従業員が逮捕されたら…
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
従業員が出勤せず、電話をしてもつながらない。
昼前に、警察から「従業員の●●さんが▲▲警察署で留置されています」
という連絡がありました。
従業員が犯罪行為を行った場合、たとえ業務外であっても、会社が社会的責任を追及されたり、被害者から損害賠償請求を受けたりすることがあります。
一方で、業務外であるため、会社が犯罪行為の有無や内容を把握することが難しいこともあります。
この記事では、従業員が逮捕された時の対応方法について解説します。
従業員が社内で横領等の犯罪行為を行った場合の対応については、以下の記事をご参照ください。
目次
従業員が逮捕された場合、当然ながら、出勤できません。
逮捕は最長72時間続きます。
その後、勾留されると、さらに最長20日間外に出ることができません。
犯罪行為の内容によっては、そのまま刑事裁判にかけられて、刑務所に入るということもあり得ます。
このように従業員が逮捕されると、業務が止まってしまうことになります。
逮捕された従業員とは、警察署や拘置所でアクリル板越しに話さなければなりません。
面会時間は制限されますし、犯罪行為の内容によっては、面会すら認められません。
従業員が逮捕、起訴されたこと、有罪判決を受けたことが報道されると、会社の評判が悪くなるリスク(レピュテーションリスク)があります。
犯罪行為に被害者がいる場合、業務外であったとしても、会社が使用者責任を問われるリスクがあります(民法715条1項)。
従業員の逮捕を会社が知るきっかけは、以下のパターンがあります。
・従業員本人からの連絡
・従業員の家族からの連絡
・刑事弁護人からの連絡
・警察からの連絡
・報道によって知る
従業員本人からの連絡は、逮捕される直前、警察の到着前に従業員が会社に電話するパターンです。警察が到着すると、電話をかけることは難しいです。
刑事弁護人は、従業員本人又は家族が依頼した弁護士です。
刑事事件を担当する弁護士は、「刑事弁護人」と呼ばれます。
逮捕された従業員が、「大阪弁護士会所属の荒武弁護士に連絡してほしい」と希望すると、警察署から事務所に電話がかかってきます。
緊急事態ですので、できるだけ警察署に会いに行きます(会うことを「接見」といいます)。重大犯罪で家族ですら会えないというケースでも、弁護士だけはすぐに逮捕された方に会うことができます。
報道によって知ることは、それだけの重大犯罪ということなので、想像したくありませんね。
会社としては、以下の方法によって、早急に、罪名、行為態様、従業員が認めているのか等の情報を得る必要があります。
①担当刑事に電話する
逮捕直後の段階では、十分な情報を開示してくれないことがあります。
②従業員に会いに行く
逮捕された方と会うことを接見といいます。
従業員と警察署で接見すれば情報を得られますが、接見禁止(刑事訴訟法81条)が付けられると、会うことができませんので、警察署に行く前に電話で確認しましょう。
③弁護人と連絡を取る
弁護人が選任されている場合、その弁護人と連絡を取りましょう。
ただし、弁護人の依頼者は従業員であり、会社ではありません。弁護人は守秘義務を負っているため、弁護活動への影響から、会社に情報を開示してくれないこともあります。
弁護人が選任されていない場合(選任されているかわからない場合)は、会社から弁護士に依頼して接見に行ってもらうこともあります。接見に行った弁護士が、警察署で従業員と話し、弁護人に選任してもらうのです。
情報を得たら、従業員がいつまで拘束されそうなのかを検討する必要があります。
・すぐに釈放されそうなのか
・10日間又は20日間の勾留までされそうなのか
・勾留中に起訴されて、その後も釈放されずに拘束が続く可能性があるのか
・刑事裁判の結果、実刑となる可能性があるのか
拘束期間の見込みに応じて、業務に関する代替要員の確保が必要かを検討します。
従業員が出勤しない場合、他の従業員から「●●さんが来ていません」という声が上がります。
この場合、プライバシー保護の必要から、開示する情報は必要最小限にとどめないといけません。具体的には、直属の上司のみに現在の状況を共有し、その他の従業員には、「事情により出勤できません」と、あいまいな情報を伝えるしかないと思われます。
重大犯罪のため、すでにニュース報道がなされているようなケースでは、社内はもちろん取引先を含む社外への公表も検討しなければなりません。
