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従業員との雇用契約の終わらせ方


皆様こんにちは。

弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

会社を作り、一人で仕事が回らなくなると、誰かに手伝ってもらわないといけません。

一人でできないから、みんなで仕事をします。

雇用契約の始まりです。

 

誰を、どのような条件で雇うかは、自分で決めなければなりません。

そして、雇った方との対話を通じて、新しい関係性を構築していかなければなりません。

雇った方=従業員は、「他者」であり、見ている風景が違います。

みんなで仕事をするためには、「わかりあえなさ」を解消するために全力を注ぐ必要があります。

 

全力を注いでも、どうしても「わかりあえなさ」が解消できない場合、雇用契約の終わりを考えます。

 

この記事では、従業員のタイプを整理した上で、雇用契約の終わらせ方について説明します。

 

1 従業員のタイプ

 

(1)能力が足りない

 

「能力不足なので、辞めてもらいたい」という相談を受けることがあります。

 

面接して雇用を決断したのですから、まずは、能力を発揮してもらうための方法を十分に考え、あの手この手で指導する必要があります。新卒採用など、将来性を期待して採用した場合はなおさらです。

 

それでもどうしてもダメだった場合には、雇用契約の終わりを考え始めます。

 

能力不足は、雇用契約上の債務不履行にあたります。

そのため、会社が十分に指導・教育をしても能力不足が解消されない場合には雇用契約を解除することができます。

いわゆる、普通解雇です。

 

ただし、普通解雇は、①合理的な理由②社会的相当性がなければ、無効です(労働契約法16条)。

②社会的相当性とは、解雇やむなしと言えるほどの事情のことです。

 

 

(2)協調性が足りない

 

「協調性がなくて、職場の雰囲気が悪くなるので、辞めてもらいたい」という相談もよくあります。

 

しかし、面接でその従業員の個性を見極め、雇用を決断したはずです。

異分子を絶えず排除していては、職場に多様性を生むことはできません。

そのため、まずは、従業員の個性を受け止め、どうすれば組織に一体感を醸成できるかを十分に考え、何かしらの指導・教育を行わなければなりません。

 

それでもどうしてもダメだった場合には、雇用契約の終わりを考え始めます。

 

従業員は雇用契約上、求められている労務の提供さえすればよいというわけではありません。

判例においても、従業員は、会社の秩序を遵守する義務を負うとされています(最高裁判所昭和52年12月13日判決-富士重工原水禁事情聴取事件)。

従業員の「仕事はちゃんとしているじゃないか」という反論は認められないのです。

 

つまり、従業員の協調性が著しく不足しており、会社の秩序が維持できないような場合には、雇用契約上の債務不履行にあたります。

そのため、能力不足と同様に、会社の十分な指導・教育を経ても従業員が変わらない場合は、契約を解除することができるのです。

 

 

(3)私生活でトラブルが相次ぐ

 

就業時間外に何をするかは従業員の自由ですので、会社が干渉することはできません。

 

しかし、前に述べたとおり、従業員は会社の秩序を遵守する義務を負っています。

そのため、従業員の私生活上の行為が、会社の信用や社会的地位に悪影響を及ぼす場合には、例外的に干渉することができることもあります。

 

どのような場合に干渉することができるかは、また別の記事で説明します。

 

 

 

 

2 雇用契約が終わるまでの流れ

 

(1)指導・教育

 

採用面接で選んだ従業員です。

対話を通じて、新しい関係性を構築し、「わかりあえなさ」を解消するために全力を注ぎます。

みんなで仕事をする会社の一員になってもらうため、指導・教育を十分に行います(上から目線な表現ではありますが)。

 

以下のような方法は、パワハラとの指摘を受けかねませんので、やめましょう。

 

・人格否定をする

・大声で指導する

・長時間指導する

・他の従業員の前で指導する

 

最近では、従業員がスマホで録音していることもよくありますので、どんな反論を受けても冷静さを失わないように注意しましょう。

 

裁判になった場合の立証を考え、いつ、どこで、誰が、どのような指導・教育を行ったのかは記録化しておきましょう。

具体的には、指導内容を記載した書面を作成し、従業員に提示した上で、受領のサインを求めましょう。

自らの非を認める内容のサインを求めるのではなく、あくまで受領のサインを求めるのがポイントです。

受領のサインすらしないことは、それ自体が協調性欠如の証明になります。

従業員の言い分を聞き取った内容も書面化し、そこにもサインをしてもらいましょう。

 

 

(2)懲戒処分

 

指導・教育を行っても、改善がみられない場合、懲戒処分を行います。

 

懲戒処分には、戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などの種類があります。

 

懲戒処分は、就業規則等の根拠がなければ、行うことができません。

また、懲戒処分には社会的相当性、つまり、違反行為に対する処分が妥当であることが必要です(労働契約法15条)。

 

就業規則に懲戒処分に関する規定は設けてあるが、実際には使ったことがないという会社も多いのではないでしょうか。

 

しかし、単なる指導と懲戒処分とでは、重みが違います。

従業員の自覚を促すという意味もありますし、最終的に普通解雇した場合でも、懲戒処分をしても改善されなかったという事情は解雇の有効性を肯定する事情となります。

そのため、懲戒処分をためらうべきではありません。

 

 

(3)配置転換

 

適材適所という言葉がありますが、環境を変えてみると従業員の才能が花開くこともあります。

指導・教育をしても改善がない場合、配置転換をして様子をみましょう。

 

