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配置転換の活用と課題


 

弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

「能力を発揮しているな~」と実感しながら働けることはとても気持ちいいものですね。

このような従業員が大勢いれば、きっと会社の業績も向上するでしょう。

 

会社は、従業員が能力を発揮していると実感できる環境を構築するため、絶えず工夫を続けなければなりません。

そうすれば、生産性向上や離職率低下に結びつけることができるでしょう。

 

この記事では、従業員による能力・個性の発揮を促進する手段の1つ、配転について解説します。

 

1 配転とは何か

 

配転とは、短期間の出張を除く、職務内容や勤務場所の変更のことをいいます。

配転のうち、転居を伴うものを転勤といいます。

 

会社が従業員に配転を命じるためには、就業規則や雇用契約書に何らかの根拠が必要です。

 

例えば、就業規則には、以下のような規定が含まれていることが多いです。

 

 

第●条(異動)

会社は、社員に対し、業務の都合により異動(職務内容又は勤務場所の変更、転勤等)を命ずることがある。

 

 

就業規則にこのようなルールが盛り込まれていれば、基本的には、会社は、従業員に配転を命じることができます。

 

また、雇用契約書には以下のような記載があることが多いです。

 

 

就業の場所 : 会社の本店所在地及び会社の指定する場所

従事すべき業務 : 経理業務及び会社が指示する業務

 

 

この場合にも、就業場所や業務内容について会社が何かしらの指示をすることが予定されていますので、基本的には、会社は、従業員に配転を命じることができます。

 

 

 

 

2 配転を命じられない2つの場合

 

就業規則や雇用契約書の一般的な雛型では、会社が従業員に配転を命じることができるようになっていることが多いです。

ただし、以下の⑴⑵の場合には、会社が従業員に配転を命じることができません。

 

 

⑴ 職種や勤務地を限定する合意がある場合

 

雇用契約書で職種や勤務地が限定されている場合、会社は配転を命じることができません。

例えば、雇用契約書に以下のような記載がある場合には、会社はその従業員に配転を命じることができません。

 

 

就業の場所 : find a way 大阪店

従事すべき業務 : 接客業務、商品陳列業務、清掃業務

 

 

この場合に、従業員の同意なく、find a way 京都店への勤務を命じたり、商品開発業務へ異動を命じたりすることはできません。

 

雇用契約書に書いていなかったとしても、「当然、合意しているだろう」というような場合(黙示の合意がある場合)にも、会社は配転を命じることができません。

近所のコンビニでアルバイトしていたのに、他府県への転勤を命じられたら困りますよね。このような場合、たとえ雇用契約書に書いていなかったとしても、勤務地限定の合意があったということになります。

 

正社員よりもパート社員のほうが職種や勤務地限定の合意が認められやすい傾向にあります。

 

また、弁護士、医師、大学教員など、専門性の高い技能を要する職種は職種限定の合意が認められやすい傾向にあります。例えば、弁護士資格を有して勤務している従業員に対し、事務員への職種変更を命じることは難しいということです。

 

 

 

 

⑵ 配転命令が権利濫用である場合

 

就業規則や雇用契約書に配転命令の根拠があり、職種・勤務地限定の合意も存在しない場合、会社には従業員に対して配転を命じる権利、すなわち、配転命令権があります。

 

しかし、具体的にみて、配転命令が権利の濫用であるという場合には会社は従業員に配転を命じることはできません。

 

「権利の濫用」とは、「権利があってもさすがにやりすぎ」という意味です。

 

配転命令権の濫用については、東亜ペイント事件(最判昭和61.7.14)という有名な判例があります。

 

東亜ペイント事件によると、

 

① 配転について業務上の必要性が存在しない場合

② 配転命令が不当な動機・目的をもってなされた場合

③ 労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合

 

には、配転命令は無効となります。

 

配転命令が無効ということは、従業員は配転に従わずにこれまでとおりの勤務地でこれまでとおりの仕事を続ければ、お給料をもらえるということを意味します。

 

以下、配転命令が権利の濫用となるそれぞれの場合についてみていきましょう。

 

 

 

 

3 配転命令が権利の濫用になる具体的場面

 

