【特商法】特定商取引とは何か?
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
特定商取引法(正式名称は「特定商取引に関する法律」ですが、以下「特商法」といいます)をご存知でしょうか。
特商法は、「特定商取引」と呼ばれる類型の取引について、様々なルールを定めることで、消費者を保護するための法律です。
つまり、事業者にとって、自身のビジネスが「特定商取引」に該当する場合、特商法のルールを守らないといけないということを意味します。
ところが、自身のビジネスが「特定商取引」に該当することに気付いていない方が、たまにおられます。
消費者庁も、特定商取引ガイドというWEBサイトを設置して、情報提供をしていますが、特商法は難解過ぎて、読みこなすのが困難です。
特定商取引は以下の7種類です。
① 訪問販売
② 電話勧誘販売
③ 訪問購入
④ 通信販売
⑤ 連鎖販売
⑥ 業務提供誘因販売
⑦ 特定継続的役務提供
この記事では、特定商取引の類型を解説します。
特定商取引に該当するからといっても全く慌てる必要はありません。
特商法のルールを守りながら、ビジネスを展開すればよいのです。
目次
訪問販売は、顧客の自宅や勤務先に訪問して、商品(サービスを含みます)を販売することです。
以下のようなパターンも訪問販売に含まれます。
・街頭で呼び止めて、オフィスや喫茶店に同行させた顧客に商品を販売する場合(キャッチセールス)
・販売する目的を隠してオフィスや喫茶店に呼び出し、顧客に商品を販売する場合(販売目的隠匿型アポイントメントセールス)
・「あなただけ特別有利な条件で商品を購入できる」と告げて、オフィスや喫茶店に呼び出し、顧客に商品を販売する場合(有利条件型アポイントメントセールス)
アポイントメントセールスで呼び出す方法は、訪問、電話、メール、SNSなども含まれます。
例えば、LINEの登録者に対して、
———————————————————————————————
スペシャルオファー 先着10名様限定!!
本日中に●●梅田店にお越しいただいた方のみ対象!!
———————————————————————————————
などと送って、店舗に来た方と契約する場合、訪問販売に該当します。
「訪問」という言葉とギャップがあるので、それが訪問販売に該当することに気付かない事業者がおられるのです。
①訪問販売、②電話勧誘販売、③訪問購入の3つは、消費者が自分で求めていないのに、突然、勧誘を受ける類型です。
消費者の冷静な判断が難しい状況で契約させるため、特定商取引とされています。
電話勧誘販売は、電話をかけたり、一定の方法で電話をかけさせたりして、商品を販売することです。
電話をかけさせる一定の方法とは、
・販売する目的を隠して電話をかけさせる方法
・「あなただけ特別有利です」と告げて、電話をかけさせる方法
です。
訪問販売の、アポイントメントセールスの2パターンと同じですね。
「電話をかけさせる」とありますが、商品を案内する方法は電話に限られません。
ZOOM等のオンラインミーティングも「電話」に含まれます。
つまり、「ZOOMのミーティングに申し込ませること」ことも、「電話をかけさせる」に含まれるのです。
整理すると、以下のような販売方法は電話勧誘販売にあたります。
いわゆる「テレアポ」によって電話をかけて商品を販売する方法は電話勧誘販売です。
後から郵便などで申込みを受ける場合も含まれます。
通信販売のCMなどでよく見かける、
「本日、午後10時まで50%オフ!今すぐお電話ください」
といった販売方法も電話勧誘販売です。
また、最近よく見かける、
・XやInstagramで情報発信して、LINE登録に誘導する
・LINEで無料のZOOM相談に誘導する
・ZOOM相談で有料の商品を販売する
という販売方法も電話勧誘販売です。
電話勧誘販売を避けて、比較的ルールがゆるい通信販売にする方法は以下の記事をご参照ください。
訪問購入は、訪問販売の反対で、事業者が顧客の自宅や勤務先に訪問して、商品を購入することです。
事業者のオフィス以外の場所で購入する場合、全て訪問購入となりますので、喫茶店に呼出して購入する場合も訪問購入です。
ただし、一定の物品を購入対象とする場合は対象外とされています。
・自動車(二輪車は除く)
・家具
・書籍
などです(他にもあります)。
四輪自動車は対象外だけどバイクは対象など、ルールが複雑なので、訪問購入を行う事業者の方は事前に調べておきましょう。
一般的に、リサイクルショップを営む場合、特商法の規制はありません。
しかし、サービスを拡大して、顧客宅を訪問して買取りを行う場合には、訪問購入として特商法のルールが適用されます。
通信販売は、カタログ、テレビ、新聞、雑誌、インターネット等で広告し、電話、郵便、インターネット等により申込みを受けて商品を販売する方法です。
これはイメージがわきやすいですね。
消費者が対面で商品や販売条件を確認できないので、消費者を保護するために、特定商取引とされています。
①訪問販売、②電話勧誘販売、③訪問購入と異なり、不意打ち的な要素がないため、特商法のルールが比較的ゆるめです。
連鎖販売は、「利益が得られるよ」と販売員になるように勧誘し、さらに次の販売員を勧誘させる形で、販売員を連鎖的に拡大していく取引のことです。
