【実績】飲食店に対する動産執行により160万円全額を回収した事例
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
弁護士にとって、裁判の結果を予想することは、それほど難しくありません。
しかし、お金を実際に回収できるか否かを予想することは非常に難しいです。
なぜなら、相手方がお金を持っているかは、弁護士でもわからないからです。
勝訴判決を得れば、相手方の財産を差し押さえて、強制的にお金を回収できます。
しかし、裁判所は相手方の財産の在りかを教えてくれません。
相手方の財産が見つからなければ、勝訴判決は「絵に描いた餅」です。
それでも、弁護士は、想像力を駆使して、回収を目指します。
回収を実現できるかどうかは、運や実力だけでなく、弁護士の執念が問われます。
この記事では、内装工事代金を支払ってくれない飲食店に対し、動産執行(現地に赴いて行う財産の差押え)を行い、工事代金160万円全額を回収した事例を紹介します。
当事務所のその他の債権回収の実績については、以下の記事をご参照ください。
目次
リフォーム事業を営むA社から、工事代金の分割払いがストップしたとの相談がありました。
A社は、数年前に飲食店B(個人事業主)の内装工事を行ったものの、工事代金が支払われなかったため、弁護士に依頼して裁判を起こしました。
裁判では、A社とBとの間で、400万円を毎月15万円ずつ分割して支払っていくという調停が成立しました。
その後、Bから分割払いが続いていたのですが、残り150万円になった時点で、支払いがストップしました。
当時の弁護士が動いてくれないとのことで、残りの工事代金の回収について、当事務所でご依頼を受けることになりました。
未払いの工事代金を回収する場合、通常、以下のような手順を踏みます。
① 交渉(内容証明郵便で督促する)
② 裁判(仮差押、支払督促、民事調停、訴訟)
③ 強制執行(財産の差押え)
今回は、前任の弁護士が②の民事調停まで終わらせていたので、③を進めることになりました。
強制執行をする前に、当時、裁判を担当し、分割払いの調停に関わったBの弁護士に連絡してみることにしました。
Bの弁護士に電話したところ、「直接、電話するようにBに伝えておきます…」と、微妙な反応でした。
確かに、弁護士としては、既に終わって自分の手から離れた事件には関わりたくないものです。
案の定、Bからの連絡はなかったので、強制執行を進めることにしました。
Bの飲食店が入っている建物の登記情報を見たところ、建物の所有者はBではありませんでした。
つまり、Bは、物件を借りて飲食店を経営していることがわかりました。
事業用の物件を借りる場合、貸主に家賃数カ月分の保証金を担保として差し入れることが多いです。
物件を出る時、借主は貸主に保証金の返還を請求することができます。
借主は貸主に対して、保証金返還請求権という権利を持っているのです。
保証金返還請求権が差し押さえられると、借主が物件を出る時に保証金が返ってこないことになります。また、貸主から「保証金の差押えが来てますけど、どうなってますか?」といった連絡を受けることになるでしょう。
そこで、Bが貸主に差し入れている保証金返還請求権を差し押さえることにしました。
裁判所に差押命令申立書を提出してしばらく待っていると、貸主から文書が届きました。
貸主の回答は、「保証金はありません」というものでした。
事業用にしては珍しく、保証金不要の物件だったのです。
こうして、保証金返還請求権の差押えは「空振り」に終わりました。
次に考えたのは、動産執行です。
動産執行とは、債務者の住所まで行き、債務者が所有する現金、貴金属、家財道具などを差し押さえて売却する手続きです。
昔のドラマや映画で、執行官が自宅に上がり込んで、赤い札をどんどん貼っていくという様子が描かれましたが、あの手続きです。
しかし、テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの生活必需品、食品、66万円までの現金などは差し押さえることができません。
そのため、動産執行では、価値のあるものは何も差し押さえられずに終わることのほうが多いです。
ただし、動産執行では、現地で債務者と面と向かって話をできることがあります。
動産執行は、やってみないと何が起こるかわからないので、とにかく、申し立ててみることにしました。
