【実績】賃借権の譲渡をめぐる契約締結交渉 - 大阪市で労使、飲食、M&Aに関する相談は「findaway法律事務所」へ

 

【実績】賃借権の譲渡をめぐる契約締結交渉


弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

弁護士は、「法律上、請求できるのか?」と常に考えます。

 

例えば、100万円貸したのであれば、100万円返してくれと請求できます。

自分の土地に誰かが勝手に車を停めていれば、車をどかしてくれと請求できます。

 

では、法律上、請求できない場合、誰かに何かを請求してはいけないのでしょうか?

 

そんなことはありません。

請求するのは自由です。

ただし、法律上、請求できないということは、要するに「お願い」です。

そのため、請求する相手がOKしてくれるだけの理由やメリットを提示しなければなりません。

 

いかに交渉をまとめるのかを考えるのも、弁護士の仕事です。

 

 

この記事では、飲食店の店長が、店舗を借りている会社に対し、賃借権(建物を借りる権利)を譲ってもらえないかと交渉し、2つの店舗の賃借権を譲り受けたという事例を紹介します。

 

法律上、請求できるものではなく、依頼者と相手方との関係性が悪化していたため、交渉は難航しました。

しかし、道なき道を切り拓く「find a way」は当事務所の得意とするところです。

 

法律がなくても、クライアントと弁護士の執念で、目的を達成することは可能なのです。

 

1 相談内容

 

相談者Aさんは、店長として2つの飲食店を経営していました。

しかし、飲食店の実質的なオーナー(B社)と運営方針を巡って意見が対立しているため、お店を自分のものにする方法はないか、というご相談で当事務所に来られました。

 

「お店を自分のものにする」とはどのような状態でしょうか。

理想の状態を詳しく伺うと、Aさんは、経営に口出しされることなく、自分の判断でお店を運営したいという希望をお持ちでした。

 

さらに、現在の状態をヒアリングしました。

・店舗の借主はB社、保証人はB社社長

・AさんはB社に家賃を支払い、B社は店舗の物件所有者に家賃を支払っている

・食材等は、Aさんが直接仕入れている

・スタッフを雇用しているのはAさん

・飲食業の営業許可はAさん名義

 

以上の状況から、Aさんが物件の借主になれば、B社はお店と無関係であるため、Aさんが「お店を自分のものにする」という状態になります。

 

物件を借りる権利を賃借権と言い、賃借権は譲渡することが可能です。

そのため、AさんからB社に対し、賃借権の譲渡を求めることになりました。

 

 

 

 

2 B社との交渉開始

 

⑴ B社との交渉方法

 

法律上、AさんがB社に「賃借権を譲渡せよ」と請求することはできません。

 

そのため、弁護士から文書を送り、「賃借権を譲渡してもらえないでしょうか」とお願いすることにしました。

 

ただし、関係性が悪化しているため、何かしら交渉材料を示す必要があります。

そこで、以下の4点を示しました。

 

 

 

⑵ 保証金返還請求権の買取り

 

B社は2店舗で合計695万円の保証金を差し入れていました。

しかし、退去時には控除があり、返還される保証金は373万円です。

そのため、B社が持っている373万円の保証金返還請求権を695万円で買い取ると提案しました。

 

 

 

⑶ 原状回復義務のリスク回避

 

賃貸借契約書では、契約終了時にB社が物件をスケルトン状態にして返すこととされていました。

スケルトン状態とは、店内に備え付けた設備や内装などをすべて取り払って、構造体のみとなった状態のことです。

そのため、B社の退去時には高額の原状回復費用が発生することになります。

 

この原状回復費用を誰が負担するかについて、AさんとB社は取り決めていませんでした。

しかし、物件所有者は、Aさんではなく、直接の契約相手であるB社に原状回復を求めてきます。

 

借主がB社からAさんに交代すれば、B社は原状回復費用を負担するリスクを回避することができるのです。

 

 

 

⑷ 転貸状態の解消

 

B社は、物件所有者に家賃を支払っていました。

しかし、B社は、Aさんに対し、自身が支払っている家賃よりも高い家賃を請求していました。

つまり、B社は、Aさんから受け取る家賃と物件所有者に支払う家賃との差額分の利益を得ていたのです。

 

法的にみると、店舗が物件所有者→B社→Aさんと渡っていて、それぞれ賃料が発生しているため、B社がAさんに転貸(又貸し)していることになります。

 

物件所有者は、AさんとB社の関係性やお金のやり取りを把握していません。

そのため、無断転貸にあたるということで、物件所有者が契約解除を主張してくるリスクがありました。

 

そのリスクを回避して転貸状態を解消するためにも、B社からAさんに賃借権を譲渡する必要があると指摘しました。

 

 

 

⑸ 連帯保証人の交代

 

連帯保証人は、B社の社長が務めていました。

 

