【2024年4月1日施行!!裁量労働制の制度改正】
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
令和6年4月1日から、「裁量労働制」の制度が改正されます。
「裁量労働制」とは、労働者が法令に定められた一定の業務に従事した場合、実際の労働時間にかかわらず、予め会社と決めた時間を働いたものとみなす制度です。
例えば、「1日8時間働いたものとみなす」と決めれば、実際の労働時間が何時間であっても(多くても少なくても)、労働時間は8時間とみなされます。
そのため、残業という概念がなく、残業代も発生しません。
やるべきことをきちんとできる労働者であれば、創造力を発揮して、自由な働き方を実現することができるのです。
「裁量労働制」には以下の2種類があります。
・専門業務型裁量労働制
・企画業務型裁量労働制
この記事では、中小企業や士業事務所でも導入されることの多い専門業務型裁量労働制とその制度改正の内容について解説します。
目次
裁量労働制の対象業務は、法令で指定された19業務のみです。
以下は一例です。
・研究業務
・情報処理システムの分析や設計、システムコンサルタント
・新聞、出版、放送番組制作のための取材や編集
・放送番組、映画製作のプロデューサー、監督
・デザイン業務
・コピーライター
・インテリアコーディネーター
・ゲームソフト制作
・証券アナリスト
・弁護士、中小企業診断士、公認会計士、税理士、弁理士、不動産鑑定士、建築士
労働時間と成果が比例しない業務が対象となっており、成果主義的な給与体系に適しています。
裁量労働制を導入する場合、労使協定を締結して労働基準監督署に届け出なければなりません(専門型の場合)。
労使協定とは、労働者と使用者(会社)との約束事を文書化したものです。
弁護士も対象業務なので、当事務所でも弁護士を雇用していた時は労使協定を締結して労働基準監督署に届け出ました。
現在も労使協定の有効期間中なので、先日、厚生労働省から法改正の案内が届きました。
裁量労働制を導入する場合の労使協定には、書かないといけないこと(協定事項)が決まっています。
例えば、対象となる業務、みなし労働時間、労使協定の有効期間などが基本的な事項です。
今回の改正で、以下の協定事項が追加されました。
・労働者本人の同意
・同意しなかった場合に不利益な取扱いをしないこと
・同意の撤回の手続
「労働者本人の同意」については、制度の概要等を「明示した上で説明して」同意を得なければならないとされています。
そのため、労働者と面談して、資料を配布した上で制度の内容を説明する必要があります。
「不利益な取扱いをしないこと」や「同意の撤回」の手続についても、まとめて説明してしまいましょう。
対象者が多い場合は説明会の形式でも結構です。
そして、労働者に説明して同意を得たことがわかるように、同意書を準備しておきましょう。
現在、裁量労働制を導入していて、令和6年4月1日以降も継続する場合、令和6年3月中に労使協定を締結し直す必要があります。
例えば、以前に締結した労使協定の有効期間が、「令和3年7月から令和6年6月まで」となっている場合、令和6年4月1日以降は無効になってしまいます。
専門業務型裁量労働制の対象業務に、20業務目、M&Aアドバイザリー業務が追加されます。
具体的には、
「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」が対象とされています。
通達において、M&Aアドバイザリー業務とは何かが定められています。
①調査又は分析、②考案及び助言の両方ともを行うものが対象であり、片方だけでは対象業務に該当しません。
また、①②の業務を行っていても、上司の指示で業務を進めており、裁量がない場合には裁量労働制を適用できません。
さらに、①②以外の業務を行うことが予定されている場合にも裁量労働制が適用できません。
そのため、労働者を雇い入れる時などには、裁量労働制の対象業務に該当するかをしっかり検討する必要があります。
将来の紛争を予防するため、雇用契約書を作る時にも注意が必要です。
具体的には、「従事する業務」として、①②の両方を含めておく必要があり、かつそれ以外の業務を入れない必要があります。
他の従業員の方と同じように、「その他会社が指示する業務」といった包括的な記載を入れないようにしましょう。
当事務所は、スモールM&A支援に注力しており、まさにM&Aアドバイザリー業務を行っています。
外部のアドバイザーと連携する機会も多いので、M&Aアドバイザリー業務が裁量労働制の対象業務に加わることで、どのような変化が生じるのか、興味深く見ています。
制度改正に対応しなかった場合、労使協定は無効です。
つまり、現在は問題のない労使協定があっても、何もせずに令和6年4月1日を迎えると、労使協定が無効になってしまうのです。
また、労働者に十分な説明をしなかったことで、労働者が自分の意思で同意したと認められないときにも、労使協定は無効です。
労使協定が無効ということは、みなし労働時間の効果が生じないということです。
つまり、労働者が1日12時間の業務をした場合、4時間の残業が発生するということです。
これは非常に大きいです。
「裁量労働制だから、毎月の給料は固定と思っていたのに、いつの間にか、高額の未払い残業代が発生していた…」というケースが、これから起こり得るのです。
そのため、専門業務型裁量労働制を導入している中小企業、士業事務所は、
必ず令和6年3月31日までに、あらためて労使協定を締結して労働基準監督署に届け出ましょう!!
コラムの記事なのでわかりにくいですが、大声でお伝えしておきます。
令和6年4月1日以降の労使協定の様式は、厚生労働省の主要様式ダウンロードコーナーでダウンロードが可能です。
この記事では、中小企業や士業事務所でも導入されることの多い専門業務型裁量労働制の制度改正について解説しました。
3で述べたとおり、今回の制度改正は、高額の未払残業代を生み出す可能性のある極めて重要な改正です。
しかしながら、ニュース等であまり取り上げられておらず、リスクが認識されていないように思います。
様式はダウンロードで簡単に入手可能ですので、令和6年3月31日までに必ず対応しておきましょう。
令和6年4月1日には、労働条件明示のルールも変更されます。
以下の記事もご参照ください。
当事務所では、以下のようなサポートを提供しています。
・雇用契約書の作成、リーガルチェック
・就業規則その他社内規程の作成、リーガルチェック
・労使協定の作成、リーガルチェック
・人事・組織戦略の構築と運用
・事業者、人事担当者向け労務セミナーの開催
また、当事務所では、クライアントの目的、実態に合わせた雇用契約書の作成、リーガルチェックを顧問契約の範囲内で行っておりますので、顧問契約についても是非ご検討ください。
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