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退職代行は非弁行為なのか?


 

弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

厚生労働省の雇用動向調査によると、以下のとおり、離職者数は増加傾向にあります。

 

令和3年 717万2500人

令和4年 765万6700人

 

離職者数の増加を受けて、ここ数年、労働者に代わって会社に退職を伝える「退職代行」を行う事業者が現れています。

 

顧問先から、「退職代行業者から連絡があった」という相談を受けることがあります。

それに加えて、最近は、「退職代行業を行いたい」という新規のご相談を受けることが増えています。

ご相談いただく方は、「退職代行は非弁行為なのか?」ということを心配されています。

 

この記事では、非弁行為とは何か、そして、「退職代行は非弁行為なのか?」について、裁判所の判断を踏まえて、解説いたします。

 

1 非弁行為とは?

 

当たり前ですが、医師でなければ医業をしてはなりません(医師法17条)。

しかし、弁護士でなければ法律事務をしてはいけない(弁護士法72条)ということは意外と知られていません。

 

「非弁」とは、「非弁護士」の略で、弁護士法72条に違反して、法律事務を行うことや、法律事務を行う者を指して用いられる言葉です。

 

 

 

 

2 弁護士法72条は何を禁止しているのか?

 

弁護士でない者が、報酬目的で、反復継続して法律事務を取り扱うと「非弁行為」に該当し、弁護士法72条違反になります。

 

分解すると以下が「非弁行為」の要件です。

 

①弁護士でないこと

②報酬目的であること

③法律事務を取り扱うこと

④反復継続として行うこと

 

例えば、弁護士資格がないのに、報酬をもらって売掛金の回収をしたり、建物の立退交渉をすることが典型的な「非弁行為」に該当します。

他にも、インターネット投稿の削除請求の代行に弁護士法72条違反を認めた裁判例があります(東京地判平29.2.20)。

 

「非弁行為」ではないかと議論されるものに、交通事故の示談代行があります。

交通事故を起こすと保険会社が出てきて被害者と交渉してくれますが、あれは「非弁行為」ではありません。

法令上、保険会社は被害者に対して直接支払義務を負うことがあるので、保険会社の理屈としては、「自分のことを自分で交渉している」ということになります。

 

弁護士法72条に違反すると、2年以下の懲役または300万円以下の罰金という刑罰が定められています。

 

 

 

 

3 退職代行は非弁行為なのか?

 

⑴ 結論

 

さて、本題の「退職代行は非弁行為なのか?」についてです。

 

結論から言うと、「退職代行=非弁行為」というわけではありません。

 

退職代行のサービスとして、何を行うのかによって、「非弁行為」か否かが決まります。

 

 

 

⑵ 弁護士法72条との関係

 

①弁護士でないこと

②報酬目的であること

③法律事務を取り扱うこと

④反復継続として行うこと

のうち、退職代行を事業として行う場合、①②④を満たすことは明らかです。

 

問題は、「③法律事務を取り扱うこと」に該当するかどうかです。

 

 

 

⑶ 裁判所の見解

 

2つの判決を紹介します。

 

1つ目は、東京地方裁判所の令和2年1月9日の判決です。

 

事件の概要は以下のとおりです。

 

・退職代行業者Yは5万円で、Xさんから退職代行の依頼を受けた。

・Yが会社に連絡してXの退職の意思を伝えた。

・会社は、X本人か親族からの申告以外は受け付けられないと回答した。

・Xは現在も会社に在籍している。

・Xは、Yに対し、5万円と慰謝料50万円を請求した。

 

 

この事件について、裁判所は、Xの請求を認めませんでした。

 

以下、裁判所の判断を引用します。

 

「被告(Y)がしたのは、原告(X)の依頼に基づき、勤務先に原告の退職意思を伝えたことにとどまり、それを上回る交渉をしたと認めるに足りる証拠はなく…、退職意思の伝達が言語私法に違反して無効であると認めることは出来ず…」

 

などと述べて、Yの行為が「非弁行為」ではないと判断しました。

 

つまり、裁判所は、勤務先に退職意思を伝えるにとどまり、それを上回る交渉をしなければ、「非弁行為」ではないと考えているのです。

 

 

2つ目は、東京地方裁判所の令和2年2月3日の判決です。

 

事件の概要は以下の通りです。

 

