【特商法】クーリングオフ通知がオンライン提供OKに
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
特定商取引法(特商法)の改正によって、令和5年6月1日から、電話勧誘販売等で交付する契約書面を電磁的方法により提供することができるようになりました!
端的に言いますと、
これまでは、「クーリングオフできますよ」という通知を紙で送らないといけなかったのが、メール添付でもOKになったということです。
それにしても、特商法は読みにくく、消費者庁のガイドラインも難解です…。
ということで、この記事では、クーリングオフ通知のオンライン提供について、おおまかな内容を解説します。
目次
クーリングオフとは、事業者側に何の落ち度がなくても、一定期間、契約の解消(申込みの撤回または契約解除)を認める制度です。
クーリングオフは、特商法という法律に定められています。
特商法上、クーリングオフがある取引は、以下の6つです。
・訪問販売
・電話勧誘販売
・訪問購入
・特定継続的役務提供
・連鎖販売取引
・業務提供誘因販売取引
今回の記事では、当事務所に特に問合せの多い電話勧誘販売をモデルに解説します。
事業者は、顧客に以下の2種類の書面(まとめて「書面」といいます)を交付しなければなりません。
① 申込みの内容を記載した書面(申込書面)
② 契約内容を明らかにする書面(契約書面)
書面に記載すべきことも特商法で定められていますが、基本的に両方とも同じです。
書面の記載事項で重要なのが、クーリングオフです。
クーリングオフができる期間は、書面の交付から8日間です。
つまり、書面を交付しなければ、顧客はいつまでもクーリングオフできることになります。
また、書面の記載内容が特商法の求める要件を満たしていない場合も、顧客はいつまでもクーリングオフできます。
そのため、これからやろうとしている事業が、
・訪問販売
・電話勧誘販売
・訪問購入
・特定継続的役務提供
・連鎖販売取引
・業務提供誘因販売取引
に該当していないか事業を始める前に十分にチェックしておく必要があります。
そして、該当しているのであれば、書面をきっちり作成しておく必要があります。
ここまでが従来の特商法に関する情報です。
今回の法改正で、書面を紙で交付するのではなく、顧客の承諾を得れば、書面に記載すべき情報を、電磁的方法により提供できることになりました。
電磁的方法とは、メールやLINEのことです。
ただ、ここでも特商法はきめ細かいルールを設けています。
そのため、「顧客の承諾を得た!」、「電磁的方法により提供した!」と思っていても、ルールに沿っていなければ、いつまでもクーリングオフできるという事態が生じてしまうのです。
とりあえず、法令の用語をそのまま記載しますが、小難しいので、後ほどかみ砕いて順番に説明します。
① 電磁的方法の種類及び内容の提示、承諾の取得に当たっての説明
② 承諾の取得に当たっての適合性等の確認、第三者への提供の確認
③ 承諾の手続
④ 承諾を得たことを証する書面の交付
⑤ 電磁的方法による提供
⑥ 第三者への契約書面等に記載すべき事項の送信
⑦ 到達の確認
各ステップについて、法令で細かいルールが定められています。
事業者が実際に使用する電磁的方法を提示します。
「メールにpdfファイルを添付して送ります」
「LINEで送信します」
「当社のサイトからダウンロードしてください」
などと伝えます。
複数の選択肢がある場合は全部伝えないといけません。
また、例えば、pdfファイルで提供する場合、使用する規格や、ファイルを開くのに必要なバージョン(●●バージョンX.X以上など)まで正確に伝えなければなりません。
承諾を得るにあたって、以下の4つを説明しなければなりません。
① 承諾がない場合、原則どおり書面で交付しますよ。
② メールでお送りする情報は、本来は書面に記載して交付するものですので、●●様にとって重要なものですよ。
③ メールでお送りする場合、●●様のパソコンにファイルが保存された日から、クーリングオフできる期間が開始し、8日を経過するとクーリングオフできなくなりますよ。
④ パソコン、スマホの画面が4.5インチ以上で、ご自身で操作できる方に限り、メールで提供いたしますよ。
