【特商法】電話勧誘販売を避けるべき3つの理由
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
この記事では、特定商取引法(特商法)の電話勧誘販売という取引類型について解説します。
自身の事業が『特商法の適用を受けるか』、『特商法上のどの類型に属するのか』を気にされたことはありますか?
『あまり考えたことがない』、『何となく通信販売にあたると思っている』、という方もおられると思います。
しかし、事業がどの取引類型にあたるかという問題は、取引リスクに重大な影響を与えます。
特に、電話勧誘販売と通信販売では、ほとんど同じ取引形態であるにもかかわらず、受ける規制に天と地ほどの差があります。
電話勧誘販売に対する規制は非常に厳しいので、電話勧誘販売にならないように事業を行うほうがよいです。
今回は、電話勧誘販売とみなされるポイントはどこか、電話勧誘販売を避けるべき理由は何かについて、解説いたします。
目次
電話勧誘販売とは、
① 事業者が消費者に電話をかけ、または政令で定める方法(後述)により電話をかけさせ
② その電話によって勧誘し、契約を締結する
取引形態のことです。
電話を使って勧誘していること以外は、通信販売とほとんど違いはありません。
イメージとしては、通信販売の中で、電話を用いた勧誘をするものを特に厳しく取り締まっているという感じです。
電話勧誘の定義は、基本的には事業者の側から消費者に電話をかけて勧誘することを想定しています。
しかし、消費者の側から電話をかけてきた場合でも「政令で定める方法」によって電話をかけさせた場合は電話勧誘にあたります。
「政令で定める方法」には、
・勧誘目的であることを告げずに電話をかけさせるパターン
・電話をすれば他の者より著しく有利な条件で契約を締結できるかのように装って電話をかけさせるパターン
の2通りがあります。
これらのいずれかに該当する場合で、
・電話、郵便、信書便、電報、FAX、その他電磁的方法
・ビラまたはパンフレットの配布
によって電話をかけるよう求めることが、「政令で定める方法により電話をかけさせ」る行為にあたるとされています。
ちなみに、「電磁的方法」にはLINEは含まれますが、YouTubeは含まれません。
テレビCMやYouTube動画のような一般視聴者に向けての宣伝は、特商法が規制する個別の勧誘にはあたらないからです。
正直微妙な理屈だと思いますが…。
電話勧誘とみなされると特に厳しい取締りを受けます。
なので、電話勧誘とみなされないようにした方がよいです。
対策は簡単です。
まずこちらから電話をかけないことです。
次に、電話をかけさせる場合に、①勧誘の意図があることを隠さず、②電話をすることによる優遇措置を設けないことです。
つまり、「有料プランのご提案をさせていただきます」等の案内をあらかじめ告知しつつ、「お電話をいただいた方だけの特典!」等の誘い文句をしないことです。
ここさえ守っていれば、こちらから電話をかけない限り、電話勧誘とみなされることはまずないでしょう。
ただし、固定電話やスマホだけでなく、ZOOM、LINE電話、GoogleMeet等、通話機能を有するあらゆる手段が「電話」に含まれるという点にも注意が必要です。
また、内閣府のデジタル化にともなう消費者問題ワーキング・グループ13頁目以下では、ウェビナー等のWEB会議システムによる勧誘について厳しい追及がされています。
有識者らから、WEB会議の部屋を立ち上げる行為をした時点で電話勧誘にあたるとすべきではないかとの意見も出ています。
WEB会議の立ち上げを電話勧誘とみなす裁判例や処分例は、現状では存在しませんが、楽観せずに今後の動向を注視する必要があります。
電話勧誘販売を避けるべき理由は3つです。
通信販売と異なり、電話勧誘販売では消費者によるクーリング・オフが認められています。
クーリング・オフは、契約書面を交付した日から8日以内であれば無条件で契約を解除できるという非常に強力な制度です。
通信販売にも法定返品権という類似の制度がありますが、法定返品権は商品の性質や特約による制限を受けるので、クーリング・オフほど万能ではありません。
クーリング・オフが適用されることはそれ自体大きなデメリットです。
電話勧誘販売では、契約の際に、一定の形式を満たした契約書面を消費者に交付することが義務付けられています。
この契約書面の複雑さについては、弊所記事「令和3年改正 特商法における書面交付義務とデジタル化について」をご参照ください。
また、クーリング・オフが可能な期間は契約書面を交付した日から8日間なので、契約書面を交付しなければ永久にクーリング・オフが可能になってしまいます。
これらの点も大きなデメリットです。
細々とした規制が多いのでまとめて紹介しますが、とにかく全体的に規制が厳しいです。
主な規制としては、
・消費者から契約を解除された際の損害賠償額が制限されている
・代表者と勧誘を行う者の氏名を表示する義務がある
・一度契約を断られたら勧誘を継続したり再勧誘をすることができない
・過量販売(通常の使用量を超えてまとめて販売すること)を理由とする解除が認められている
等があります。
通信販売にも、広告規制等の独自のルールがありますが、電話勧誘販売の規制に比べると緩やかです。
これらのデメリットを重く受け止めるかどうかは業種によって様々だと思いますが、少なくとも動画データ等のデジタルコンテンツを販売する場合は電話勧誘販売を避けた方がよいです。
通信販売ではデジタルコンテンツの無条件返品は認められていませんが、電話勧誘販売では頻繁にクーリング・オフが発生します。
特に、高額コンテンツの販売で、コンテンツを提供したのに代金を取り返されるということが頻繁に起これば死活問題となります。
電話勧誘とみなされないための対策については前述しましたが、特商法の解釈は短いスパンで変わっていきます。
電話やZOOM等で商品の説明をしている事業者の方は、本当にそのやり方が電話勧誘にあたらないのかを一度弁護士に確認した方がよいでしょう。
少しの運用の変更で、電話勧誘販売を避けることもできます。
今回は、一般的には電話勧誘販売を避けた方がよいという考えに基づいて解説をいたしました。
とはいえ、消費者の属性に合わせたセールストークをすることには、商品購入に対する納得度を高める側面もあります。
顧客との対話を経た方が、どの商品を薦めるべきかという判断もしやすいです。
また、事業者としては、高額な商品であればあるほど、その商品が本当にその顧客に必要なのかを対話を通じて見極めたいと思うものです。
そのような観点からすると、無味乾燥な文字のやり取りよりも、電話による勧誘を行った方がよい業種はたくさんあります。
どのような商品にどのような販売形態が相応しいかは、詳細に事業内容を検討しなければわかりません。
当事務所では、
・販売スキームの適法性についての法律相談
・どのような販売形態を採用するべきかのコンサルティング
・特商法上の義務についての法的整備
・契約書面や特商法に基づく表示の作成
等、幅広い業務を取扱っております。
ご自身の事業内容に沿った販売フローを作りたい方、現在の販売形態に不安を抱えている方は、お気軽にお問合せください。
特商法については以下の記事もご参照ください。
find a way法律事務所
弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明