・退職代行業者Yは5万円で、Xさんから退職代行の依頼を受けた。

・Yが会社に連絡してXの退職の意思を伝えた。

・会社は、Xとの契約は、雇用契約ではなく、業務委託契約であると回答した。

・Yは、Xに「会社との認識の相違を解消してほしい」という趣旨のメールを送った。

・Xは弁護士に委任して、退職した。

・Xは、Yに対し、5万円と慰謝料50万円を請求した。

 

 

この事件についても、裁判所は、Xの請求を認めませんでした。

 

以下、「非弁行為」になるかどうかの裁判所の基準の部分を引用します。

 

「…法的紛議が顕在化している必要まではないが、紛議が生じる抽象的なおそれや可能性があるというだけでは足りず、当該事案において、法的紛議が生じることがほぼ不可避であるといえるような事実関係が存在することが必要である」

 

どうすればこんなにわかりにくい文章を書けるのか…。

 

要するに、裁判所は、退職代行業者が会社に退職意思を伝える時点で、

①法的紛議が顕在化している

→「非弁行為」にあたる

②法的紛議が生じることがほぼ不可避であるといえるような事実関係が存在する

→「非弁行為」にあたる

③紛議が生じる抽象的なおそれや可能性がある

→「非弁行為」にあたらない

と説明しています。

 

さらに、具体的に例を挙げると、

①賃金の未払いについて、会社ともめている状態

→「非弁行為」にあたる

②は、肩書だけ部長にされて、会社が残業代を支払ってくれないという状態

→「非弁行為」にあたる

③は、社長がくせのある人物で、すんなり退職させてくれるかどうかという状態

→「非弁行為」にあたらない

 

というイメージです。

 

さらに、この判決では、裁判官の事実認定の中に以下のような部分があります。

 

「被告(Y)のホームページによれば、退職日必要な連絡を代行するとされているから、退職の意思を伝達することのほか、退職に伴って生じる付随的な連絡(私物の郵送依頼や、離職票の送付依頼等)を行うことが契約の内容になっていた…」

 

つまり、裁判所は、

退職代行業者が、退職意思の伝達に加えて、私物の郵送依頼や離職票の送付依頼等の付随的な連絡も行っても「非弁行為」ではない

と考えていることが読み取れます。

 

 

以上の2つの裁判例を元に、退職代行を行う場合に、何をどこまでやるのか、事前にルールを定めておきましょう。

 

 

実は、ここで紹介した2つの裁判例に登場する退職代行業者Yは同じ会社です。

さらに、Xの代理人に就いた弁護士も同じ弁護士です。

 

X代理人弁護士とYは同じテーマで2つの裁判を争い、2つともYが勝利したのです。

 

Yは、非弁行為にならないように「引き際」を適切に見極めていました。

顧客にとっては少しドライな対応でしたが、法令遵守の観点からすると、Yの対応は参考になります。

 

 

 

 

4 まとめ

 

現状、退職代行には「非弁行為」のイメージが付きまとっていますが、サービス内容を練れば、適法に事業を行うことが可能です。

 

 

弁護士は、弁護士法72条に違反する者(または違反すると疑うに足りる相当な理由のある者)と提携すること(非弁提携)を禁止されています(弁護士職務基本規程11条)。

 

「提携」には、「自己の名義を利用させ」る行為も含まれます。

具体的には、非弁行為を行う事業者のWEBサイトに、「●●法律事務所監修」、「顧問弁護士●●」と表示させることも禁止されています。

 

そうすると、退職代行業者と顧問契約することは、弁護士にとって非弁提携のリスクがあります。

 

しかし、前述のとおり、退職代行は適法に事業を行うことが可能です。

 

顧問弁護士にはクライアントに法的な助言をする役割が求められ、クライアントが法令を遵守して事業を遂行しているかをチェックすることも、当然、顧問弁護士の仕事です。

 

退職代行など、意図せず法令違反に踏み込んでしまいそうな事業こそ、弁護士が関わるべきです。

つまり、退職代行業者と顧問契約をした場合、弁護士としては、退職代行業者のサービスが「非弁行為」に及ぶことを全力で阻止しなければならないのです。

 

 

当事務所では、事業者の方に以下のようなサポートを行っています。

 

・新規事業の適法性判断

・各種契約書の作成、リーガルチェック

・利用規約の作成、リーガルチェック

・法律顧問業務

 

クライアントの新規事業の適法性判断に関する助言は、顧問契約の範囲内で行っております。

 

顧問弁護士の選び方や使い方については以下の記事もご参照ください。

 

顧問弁護士の選び方・使い方

 

 

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