しかも、これらの情報を消費者が理解できるように平易な表現を用いて説明しなければなりません。
「適合性」は、法律でよく出てくる言葉です。
顧客の属性に応じて、適切な取引をしましょうという考え方を「適合性原則」といいます。
今回の特商法改正で言うと、高齢などの理由で、パソコン、スマホの操作ができなさそうな方が顧客の場合、電磁的方法ではなく、原則どおり書面で交付するといった対応が無難です。
ここで確認を求められるのは以下の点です。
① 顧客がパソコン、スマホを自分で操作できるか
② 顧客がメール(LINE)を日常的に使用しており、情報を受信できるか
③ 顧客のパソコン等のセキュリティが安全か
④ 第三者(家族等)への情報提供も希望するか
③については、メーカーのサポートが終了しているような古いバージョンでなければOKです。
ようやく、顧客から承諾をもらうステップです。
承諾をもらう方法として、法令にいくつかの方法が挙げられています。
① 顧客からメールを送ってもらう
② 顧客に必要事項を記入させて承諾ボタンをクリックしてもらう
③ DVDやUSBに承諾する旨を記録して顧客から受け取る
おすすめは②の方法です。
当事務所では、Googleフォームなどで、アンケートを作成して、4の承諾前の説明、5の適合性の確認、6の承諾まで、まとめて行うことをおすすめしています。
例えば、情報提供をメールで行う場合、以下のようなアンケート項目を盛り込みます。
① 氏名
② 利用中のパソコン、タブレット、スマホの機種
③ 利用中のOS
④ メールを日常的に使用しているか(はい/いいえ)
⑤ メールアドレス
⑥ パソコン等の操作を問題なく行えるか(はい/いいえ)
⑦ パソコン等を操作してメールを送受信できるか(はい/いいえ)
⑧ 情報をメールで送信することを承諾するか
※「はい/いいえ」ではなく、「承諾します」と入力してもらう
⑨ 第三者への情報提供を希望するか(はい/いいえ)
⑩ 希望する場合、第三者のメールアドレス
顧客からメールによる情報提供について承諾を得たことを証する書面を郵送します。
そうです、結局、郵送するのです…。
内容は簡潔で結構です。
例えば、以下のような内容になります。
「お客様が、契約書面の交付に代えて、指定のメールアドレスに当社からメールを送信することにより、契約書面の記載事項の提供を受けることについて承諾されたため、当社は●●を販売する契約について、お客様にメール送信することとしました。」
7の書面の到着後、ようやくメールで情報を提供します。
提供の際は、顧客が明瞭に読むことができるようにしなければなりません。
文字が小さすぎても、大きすぎてもいけませんが、おかしな書き方をしなければ問題になることはありません。
最後に、情報を記載したメールが届いたことを確認しなければなりません。
ファイルが確実に閲覧できる状態に置かれたことを確認するため、記載事項の一部を回答してもらうなどの確認が必要です。
「●ページの第●条をコピー&ペーストして、メール送信してください」などと依頼し、到達したことを証明できるようにしておきましょう。
はい、以上のステップを踏めば、これまで書面で交付していたクーリングオフの通知を、メール送信でできるようになります。
準備にかなり手間がかかりますし、結局、郵送しなければならない文書があります。
導入するメリットがあるかも含めて、要検討ですね。
法令の求める要件をすべて満たすように設計するのは簡単ではありません。
導入するのであれば、専門の弁護士のチェックを受けましょう。
当事務所では、
・販売スキームの適法性についての法律相談
・どのような販売形態を採用するべきかのコンサルティング
・特商法上の義務についての法的整備
・契約書面や特商法に基づく表示の作成
・契約書面の電磁的方法による提供の導入支援
などなど、特商法に関する業務を取り扱っております。
自社のスキームが特商法に適合しているか気になるという方は、問合せフォームまたは事務所LINEアカウントよりお気軽にお問い合わせください。
特商法については以下の記事もご参照ください。
find a way 法律事務所
弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明