一般に「マルチ商法」と呼ばれるものです。
マルチ商法は販売する商品が存在します。
これに対し、「ねずみ講」は、商品がなく単に金銭の受渡しだけを目的にしており、無限連鎖講防止法という法律で全面的に禁止されています。
⑤連鎖販売、⑥業務提供誘因販売の2つは、「利益を得られるよ」という甘いメッセージで勧誘して、商品を販売するものですので、特定商取引として規制されています。
やってはいけないというわけではありません。
特商法のルールを守りながらやる必要があります。
業務提供誘因販売は、「仕事を提供するよ」と勧誘し、「その仕事に必要だから」と商品を購入させる取引のことです。
例えば、以下のような取引です。
・清掃業務を紹介するので、有料の研修を受講してください
・パソコン入力業務をあっせんするので、パソコン講座を受講してください
・リール投稿を外注するので、インスタマーケティング講座を受講してください
・手数料を支払うので、浄水器を購入してクチコミを投稿してください(モニター商法)
電話勧誘をして、上記の例のような提案をすると、②電話勧誘販売と⑥業務提供誘因販売の二重の規制を受けることになります。
特定継続的役務提供とは、長期間の継続的な契約であって、かつ高額の費用がかかる取引として、法律で指定された取引のことです。
以下の7種類が「特定継続的役務」に指定されています。
A エステティックサロン
B 美容医療サービス
C 語学学校
D 家庭教師
E 学習塾
F パソコン教室
G 結婚相手紹介サービス
いずれも5万円超の費用がかかる場合が規制対象です。
また、A、Bは契約期間1ヵ月超の場合、C~Gは契約期間2ヵ月超の場合が規制対象です。
D家庭教師、E学習塾は、小中高生の指導のみが対象です。
社会人のリスキリングのための、プログラミング教室などは対象ではありません。
Fパソコン教室は、パソコンの操作方法に関する教室のみが対象です。
パソコンを使って、SNS運用の指導をするといった教室は対象ではありません。
特定商取引に該当すれば、どうなるのか。
今回の記事では概要のみを解説します。
消費者に対する適切な情報提供を目的とした規制で、一例として、以下のようなものがあります。
・氏名の表示義務
・書面交付義務
・不当な勧誘の禁止
・虚偽・誇大な広告の禁止
取引によって規制内容が異なります。
違反すれば指示、業務停止等の行政処分がなされるほか、違反行為によっては刑事罰が課されます。
取引によって規制内容が異なりますが、最も注意すべきはクーリングオフです。
クーリングオフとは、一定の期間内であれば無条件で消費者が契約を解除できる権利のことです。
クーリングオフ期間は、特定商取引の類型によって、8日間の場合と20日間の場合があります。
クーリングオフ期間の日数カウントが開始するのは、事業者が消費者に対して「クーリングオフできますよ」という書面を交付したタイミングです。
つまり、書面を交付しなければ、クーリングオフ期間の日数カウントが開始せず、いつまでもクーリングオフができるということになります。
そのため、自身のビジネスが「特定商取引」に該当することに気付いていないと、大変なことになるのです。
例えば、10年前に商品を購入した顧客から、
「あの取引は電話勧誘販売です。クーリングオフ書面をもらっていないので、クーリングオフします。」
という通知を受け取ることがあり得るということなのです。
クーリングオフ書面に不備があったことを理由として、契約から4年5ヵ月後のクーリングオフを認めた裁判例も存在します(東京簡易裁判所 平成24年2月1日判決)。
なお、特定商取引の類型によっては、顧客が事業者の場合はクーリングオフが適用されません。
事業者によるクーリングオフを断念させた事例は以下をご参照ください。
この記事では、特商法で定められた「特定商取引」の類型を解説しました。
弁護士であっても、「特定商取引」に該当するのか、どの類型に該当するのかの判断は、非常に困難です。
正確に判断するためには、商品の販売方法を丁寧に伺い、法令や行政通達の調査・分析が必要です。
そして、この判断を誤ると、思わぬクーリングオフや、行政処分(刑事罰)を受けることがあります。
この記事をご覧になった事業者の方は、あらためて自社の販売方法をチェックしてください。
そして、「特定商取引の7類型に似ているかも?」と少しでも思った方は、是非、弁護士に特定商取引の該当性をチェックしてもらってください。
当事務所では、
・販売スキームの適法性についての法律相談
・どのような販売形態を採用するべきかのコンサルティング
・特商法上の義務についての法的整備
・契約書面や特商法に基づく表示の作成
・クーリングオフ通知の対応
などなど、特商法に関する業務を取り扱っております。
弁護士が就いていない本人によるクーリングオフ通知の対応(法的に拒否が可能な場合)は、顧問契約の範囲内で行っています。
自社の販売方法に特商法が適用されるか気になる方は、問合せフォームまたは事務所LINEアカウントよりお気軽にお問い合わせください。
特商法については以下の記事もご参照ください。
Instagramではわかりやすい法律の解説と美味しいもの・弁護士の日常について発信しています。
find a way 法律事務所
弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明