【実績】横領発覚から回収までのフルコース - 大阪市で労使、飲食、M&Aに関する相談は「findaway法律事務所」へ

 

【実績】横領発覚から回収までのフルコース


弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

当事務所は、労使関係法務(企業側)に注力しています。

企業のご依頼により、未払賃金請求、不当解雇の訴え、ハラスメント行為による損害賠償請求など、(元)従業員側の請求に対応することが多いです。

 

しかし、企業から、横領など従業員の不正行為に関する相談をお受けすることもあります。

 

従業員が不正行為によって会社に損害を与えていたことが発覚した時に何が起こるのか?

 

この記事では、当事務所で実際に扱った事件を時系列で追い、横領発覚から回収までをフルコースで解説します。

 

 

 

1 横領発覚

 

中古ブランド品の買取販売事業を行うA社から、「従業員の横領が発覚したため、相談したい」との連絡がありました。

 

横領をしていた従業員Bは、まだA社に在籍しており、横領がばれていることに気付いていません。

つまり、Bが在籍する限り、A社の被害がさらに拡大する危険があるのです。

そのため、連絡をいただいたその日のうちに緊急の相談を実施しました。

 

A社の社長から、Bの横領の手口や発覚した経緯をヒアリングしました。

Bは色々な手口で会社のお金や商品を横領(窃盗)していましたが、主な手口は以下のようなものでした。

 

① 顧客が買い取って欲しい商品を持ち込む

② Bが顧客に「4万円で買い取る」と提案する

③ 社内保管用の買取伝票には「買取金額:5万円」と記載する

④ 会社の金庫から5万円を取り出し、顧客には4万円を渡し、1万円はポケットに入れる

 

私は、防犯カメラの映像を見て、連日に及ぶBの犯行状況を確認しました。

Bの手元を拡大すると、買取伝票に記載された買取金額と、Bが顧客に渡す金額の不一致が確認できました。

 

 

 

 

2 自白の採取

 

⑴ Bが自白した経緯

 

まずは、Bの自白を採取し、A社に対する被害弁償を約束させる必要があります。

Bが犯行を認めざるを得ないよう、私は買取日や金額をまとめた資料を作成し、Bとの面談に備えた台本を作成しました。

その後、社長とともにBが勤務する店舗を訪問し、Bと面談しました。

 

具体的なやり取りは以下のようなものでした。

 

弁:(24万円と書いてある買取伝票を示し)このお客さんにはいくら渡しましたか?

B:22万円です。

弁:なぜ、24万円と書いてあるのですか?

B:間違えました。

弁:本当に間違えたんですね。今なら訂正して構いませんよ。

B:(沈黙)

弁:(4万円と書いてある別の買取伝票を示し)このお客さんにはいくら渡しましたか?

B:4万円です。

弁:(防犯カメラの映像を見せて)お客さんに渡しているお金に五千円札が含まれていますよ。

B:(口元を押さえて絶句する)

弁:(8万円と書いてある別の買取伝票を示し)このお客さんにはいくら渡しましたか?

B:覚えていません。買取伝票のとおりだと思います。

弁:(防犯カメラの映像を見せて)枚数を数える手元をよく見てください。お札は6枚に見えますよ。

B:(天を仰ぐ)

弁:もっと映像を見ますか?

B:もうわかりました。お察しのとおりです。

 

というように、Bは犯行を認めました。

 

 

 

 

⑵ 自白後の書類作成

 

私は、Bに以下の内容を伝えました。

 

・調査したところ、あなたがA社から横領した金額は少なくとも500万円はある。

・あなたが500万円を弁償するのであれば、それ以上はさかのぼって調べない。

・この場で、A社に対して500万円の債務を負っていることを認めるのであれば、刑事的な処罰までは求めないつもりである。

 

Bは涙を流しながら、A社の指示に従うと言いました。

 

その上で、準備しておいた債務承認弁済契約書の条項を読み上げた上、Bに署名捺印させました。

 

債務承認弁済契約書には以下の条項を盛り込んでいました。

 

① A社に対して500万円の支払義務があることを認める

② 弁済方法については1ヵ月以内にA社と協議する

③ 住所、電話番号、勤務先を変更する場合には事前にA社に申告する

④ A社が求めた場合には公正証書の作成に応じる

⑤ 500万円全額を弁済すれば、A社は刑事告訴しない

 

③は、将来的にBの財産を差し押さえることを見据えた条項です。

④は、公正証書を作成しておけば、裁判手続を経ずに財産の差押えをすることができるために入れた条項です。

⑤は、Bに500万円の弁済を動機づけるための条項です。

 

さらに、Bから退職届を受け取りました。

 

 

 

 

⑶ 自白の採取についての弁護士の見解

 

もしBが犯行を否認すると、A社は裁判所で1つ1つの横領行為を立証しなければなりません。

防犯カメラの映像があるので、それも不可能ではありませんが、かなりの手間と時間がかかります。

 

A社が速やかな被害弁償を受けるためには、Bの自白を採取する必要がありました。

 