動産執行申立書を裁判所に提出した後、担当の執行官と打合せをしました。
執行官とは、強制執行などの業務を行う裁判所の職員です。
執行先が飲食店なので、ランチタイムを避けた午後2時に動産執行を行うことになりました。
動産執行では、執行官の熱量で結果が大きく左右されるため、いかに執行官に動いてもらうかが重要です。
しかし、本件では、担当の執行官がとても消極的で、最初から「動産執行は何も差し押さえられないことのほうが多いですから…」などと言っていました。
執行官であれば、「裁判所で行った約束を守らないなんてけしからん!」という気概を持って臨んでほしいものです。
弁護士も動産執行の現場には出向きますが、中に入れるのは執行官だけです。
私は、例の執行官の消極的な姿勢が不安になりました。
店舗内をざっと見て、あっさり「差し押さえられるものはなさそうでした」などと言い出しそうな気がしたのです。
しかし、今回は、弁護士も執行先に立ち入る方法がありました。
相手は飲食店なので、食事に行けばよいのです。
私は、動産執行の下見を兼ねて、執行先でランチをすることにしました。
注文を済ませ、私は、店内の設備をなめるように見渡しました。
メニューに載っていたワインを、ソムリエ資格を持つ知人にLINEで送り、即座に市場価値を確認しました。
私は会計を済ませ、Bの「またお待ちしてまーす」という声を聴きながら、複雑な気持ちでお店を後にしました。
お店を出た後、執行官と合流し、店内の設備やワインの種類を詳しく伝えました。
消極的な執行官に気迫を見せ、「他にもあると思うので、しっかり細かく確認してくださいね」とくぎを刺しておきました。
また、弁護士が中に入ってもよいか、Bに確認するよう求めました。
「中に入ってもよいか」と許可を求める形ではなく、「中に入るが、よいか」という強めの姿勢で伝えるように指示しました(ニュアンスで相手に与える印象は大きく変わります)。
ランチを済ませてお店を出た1時間後、執行官とともに二度目の登場をすることになりました。
私が店内に入ると、Bの表情が一変しました。
私は、Bに対し、なぜ分割払いが途切れたのかを確認しました。
Bは、全額支払ったと思っていたなどと弁解していましたが、最終的に「母親に借りて全額支払うので、今日のところは引き上げてほしい」と述べました。
一旦、お店の外に出て、執行官に確認したところ、差し押さえられる財産はなかったとのことでした。
メニューに載っていた高額なワインも在庫切れでした。
私は、再びBのもとに行き、「今日のところは引き上げるが、1週間以内に全額を振込んでほしい」と要求しました。
動産執行がうまくいっても、いかなくても引き上げることには違いありません。
執行官がBに執行終了を通知することになったので、執行官には以下の点をお願いしておきました。
・ただ執行終了を通知し、差し押さえられる財産がなかったなどと言わないこと
・動産執行は何度でも行うことができると伝えること
・支払いが遅れるほどに、遅延損害金は増えていくと伝えること
動産執行から3日後、未払いの工事代金に遅延損害金と執行費用を加算した約160万円が一括で指定の口座に振り込まれました。
強制執行の中には、動産執行以外にも、債権執行(預金など債権の差押え)、不動産執行(不動産の競売申立て)などがあります。
動産執行は、執行先に差し押さえられるものがなく、執行がうまくいかずに終わることが多いので、活用頻度は高くありません。
しかし、動産執行は、裁判所におさめる手数料も高くありませんし、債務者への心理的プレッシャーが大きいため、当事務所では結構な頻度で行っています。
この記事で紹介した事例のように、執行先で差し押さえられるものが見つからなくても、思わぬ展開につながることがあるのです。
諦めない弁護士は、うまくいく可能性が高くなかったとしても、せめて一矢報いたいという気持ちが抑えられないのです。
当事務所では、以下のようなサポートを提供しています。
・債権回収の交渉
・裁判手続(仮差押え、支払督促、民事調停、訴訟)
・強制執行手続(債権執行、不動産執行、動産執行など)
・分割払い合意書の作成
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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明