懲戒処分と同様に、配置転換をしても改善されなかったという事情は解雇の有効性を肯定する事情となります。

 

配置転換は、従業員にどんな仕事を頼むかということなので、原則として会社に広い裁量が認められます。

 

ただし、以下のような、配置転換は違法になりますので、注意しましょう(最高裁判所昭和61年7月14日判決-東亜ペイント事件)。

 

・業務上の必要性がない

(嫌がらせのために無意味な作業をさせる等)

・動機や目的が不当である

(退職に追い込むためにあえて本人が苦手な仕事をさせる等)

・従業員が著しい不利益を負う

(育児・介護の必要性を無視して、遠方への転勤を命じる等)

 

また、近年、能力や経験を活かすことができない配置転換を違法とする判決も出ています(名古屋高等裁判所令和3年1月20日判決-安藤運輸事件)。

転勤を伴う配置転換については、その必要性をより吟味すべきです。人材の多様性、流動性が重視される現在において、終身雇用を前提にゼネラリストを育成するという方針自体が疑問であるためです。

 

配置転換については、あらためて別の記事でも取り上げたいと思います。

 

 

(4)退職勧奨

 

能力不足、協調性不足等で普通解雇をする前に、まずは退職勧奨を行うことをお勧めします。

 

退職勧奨とは、退職を勧め、自発的な退職届の提出を求めることです。

退職するかどうかはあくまで従業員の自由ですので、退職を断られることもあります。

 

一度、退職勧奨をすると後戻りが難しくなりますので、結局、普通解雇をするというケースもよくあります。

それでも、事前に退職勧奨を行ったことは、普通解雇時の有効性を肯定する事情となり得ますので、普通解雇前に退職勧奨を行ったほうがよいです。

 

後述しますが、普通解雇にはリスクがあります。

そのため、多少の退職金を支払ってでも、自発的に退職してもらうほうがよいです。

退職勧奨の場合、会社都合退職となりますので、すぐに雇用保険(失業保険)の給付を受けることができます。

退職勧奨の際は、この点も伝えるのがよいでしょう。

 

 

(5)普通解雇

 

指導・教育→懲戒処分→配置転換→退職勧奨と重ねても、やっぱり無理だったという場合は、いよいよ普通解雇をして、会社から一方的に雇用契約を終わらせます。

 

ただし、普通解雇には、解雇権濫用法理というルールがあり、①合理的な理由と②社会的相当性がなければ、裁判で無効とされてしまいます(労働契約法16条)。

いわゆる、不当解雇と言われるものです。

 

普通解雇が無効ということは、会社が解雇を通知した後も、その従業員がずっと在籍しているということを意味します。

つまり、裁判を1年して、普通解雇が無効になった場合、その従業員は会社に復帰します。

その上、さかのぼって1年分の給料を支払わないといけないということになります。

会社へのインパクトは計り知れません。

 

このような理由もあって、普通解雇の判断は慎重に行うべきです。

 

普通解雇が無効にならないよう、①合理的な理由と②社会的相当性について、事前に弁護士に相談して、準備を重ねることを強くお勧めします。

 

①合理的な理由とは、簡単に言うと、能力不足、協調性不足のことです。

 

ただし、社長が「能力、協調性が足りないと思いました。」というだけでは、①合理的な理由として認められません。

能力不足、協調性不足が、雇用契約の継続を期待できないほど重大だと言える必要があります。

そのため、裁判では、問題となるエピソードをいかに積み重ねるかが重要になります。

ここで、証拠化しておいた指導・教育や、懲戒処分・配置転換の通知等が活かせるわけです。

 

②社会的相当性の判断は、①合理的な理由の判断と重複するところもあります。

会社が普通解雇を避けるために、配置転換、退職勧奨等を行ったものの、最終的にやむを得ず普通解雇に至ったという経緯をしっかりと説明できるかが重要になります。

 

 

 

 

3 まとめ

 

雇用契約を終わらせようとする場合、従業員のタイプを踏まえ、普通解雇までの流れをしっかり計画しておかなければなりません。

 

そして、計画しつつも、普通解雇をできるだけ避ける方向で考えます。

 

ハリウッド映画のように、感情のまま「解雇だ!明日から来なくていい!」と叫ぶのは、日本では非常にリスキーです。

 

期待して採用した従業員が思うようなパフォーマンスを上げてくれないことは大きなストレスだと思います。

そのような時は、その従業員が「おぎゃー」と産声を上げながら取り上げられた場面を想像しましょう。

赤ん坊であるその従業員を受け取ったお母さんは涙を流しています。

きっとその従業員も、家族の大きな期待を受けてこの世に生まれてきたはずです。

会社もその従業員に期待し、十分な指導・教育を行い、みんなで一緒に仕事をできるように導きましょう。

 

それでも雇用の維持が難しいときは、まずは、専門家にご相談ください。

むしろ、従業員についての悩みが生じた時点で、専門家にご相談いただくのがベターです。

 

「解雇した従業員の弁護士から内容証明が届きました。」というご相談も多いのですが、その段階だとできることに限界があります。

 

当事務所では、以下のようなサポートを行っております。

・従業員の採用、賃金、評価、能力開発、モチベーション向上に関する助言

・組織開発に関する助言、組織開発プログラムの実践

・指導・教育等の証拠化に関する文書作成

・懲戒処分通知書、配転命令通知書等の文書作成

・退職勧奨の立会い

・普通解雇通知書の作成

・解雇に関する裁判手続(労働審判、訴訟)

 

従業員に関する悩みをお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。