確実に自白を採取するためには徹底的な事前準備が必要です。

具体的には、資料を丁寧に収集し、読み込んでおく必要があります。

 

横領行為を行った者は不合理な言い訳をするものです。

 

相手方の言い訳を想定して、どのように切り返すかの台本を考えておく必要があります。

また、相手方に考える時間を与えないよう、資料と台本を頭に叩き込んでおく必要があります。

そうすれば、相手方は「何もかもばれている」と疑心暗鬼に陥り、自滅していきます。

 

 

相手方が不合理な言い訳をしても、すぐには指摘しません。

 

十分に言い訳させた上で、それと矛盾する客観的資料を示し、袋小路に追い込んでいくのです。

 

 

弁護士は法廷で尋問をする機会が多く、相手方に不合理な言い訳をさせて袋小路に追い込むことに慣れています。

自白を採取するためには、特に反対尋問の経験が役に立ちます。

 

 

相手方が犯行を自白すれば、すぐにそれを証拠化する必要があります。

そのためには、債務承認弁済契約書を交わすことが有効です。

 

後になって「脅されて無理やり書かされた」などと言われないよう、相手方が署名捺印する状況を録音、録画しておきましょう。

 

 

 

 

3 仮差押え

 

⑴ 自白後の経過

 

その後、Bから3回に分けて90万円の振込みがありました。

しかし、Bは電話に出ないことが多く、1ヵ月以内に弁済方法を協議するという約束を守りませんでした。

公正証書の作成にも応じる気配がありませんでした。

 

そのため、Bが加入していた生命保険の解約返戻金を仮差押えすることにしました。

 

 

 

 

⑵ 仮差押えの実行

 

仮差押えとは、債務者の財産を仮に差し押さえるための裁判手続です。

 

原則として、債権者は、債務者の財産を差し押さえるために訴訟を起こさなくてはなりません。しかし、訴訟は1年以上かかることもあり、その間に債務者が財産を隠してしまうことがあります。

本件で言うと、Bが差押えを恐れて、生命保険を解約してしまうことが考えられます。

 

そのため、訴訟を起こす前に裁判所に仮差押えを申し立て、債務者の財産を凍結してしまうのです。

 

A社は、Bの年末調整を行っていたので、Bが加入する生命保険の内容を把握していました。

 

仮差押えはスピードが命です。

当事務所が裁判所に仮差押命令を申し立て、その2日後には裁判所が仮差押決定を出し、その翌日、生命保険会社はBの解約返戻金を凍結しました。

 

 

 

 

4 訴訟提起

 

仮差押えにより解約返戻金が凍結されたことを知っても、Bはこちらからの連絡に応答しようとしませんでした。

 

そのため、Bに対して訴訟提起することにしました。

仮差押えに成功していたので、じっくり訴訟の準備を進めることができました。

 

当事務所が裁判所に訴状を提出してから約1ヵ月半後に第1回の口頭弁論期日(裁判を開催する日)が指定されました。

 

私が法廷に行くと、被告席にはBが座っていました。

Bは「恩を仇で返すことになり申し訳ない」と謝罪し、こちらの主張については争いませんでした。しかし、Bは、具体的な弁済方法について何も語りませんでした。

 

それから1週間後、こちらの主張を全面的に認める内容の判決が下されました。

 

 

 

 

5 強制執行による回収

 

判決が確定したため、仮差押えした解約返戻金について、強制執行を行いました。

解約返戻金約90万円を回収しましたが、残り約320万円が未回収の状態です。

 

強制執行をするためには、債務者の財産を調査して見つけ出さなければなりません。

債務者の財産が見つからなければ、判決は絵に描いた餅です。

どのように財産を調査して見つけ出すかが、弁護士の腕の見せ所なのです。

 

Bが見る可能性があるため、ここには記載できませんが、次の策は打ってあります。

 

 

 

 

6 まとめ

 

従業員の不正行為が発覚した後に何が起こるかは、相手方のあることなので全く予想できません。

 

・そもそも不正行為を認めない

・素直に認めて親族が被害弁償する

・素直に認めて公正証書に従って分割弁済する

・認めたにもかかわらず、逃げようとする

 

色々なパターンがありますが、その段階に応じてベストな対応を検討するしかありません。

そして、ベストな対応を決定したら、スピーディーに実行しなければなりません。

 

今回の事件では、Bが不正行為を認めたものの、公正証書の作成には非協力的でした。

そこで、仮差押え、訴訟、強制執行と裁判手続を進めました。

裁判手続の中でも仮差押えは迅速性が要求されますので、専門的知見に基づく決断力が重要となります。

 

 

当事務所は、労使関係法務に注力しています。

労働法に関すること以外に、不正行為を行った従業員に対して損害賠償請求をして回収を図るという事件もあります。

 

従業員の不正行為に関するお悩みがございましたら、問合せフォームよりお気軽にご連絡ください。

 

その他、労使関係法務に関する【実績】については、以下の記事をご参照ください。

 

飲食店の残業代に関する紛争について、勝訴的和解をした事例

 

 

 

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