ただし、業務外の行為であり、会社も十分な情報を得られていない段階ですので、プライバシー保護の必要から、どの程度の情報を公表するか、慎重に判断しなければなりません。
業務外での行為について、会社が懲戒処分を行えるのかが問題になります。
一般的には、従業員の業務外の行為は、
・会社の事業に直接関係があるもの
・会社の社会的評価を棄損するもの
のみが懲戒処分の対象になると考えられています。
過去の裁判例では、
・鉄道会社の従業員が電車内で痴漢行為を行い、有罪判決を受けたケース(東京高判H.15.12.11)
・運送用車両の営業担当者が、自家用車で酒気帯び運転を行ったケース(東京地判H19.8.27)
で、懲戒解雇が有効と認められています。
ただし、懲戒処分=懲戒解雇ではないので、注意が必要です。
業務外での行為ですので、懲戒解雇で一発退場処分とするには、特に悪質であるという事情が必要です。
先ほど紹介した電車内で痴漢行為のケースでは、過去にも同様の痴漢行為を繰り返し、罰金刑を受けていたという事情がありました。
別の、鉄道会社の従業員の痴漢行為のケースでは、痴漢の悪質性が低かったこと、マスコミ報道がなかったこと、勤務態度に問題がなかったこと、示談を試みていたこと等を考慮して、諭旨解雇処分が無効とされました(東京地判H27.12.25)。
業務に関係があれば、懲戒解雇してもよいというわけではありません。
行為の悪質性、マスコミ報道の有無、日常の勤務態度、刑事事件の対応などを総合的に考慮して、懲戒処分の内容を検討しましょう。
また、従業員が犯行を否認している場合には、懲戒処分は結論が出るまで待つべきでしょう。
刑事裁判には、「無罪推定の原則」があります。
有罪判決が確定するまでは無罪なのです。
その段階で、会社が有罪を前提に懲戒処分をすることは避けるべきです。
解雇についても懲戒処分と同様、事情を総合的に考慮して、解雇が妥当なのかを判断する必要があります。
ただし、少人数で運営している会社では、業務の都合上、復帰を待つことが難しいこともあるでしょう。
たとえ従業員が犯行を否認している場合であっても、残念ではありますが、退職をお願いすること(退職勧奨)も検討せざるを得ません。
一般に、犯行を否認すると、証拠隠滅、逃亡のおそれがあるという理由で、拘束が長期化する傾向があります。何もしていないのに、仕事を失うことがあるのです。
これが日本の刑事裁判が「人質司法」と揶揄される理由です。
逮捕などで出勤していないのであれば、当然ですが、賃金を支払う必要はありません。
ノーワークノーペイ(働かざる者、賃金なし)の原則です。
有給休暇の使用を認めるかは、会社の判断で結構です。
犯罪行為の被害者から会社が損害賠償請求を受けることがあります(使用者責任)。
会社が使用者責任を負うかどうかは、犯罪行為が「事業の執行につき」行われたかによります(民法715条1項)。
判例上、会社の事業の執行そのものでなくても、行為を外から観察して、あたかも会社の職務の範囲内の行為と言える場合には、会社は使用者責任を負うとされています(外形標準説)。
先ほどまでの例を見ると、痴漢行為は外から観察しても、会社の職務の範囲内とは言えないため、会社が使用者責任を負うことはないでしょう。
一方、従業員が私用で社用車を運転していて交通事故を起こしたケースにおいて、業務外の行為にもかかわらず、会社が使用者責任を負うとされました(最判S37.11.8)。
社用車であるため、外から見れば職務の範囲内と判断されたのですね。
従業員がお金を持っていなさそうな場合、会社が使用者責任を負うか微妙なケースであっても、被害者が会社に損害賠償を求めてくることがあります。
被害者から依頼を受けた弁護士としては、被害弁償を受けるための当然の判断です。
請求を受けた場合、会社としては、本当に使用者責任を負うようなケースなのか、慎重に検討しましょう。
従業員が逮捕された場合、業務が止まってしまう他にも様々なリスクが生じます。
会社としては、最初の対応を間違えないよう、すぐにでも、専門知識を持ち、逮捕された従業員と接見することができる弁護士に相談すべきです。
当事務所では、以下のようなサポートを提供しています。
・従業員逮捕時の情報収集のサポート
・逮捕された従業員との接見
・懲戒処分通知書、解雇理由証明書等の文書作成
・退職勧奨の代行
・訴訟対応(原告側、被告側)
・労働紛争の対応(事業者側)
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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明