの開始時期

・クーリング・オフに関する事項

・契約解除に関する事項

・その他主務省令で定める型式、数量、製造業者、担当者氏名等の事項

 

必要事項を全て記載した書面は、例えば公益社団法人日本訪問販売協会に作成例に従うとこのようになります。

 

 

 

 

(4) 規制

 

交付書面を渡さなかったり必要事項の一部が欠けていたり虚偽の内容が書かれていた場合、六月以下の懲役又は百万円以下の罰金が科されることがあります(特商法71条1号)。

 

近年、クーリング・オフについての記載がない書面を渡したという理由で事業者が逮捕される事例が少数ながら発生しており、この点については特に注意が必要です。

 

また、クーリング・オフ期間の起算点(開始時期)は、契約が締結された時ではなく、不備がない交付書面が渡された時点です。

 

すなわち、不備のない交付書面を渡すまでは、消費者はいつでも無条件でクーリング・オフができるということになります。

 

 

 

 

2 改正によるデジタル化

 

令和3年の特商法改正によって、事業者が書面の交付を電磁的方法で行えるようになることが決定されました。

(令和5年6月15日までに施行)

 

この点についても様々なルールが設けられています。

 

(1) デジタル化の要件

 

書面をデータで交付するには、「申込みをした者」(申込書面の場合)か「購入者又は薬務の提供を受ける者」(契約書面の場合)の承諾が必要となります(改正特商法4条2項、5条3項)。

 

これは、一般的に消費者にとってはデータより紙媒体の方が書面に目を通しやすいことに配慮した要件であると思われます。

 

消費者からの承諾の取り方や真意に基づく承諾かどうかの判断基準は、消費者庁特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会で詳しくまとめられています。

 

第5回の「これまでの議論の整理」が特にわかりやすいです。

 

 

 

 

(2) フォント等の指定

 

デジタル化に伴い、内容面だけでなく、書面の形式面でも様々なルールが定められました。

 

例を挙げると、

 

・書面全体に関し8ポイント以上の文字を用いなければならない。

・クーリング・オフに関する事項等の一定の重要事項については赤枠で囲み、赤字で記載しなければならない。

 

といった規定(特商法施行規則7条の5第2項、3項等)があります。

 

要するに、重要な事項を極端に小さい字で書いたり、わかりにくい場所に記載しても、法的には記載したことにはならないということです。

 

とはいえ、これだけ懇切丁寧に記載しても、消費者が記載事項に目を通すとは限りません。

 

紙の契約書ですら読み飛ばす人が少なくないのですから、デジタルなら尚更でしょう。

 

こういった懸念に関しては、各都道府県の弁護士会日弁連も疑問を投げかける意見書を提出しています。

 

その他にも、契約書がPDFで送られてきた場合、クーリング・オフの起算点を、消費者が実際に契約書を読んだ日とするのか、メール等が到達した日とするのかという問題もあります。

 

 

 

 

3 おわりに

 

特商法は消費者保護及びトラブル防止の観点から、時代の移り変わりに応じて様々な改正を行ってきた法分野です。

 

そのため、消費者の方にとっては非常に心強い一方で、事業者にとっては非常に複雑で難解なものとなっております。

 

しかし、デジタル化はともかく、特商法を遵守していれば、多くの無用な紛争を避けられることは確かです

 

自社のビジネスモデルが適法か書面の不備がないか等のチェックはし過ぎてもし過ぎるということはありません。

 

弊所では以下のような業務を幅広く取り扱っています。

 

・特商法に関するトラブルの対応

・消費者契約法に関するトラブルの対応

・割賦販売法に関するトラブルの対応

・不当なクーリング・オフ主張の対応

・不当なチャージバック主張の対応

・広告表現チェックサービス

・契約書のリーガルチェック

・交渉や裁判による紛争解決

・消費者を装ったクレーマーの対応

 

また、私自身も大阪弁護士会の消費者委員会に所属しており、特商法については特に力を入れて研鑽しております。

 

今回は事業者側の立場から解説をしましたが、一般消費者の方からのご依頼も受け付けております。

 

気になることや不安を抱えておられる方は、どなたでも是非お気軽にお問合せください。

 

特商法については以下の記事もご参照ください。

【特商法】ちょっと難し過ぎる?訪問購入規制の実態

【特商法】電話勧誘販売を避けるべき3つの理由

【特商法】電話勧誘販売を避ける具体的方法

【特商法】クーリングオフ通知がオンライン提供OKに

【特商法】特定商取引とは何か?

 

 

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