テイクアウト・デリバリーにおける衛生管理の手法
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
店舗での対面販売を中心とするこれまでの飲食店は、以下の計算式で売上の上限が決まってしまうというビジネスモデルでした。
「客数」×「客単価」×「営業日数」
しかし、新型コロナウィルス感染症の拡大により、店舗の売上に加え、テイクアウト・デリバリー等による売上獲得を目指す飲食店が増加しました。
お店の工夫次第で、さらなる売上拡大を図ることが可能となったのです。
以前の記事に書いたように、令和2年の食品衛生法改正により、令和3年6月1日から飲食店においてHACCPという食品衛生の手法の導入が義務付けられました。
しかし、HACCP導入の手引書は、主に、店舗内における対面による食品販売を想定した内容になっています。
この記事では、テイクアウト・デリバリーといった非対面販売やキッチンカー等を用いた移動販売における衛生管理の手法について、具体的に考えてみたいと思います。
飲食店におけるHACCPの導入方法については、以下の記事をご参照ください。
目次
テイクアウト・デリバリーの場合、店内で料理を提供する場合と違い、調理してからお客様がその料理を食べるまでの時間が長いという点に特徴があります。
そのため、料理内で細菌等が増殖する可能性が高く、一般に、食中毒発生のリスクが高いと言われます。
また、テイクアウト・デリバリーの場合、実際にお客様が食べる場所が店舗内ではないため、食べ方をコントロールすることが困難です。飲食店が提供する料理には、当日中に食べないと危険なもの、要冷蔵・要冷凍のもの、食べる時に再加熱が必要なもの等があると思います。
食べ方や保管方法に関する注意点について十分に説明をしても、お客様が実際にその通りに実行してくれるとは限りません。
その結果、お客様が注意に従わず、食中毒が発生してしまうことがあります。
また、デリバリーをUberEATSや出前館のような外部事業者に委託する場合、配達時間や保管方法等の説明もその外部事業者の担当者に任せることとなってしまいます。そのため、一層、お客様の食べる時間や食べ方をコントロールすることが困難となります。
さらに、テイクアウト・デリバリーの場合、店内で洗浄、乾燥した食器ではなく、使い捨て容器やカトラリーを使うことが多いと思います。使い捨て容器等を使う場合、お客様への提供ごとに洗浄することが難しいため、店内に比べて、容器等を通じた食中毒発生のリスクが高いといえます。
以上のような特徴を踏まえ、テイクアウト・デリバリーではどのような対策をとれるか考えてみましょう。
店舗内の提供時と重複する部分もありますが、テイクアウト・デリバリーを始める際には以下のような点に注意しましょう。
・持ち帰りや宅配に適したメニューを選定すること(鮮魚介類の生ものの提供は避けるなど)
・設備に応じた提供食数とすること
・加熱が必要な食品は、中心部まで十分に加熱すること
・調理済みの食品は、食中毒菌の発育至適温度帯(約20~50℃)に置かれる時間が極力短くなるよう、適切な温度管理
(10℃以下又は65℃以上での保存)を行うこと
デリバリーの場合、配達に要する時間を逆算し、配達で対応する範囲を限定するといった工夫が必要となります。
また必要に応じて、保冷・保温ボックスを使用して配達するようにしましょう。
デリバリーを外部事業者に委託する場合には、その事業者が配達員に適切な管理・指導を行っているかという点も考慮し、委託先を決定する必要があります。
お客様の食べる時間や食べ方をコントロールするためには、以下のような方法で、保管方法、再調理方法、喫食期限等の注意点を伝えることができます。
・注意点を書いたチラシを同封する。
・容器に注意点を書いたシールを貼る。
このような工夫をしておけば、食中毒が発生するリスクを抑制できます。
また、万が一、食中毒が発生しても、お店としてはできる限りの対策をしたと言えますので、損害賠償請求を受けるリスクも抑制することができます。
使い捨て容器やカトラリーを使用する場合、容器等の保管状況もHACCPの衛生管理計画に加えておきます。
そうすれば、容器等に細菌やウイルスが付着するリスクを抑制することができます。
例えば、長時間、湿度の高い場所に保管していたために容器等が濡れていたといった事態が生じないように、容器等の保管場所を定めておくといった工夫ができるでしょう。
使い捨て容器に入れてお客様に提供する時は、浅い容器に小分けするといった工夫もできます。
近年、キッチンカーや屋台を用いた移動販売を行う飲食店が増加しています。
移動販売は、初期費用が抑えられることに加え、新型コロナウィルス感染症の拡大に伴う三密を回避することができますので、人気が高まっているようです。
移動販売による食品提供では、飲食店の店舗に設置されているような設備を使えないという点に特徴があります。
移動販売でも、お客様が料理を自宅やオフィスに持ち帰って食べる場合があります。
そのため、テイクアウトやデリバリーと同様に、お客様に対し、保管方法、再調理方法、喫食期限等の注意点を確実に伝えるための工夫が必要です。
また、店舗と異なり、設備や保管・調理スペースに制約があるため、HACCPの一般的衛生管理のうち、以下の項目には特に注意が必要です。
・庫内温度の管理
・交差汚染・二次汚染の防止
・器具等の洗浄・消毒・殺菌
そのため、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)」の様式とは別に、注意すべきポイントを吟味した上で、移動販売に対応した衛生管理計画を別に作成することが望ましいです。
特に、これからの暑い季節に移動販売を行う場合には、温度管理が通常より難しいため、一層注意する必要があります。
なお、保健所は、移動販売車の設備に関する基準(給水タンクの容量、運転席と調理区画の分離、冷蔵設備等)を定めていますので、キッチンカーを制作する場合には、事前に、営業許可申請をする地区の保健所に確認しましょう。
当事務所では、細菌・ウイルスや食品衛生に精通したHACCPコーディネーターによる以下のようなHACCP導入支援を行っております。
① お店への訪問、設備、メニューの確認
② 衛生管理計画(一般的衛生管理のポイント・重要管理のポイント)の作成
③ 実施記録の作成指導
④ 従業員向け研修の実施
テイクアウト・デリバリーや移動販売の場合、店舗での対面販売よりも一層食品衛生に気を配る必要があり、一般に公開されているHACCP導入の手引書の様式では、対応しきれない面があります。
テイクアウト・デリバリーや移動販売に対応可能な衛生管理計画の作成を検討されている方は、お気軽にお問い合わせください。
法律事務所がHACCP導入支援に取り組む思いについては、以下の記事をご参照ください。
find a way 法律事務所
弁護士 中小企業診断士 荒武 宏明