⑴ 業務上の必要性が存在しない場合

 

必要のない配転を命じることは嫌がらせ以外の何でもありません。

配転には、最低限の業務上の必要性が求められます。

 

ただし、配転には高度な必要性が要求されるものではありません。

 

労働力の適正配置や業務運営の円滑化など、会社が当然に考えるべき観点から配転を決めたのであれば、必要性がないと判断されることはないのです。

 

以前の記事で紹介しましたが、オフィス内でのマスク着用に応じない従業員を配転することも、もちろん可能です。

 

 

 

⑵ 配転命令が不当な動機・目的をもってなされた場合

 

本人の嫌がる仕事をさせて退職に追い込むための配転などは、不当な動機・目的をもってなされたとして、権利の濫用となります。

 

ただし、不当な動機・目的は、内心のことですので、極端なことをしなければ権利の濫用と言われることはありません。

誰もが嫌がるけれど誰かがやらないといけない仕事を頼んだくらいでは、不当な動機・目的と言われることはないでしょう。

 

過去の裁判例には、会社の方針に反抗する労働組合幹部に遠方への転勤を命じたケースについて、①高齢従業員の異例の異動、②業務上の必要性も疑問、③会社と従業員との関係性などを考慮して、不当な動機・目的をもってなされた認定したものがあります(朝日火災海上保険事件・東京地決平成4.6.23)。

 

その他、退職勧奨に応じない従業員に対する配転命令(フジシール事件・大阪地判平成12.8.28)や、社内のコンプライアンス室に通報した従業員に対する配転命令(オリンパス事件・東京高判平成23.8.1)について、不当な動機・目的を認定したものがあります。

 

 

 

 

⑶ 労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合

 

長いですが、要は、従業員にとって配転のデメリットが大きすぎる場合ということです。

「著しく超える不利益」なので、配転によって多少の不利益が生じることはやむを得ないという考えが前提にあります。

 

職種変更よりも勤務地の変更を伴う配転(転勤)のほうが従業員の生活への影響が大きいため、従業員の不利益が問題になるケースが多いです。

 

代表的なものが、転勤によって子育てや家族の介護に影響が生じるというケースです。

このケースでは、裁判所が配転を命じられた従業員の家族構成や生活状況等を具体的に考えた上で、不利益の程度を判断します。

 

これまでの例では、2人の子が病気で、両親も体調が悪い中で、家業の農業をみなければならないという状況における帯広から札幌への転勤について、配転命令を無効としたものなどがあります(北海道コカコーラボトリング事件・札幌地決平成9.7.23)。

 

裁判例をみると、家族そろっての引越しも単身赴任もどちらも難しいという状況+αの事情があって、初めて配転命令が無効となる傾向にあります。

単に、子どもが小さく単身赴任はしたくないという程度では、裁判所はなかなか配転命令を無効とは判断してくれません。

 

また、能力・経験を活かせない業務への配転命令が、従業員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとして無効とされるケースもあります。

 

①システム構築のプロジェクトリーダーを倉庫係に配転した事例(東京地判平成22.2.8)、②大学の准教授を授業担当から事務担当に配転した事例(学校法人原田学園事件・岡山地判平成29.3.28)、③長年にわたって運行管理業務や配車業務に従事していた従業員を倉庫部門に配転した事例(安藤運輸事件・名古屋高判令和3.1.20)などにおいて、配転命令が無効とされています。

 

 

 

 

4 配転を命じる方法

 

配転命令が権利の濫用にあたるかを裁判所が判断するにあたっては、会社が配転命令までにどのような手続をとったかも考慮されます。

配転命令は以下の手順で進めます。

 

 

⑴ 事情聴取

 

従業員に配転を考えていることを説明し、事情聴取を行います。

職種変更を行う場合は、現在の業務内容、やりがい、上司・同僚との関係等を聴取します。

勤務地の変更を伴う場合は、これらに加え、家庭の事情も聴取します。

 

 

 

 

⑵ 説明義務の履行

 

事情聴取の内容を踏まえ、さらに配転を命じるかを検討します。

 

その上で、従業員と面談し、以下のような内容を説明します。

 

