【実績】解雇を回避し、合意による円満退職をサポートした事例
皆様こんにちは。
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
労働基準法第22条1項は、以下のとおり定めています。
「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。」
つまり、解雇した労働者から求められた場合、会社は解雇の理由を記載した証明書、解雇理由証明書を発行しないといけません。
反対に言うと、会社が解雇理由証明書を発行した場合、労働者を解雇したということになります。
解雇は、非常にリスクが高いため、原則として行うべきではありません。
解雇せずに、従業員と話し合って、合意の上で退職してもらうことを目指します。
この記事では、解雇理由証明書の発行を求めてきた従業員に対し、文書を送付して退職に至る経緯を確認することによって、合意による退職を実現した実績について解説します。
ご相談から解決までの日数は10日でした。
目次
飲食店を経営するクライアントから、以下のような相談がありました。
「解雇理由証明書のリーガルチェックをお願いします。」
この相談に対して、そのままリーガルチェックを行う弁護士はいないはずです。
なぜなら、労働者から解雇理由証明書の発行を求められているという状況はとても危険だからです。
労働者は、解雇理由証明書を何に使うのでしょうか?
解雇理由証明書を発行した直後、労働者側の弁護士から「不当解雇だから解雇を撤回せよ」
と主張する内容証明郵便が届くというケースを何度も見てきました。
会社としては、解雇を撤回して退職者を復職させるというわけにはいかないので、一定の解決金を支払って、合意の上で退職してもらうことになります。
この解決金は、給料の3ヵ月~12ヵ月分となることが多いです。
なぜ、会社は高額の解決金を支払ってまで、合意の上で退職してもらうことを選ぶのか。
その理由は解雇することのリスクにあります。
不当解雇、つまり解雇に理由や妥当性がないと主張された場合、裁判で会社側が敗れることのほうが多いです。
裁判では、会社が「精一杯、指導・教育を重ねてきたが、それでも改善しなかった」ということを証拠により、証明しなければなりません。
口頭で注意をしていたものの、客観的な証拠がない場合には会社が負けてしまうことが多いのです。
解雇理由証明書の発行を求められているという状況で、弁護士として確認すべきことは、
・そもそも本当に解雇したのか?
・解雇したとすると、解雇の理由は何か?
・どのような経緯で解雇することになったのか?
といった内容です。
本件において、私もクライアントに、「そもそも本当に解雇したのか?」という点を尋ねました。
従業員(Aさんといいます)が退職することになった経緯は以下のとおりでした。
・飲食店のホール業務の経験が豊富なAさんを即戦力として採用した。
・Aさんと試用期間3ヵ月の雇用契約を交わした。
・Aさんは仕事ができるが、口調が厳しく、何人もアルバイトスタッフが退職した。
・そのため、会社はAさんと面談し、試用期間満了で退職するように求めた。
・Aさんは退職を承諾し、翌日から出勤しなくなった。
ポイントは、会社がAさんに退職を求め、Aさんが承諾したという点です。
解雇とは、会社が一方的に労働者との契約を解くことです。
本件では、Aさんが承諾しているため、解雇ではなく、合意退職になります。
にもかかわらず、解雇理由証明書を発行すると、会社がしてもいない解雇を積極的に認めることになります。
そのため、私は、会社に対し、解雇理由証明書を発行しないように伝え、合意退職に向けた準備を進めることにしました。
「解雇」ではなく「合意退職」であることを確定させるため、私は、会社と打合せを重ねました。
その上で、Aさんに退職合意書を送付し、署名捺印して返送してもらうことにしました。
Aさんが署名捺印に応じやすいように、退職合意書には、以下のような内容を盛り込むことにしました。
・退職月の残り日数分の給料を全額支払う
・退職日までの出勤は不要
・特別退職金として、1ヵ月分の賃金を加算して支払う
・退職合意書が返送された日から1週間以内に残り日数分の給料と特別退職金を支払う
退職合意書には、
①合意退職することを確認する条項
②お互いにこれ以上の請求を行わないという条項(清算条項)
も盛り込みました。
退職合意書とともに、社長からの手紙を一緒に送ることにしました。
代理人弁護士からの文書ではなく、あくまで会社からの提案という形式を採用しました。
手紙は、会社と打合せをし、慎重に言葉を選びながら、弁護士が作成しました。
Aさんは、仕事をテキパキとこなし、会社に貢献してくれたことには違いありません。
そのため、私は、会社のAさんに対する感謝の気持ちを踏まえ、誠意をもってお手紙を作成しました。
お手紙には、以下のような文章を入れておきました。
・会社としては、合意の上、退職いただくことになったと認識している。
・これまでの労をねぎらって、特別退職金を支払いたい。
・求職活動のため、退職日までの出勤は不要、賃金は支払う。
退職合意書が返送される可能性を少しでも高めるため、返信用封筒も同封しました。
その後、Aさんからの連絡は無く、1週間ほどで退職合意書が返送されてきました。
これによって、解雇ではなく、合意による円満退職が確定しました。
この記事では、解雇理由証明書の発行を求めてきた従業員に対し、文書を送付して退職に至る経緯を確認することによって、合意による退職を実現した実績について解説しました。
従業員と話し合い、合意の上で退職してもらう方法を退職勧奨と言います。
たとえ従業員に落ち度があるような場合であっても、可能な限り解雇は避け、退職勧奨によって合意退職してもらうようにしましょう。
退職勧奨には強制力がないため、従業員が合意退職に応じないこともあります。
しかし、一定の手順を踏んで退職勧奨を進めれば、従業員が退職に応じる可能性を高めることは可能です。
雇用の維持が難しいと思われるときは、まずは弁護士にご相談ください。
方針が決まっていなくとも、従業員に関する悩みが生じた時点でご相談いただくのがベストです。
「解雇した従業員から内容証明郵便が届きました」とご相談いただくことも多いのですが、その段階ですと、取り得る選択肢が限られてきます。
退職勧奨を含む、雇用契約の終わらせ方については以下の記事をご参照ください。
当事務所では、以下のようなサポートを行っています。
・従業員の採用、賃金、評価、能力開発、モチベーション向上に関する助言
・指導・教育等の証拠化に関する文書作成
・退職勧奨の立会い
・普通解雇通知書の作成
・解雇に関する裁判手続(労働審判、訴訟)
対応方針に関する助言や会社内部の文書作成は、顧問契約の範囲内で行っています。
従業員についてトラブルやお悩みを抱えておられる方は、問合せフォームまたは事務所LINEアカウントよりお気軽にお問い合わせください。
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