お店の経営が不安定になると、B社はもちろん、B社の社長個人も経済的負担を強いられる可能性があります。

そのため、賃借権譲渡時に連帯保証人も交代すると提案しました。

 

 

 

 

3 物件所有者との交渉

 

B社が賃借権の譲渡をOKしても、物件所有者のOKがなければ、借主は交代できません。

 

そこで、B社の交渉と同時に、2つの店舗の物件所有者とそれぞれ交渉を進めることにしました。

B社に対し、「物件所有者もOKと言っていますので」と、外堀を埋めておくという狙いもありました。

 

物件所有者は、賃借権譲渡をするためには、賃借人を法人、連帯保証人を法人の代表者とすることを求めてきました。

 

そのため、急ぎで、Aさんを代表取締役とする会社を設立しました。

その上で、会社が借主、Aさん個人が連帯保証人となると説明したところ、物件所有者2社とも賃借権譲渡を承諾してくれました。

 

 

 

 

4 B社からの回答

 

文書発送後、B社の社長から事務所に電話がありました。

 

B社社長は、Aさんが何の相談もなく弁護士に依頼したことが納得できないと主張しました。

こちらはあくまで譲渡をお願いする立場ですので、丁寧にB社社長の言い分を聞きました。

 

その後、B社の言い分を記載した文書が届きました。

B社の言い分は以下のとおりでした。

 

① 物件所有者への直接の連絡はしないでほしい

② 物件所有者が賃借権譲渡を承諾しなかった場合のプランを示してほしい

③ 2店舗の開店当時に立て替えた費用を全額返還してほしい

 

①については、既に物件所有者の承諾を得ていたため、直接連絡済みであることを謝罪しました。

②については、既に承諾を得ているため、心配ご無用と回答しました。

同時並行で物件所有者との交渉を進めていたことが結果的に有利に働きました。

 

③についてAさんに確認したところ、確かに内装費用等はB社が負担しているとのことでした。

そのため、B社に立替費用の一覧を提示するよう求めました。

立替費用は想定していたよりも高額でしたが、内容を確認したところ、すべてB社が実際に立て替えたと納得できるものでした。

 

当初は分割払いでの交渉を進めていましたが、資金の目処が立ったため、B社に一括で支払うことにしました。

 

 

 

 

5 B社社長との面談

 

賃借権を譲渡するという方向には進みそうでしたが、関係性が悪化していたことから、細かい契約条項に関する交渉が思うように進みませんでした。

 

そのため、B社社長にアポイントを取って、Aさんと一緒にB社に伺うことにしました。

面談では、B社社長はAさんに思いのたけをぶつけてきました。

しかし、ここで感情的に反論しては、これまでの交渉が水の泡です。

 

Aさんに、「こちらはあくまで譲渡をお願いする立場にある」と事前に説明していたため、Aさんは黙ってB社社長の言い分に耳を傾けていました。

 

その後も契約条項に関する交渉を重ねましたが、面談の日以降、B社社長は明らかに態度を軟化させました。

 

難しい交渉であれば、実際に会って、腹を割って話すということは非常に重要です。

 

 

 

 

6 賃借権譲渡契約の締結

 

最終的に、Aさん、B社、物件所有者の全社が承諾した賃借権譲渡契約書が完成しました。

① Aさんが立ち上げた会社

② Aさん

③ B社

④ B社社長

⑤ 物件所有者

5者による契約となりました。

 

私は、Aさん→物件所有者→B社の順に訪問し、契約書5通に署名捺印をもらいました。

 

最終のB社から署名捺印を得た時、B社社長から、「ここまで来たら、お店にうまくいってほしいと思う」という言葉が出ました。

 

関係性が悪化した相手であっても、粘り強く協議を重ねれば、最終的には全員が納得する合意に至ることもあるのです。

 

Aさんのご相談から、賃借権譲渡契約の締結まで約8ヵ月かかりました。

Aさんは、「ようやくお店が手に入って、すごく清々しい気分なので、これからがんばっていこうと思います」とポジティブに前を向いておられました。

 

 

 

 

7 まとめ

 

今回の事例は、飲食店に関する法律問題の中でも特殊なケースでした。

 

法的に解決できるのか?

弁護士に相談することなのか?

 

相談前に迷われる必要はありません。

現在の状態と理想の状態との間にギャップがあり、モヤモヤしているのであれば、弁護士に相談されることをお勧めします。

 

法的にどのような手を打つことができるのか、

法的に打つ手がない中で、道なき道をどのように切り拓くのか、

それを考えるのが弁護士です。

 

 

当事務所では、飲食業関連法務に注力しています。

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・飲食店の残業代に関する紛争について、勝訴的和解をした事例

・飲食店退去時の紛争について、保証金全額返還の合意をした事例

・1900万円の工事代金請求について330万円の支払いによる勝訴的和解をした事例

 

 

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