① 配転の理由

② 配転後の勤務地・職種、配転後の労働条件(手当の加算などがあるか)

③ 配転時期(十分な準備期間があるか)

④ 従業員の将来のキャリアデザイン

 

 

③配転時期はいつ頃に設定すればよいでしょうか。

例えば、転勤の場合は、引越し等の準備が必要になりますので、数ヶ月後に設定する必要があるでしょう。

従業員の希望を聞きつつ、引越しに伴う諸手続きのための休暇も付与しましょう。

 

一方、同じオフィス内での職種の変更程度であれば、面談の翌日からの配転を命じてもよいでしょう。

 

 

 

 

⑶ 配転命令通知書

 

配転命令は、配転命令通知書を作成して、文書により通知しましょう。

口頭の命令ではトラブルになることがありますし、裁判等で配転について詳しく説明を受けていないと主張されるかもしれません。

 

配転命令通知書には以下の情報を載せておきましょう。

 

① 就業規則や雇用契約書上の配転の根拠

② 配転後の勤務地・職種

③ 配転時期

④ 配転後の労働条件

⑤ 配転の理由・必要性

 

これらを載せておけば、会社は説明義務を尽くしたという証拠になります

 

配転命令通知書には受領確認のサインをする欄を設け、従業員にサインしてもらった上で写しを会社に残しておきましょう。

 

 

 

 

5 従業員が配転命令に従わない場合

 

会社が説明義務を尽くしても、従業員がやっぱり嫌だというのであれば、配転命令の撤回も検討します。

しかし、労働力の適正配置や業務運営の円滑化を総合的に考えた結果、どうしても配転が必要だということはあるでしょうし、1人のわがままを受け入れることはできないという事情もあるでしょう。

 

そのため、契約上も法律上も会社の配転命令は有効だと考えられる場合、会社としては毅然と対応する必要があります。

 

例えば、従業員が転勤に応じない場合、転勤先のオフィスに出勤しない場合は欠勤として扱い、転勤前のオフィスに出勤しても立入りを拒否します。

そうすると、従業員は会社の業務命令に従わずに欠勤を続けていることになりますので、最終的には雇用契約を終わらせることも検討します。

 

 

しかし、従業員がこのような頑なな態度に出ている時点で解雇をしても泥沼の紛争に陥ることは目に見えています。こうならないよう、会社は配転の必要性、重要性を丁寧に従業員に説明しなければなりません。

 

 

 

 

6 日本の企業は配転が多い

 

配転が多いことは日本企業の人事管理の大きな特徴の1つです。

 

現状、日本企業は終身雇用が前提となっているため、様々な現場を経験させてゼネラリストを育成すればつぶしが利くだろうという考えが根っこにあると思われます。

 

しかし、我が国においても転職が増加しており、働き方に関する考え方が徐々に変わりつつあります。

 

ある会社のゼネラリストが他社で役に立つとは限りませんので(むしろスペシャリストのほうが役に立つように思われます)、今後、配転に関する日本企業の運用や裁判所の考え方にも変化が生じるかもしれません。

また、リモートワークが浸透する社会においては、地域社会との分断をもたらす転勤の必要性にも大いに疑問があります。

 

これまで、転勤が会社への忠誠心を図る踏絵となっていましたが、今後は「転勤はいやなので、辞めます」という方が増えてくるかもしれません。

 

 

 

 

7 当事務所のサポート内容

 

会社は、解雇や賃金等のトラブルに比べて、配転を軽く考えがちです。

しかし、配転は従業員の人生や会社に対するロイヤリティを大いに左右するものであることをよく理解し、慎重に進める必要があります。

 

当事務所では、配転に関し、以下のような段階的なサポートを行っております。

スムーズに配転を進めたい、配転に関して従業員とトラブルになっているなどの場合は紛争が長期化する前にお早めにご相談ください。

 

・配転を見据えた就業規則、雇用契約書の作成

・配転命令の有効性の確認(就業規則、雇用契約書、限定合意の有無、権利濫用性の調査)

・配転命令前の事情聴取、従業員説明等への立会い、助言

・配転命令通知書の作成

・配転命令後のトラブルの対応(交渉、労働審判、訴訟)

 

 

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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明