【実績】1900万円の工事代金請求について330万円の支払いによる勝訴的和解をした事例
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
当事務所は、飲食業関連法務に注力しています。
飲食店を営む企業からのご相談で多いのが、店舗の工事に関するトラブルのご相談です。
・新店舗のオープン後、工事の不備で水漏れが生じて休業せざるを得なかった
・改装工事を終えた後に追加費用を請求されたが、全く説明を受けていない
・改装工事が遅れて、想定外に休業期間が伸びたため、補償を求めたい
・オーナーから過剰な原状回復工事を求められている
といったご相談が日々舞い込んできます。
この記事では、当事務所で実際に扱った事件のうち、飲食店の内装工事が終わった後に高額の追加費用を請求されたという事件を紹介します。
目次
複数の飲食店を営むA社は、新店舗のオープンにあたって、内装工事を約3500万円でB社に発注しました。
工事完了後、B社は、A社に対し、未払いの追加工事代金があるとして、約1900万円を請求してきました。
A社は、追加工事など発注した覚えがなく、B社の請求は寝耳に水でした。
A社とB社の協議はまとまらず、B社は追加工事代金の支払いを求めて、A社に訴訟を起こしました。
この事件は、当初、別の弁護士がA社から依頼を受け、訴訟の対応をしていました。
別の弁護士は、A社の社長に対し、裁判所から「A社が1500万円を支払う」という和解案が出たので、和解したほうがよいと勧めたそうです。
社長は、「そんなばかな」と、当事務所にセカンドオピニオンを聞きに来られました。
社長が当事務所に来られた時点で、訴訟を起こされてから、既に1年8ヵ月が経過しており、大勢は決しているかに思われました。
しかし、当事務所で裁判の記録を預かって、十分に検討した結果、まだ反論する余地があると判断し、当事務所でご依頼を受けることになりました。
当事務所でご依頼を受け、さらに1年7ヵ月かけて追加の主張立証をした結果、「A社が330万円を支払う」という内容の和解が成立しました。
B社の請求金額1900万円、そして、裁判所が一度提示した和解案1500万円から、大幅な減額を勝ち取ることができました。
追加工事代金の請求が認められるためには、以下の3つの要件が認められる必要があります。
① 追加工事をしたこと(追加性)
② 追加工事の代金が発生すると合意したこと(有償性)
③ 追加工事代金が妥当であること(価格の相当性)
①は、「現に手を動かして工事をした」ことはもちろん、「契約当初から予定していた工事(本工事)以外の工事をした」ということも意味します。
②は、サービスで行った工事と切り分けるための要件です。
内装工事の現場では、職人が気を利かせて「ここもやっておきますね」とサービスしてくれることがあります。
そのような工事について、後出しじゃんけんで追加工事代金の請求をすることはできません。
③は、事業者が勝手に高い利益を乗せて請求することはできませんということです。
工事業者は、当然、利益を得る目的で仕事をします。
そのため、追加工事の契約書や見積書などがなくても、裁判官は、
「本工事に含まれない何らかの追加工事を実際にしたのであれば、代金が発生するだろう」
と考えてしまうことがあります。
B社が主張する追加工事は31項目にも及びました。
前弁護士は、31項目すべてについて、「お金がかかるとは聞いていなかった。説明不足である」と繰り返し主張していました。
前弁護士の主張を法的に整理すると、②の有償性を否認しているということになります。
しかし、前述のとおり、裁判官は、「工事をやっている以上、代金が発生するだろう」と考えることがあります。
その結果、1500万円もの高額の和解案が提示されたものと思われます。
当事務所では、新たに以下の作業に取り組みました。
①31項目の追加工事現場の検証と写真撮影
とにかく、現場を見ることから始まります。
B社の主張する追加工事の一覧表を見ながら、A社の社長とともに現場の検証をしました。
その結果、31項目の中に、実際には施工されていない工事が含まれていることが判明しました。
②契約当時の見積書と31項目の追加工事の照合
契約時の本工事の見積書を精査したところ、本工事と追加工事の一部と重複していることが判明しました。
つまり、A社が本工事の代金として支払済みであるにもかかわらず、B社が「追加工事をした」として請求していたのです。
③工事期間中の請求書の発見
A社の事務所で、工事関連の資料の段ボールを見直していたところ、B社からの請求書が出てきました。
その請求書には31項目の一部が含まれており、A社は、その請求書に対する支払いを完了していました。
つまり、B社は追加工事として既に支払いを受けた項目を、再度、訴訟で請求していたのです。
また、請求書の中に「●●、▲▲、■■、サービス」との記載があり、31項目の追加工事の一部が無償であることが明記されていたのです。
④契約時の見積書に含まれているにもかかわらず、施工されなかった項目
さらに、契約時の本工事の見積書を精査したところ、最終的に施工されなかった項目が含まれていました。
しかし、A社は、本工事の代金全額をB社に支払っていました。
施工しなかった工事の代金については、B社から返してもらわないといけません。
そのため、返してもらわないといけない代金が不当利得にあたると主張して(民法703条)、追加工事代金との相殺を主張しました。
B社が追加工事代金として請求する31項目を以下の5類型に整理して主張しました。
①実際は施工されていないもの
②契約時の見積書に含まれているため、追加工事ではなく、本工事として施工されたもの
③追加工事として施工されたが、無償であるとの合意があるもの
④追加工事として施工されたが、代金を支払済みであるもの
⑤追加工事として施工されており、支払いに応じるもの
⑤のように、追加工事の一部については、現に施工されており、店舗で使用していることから潔く支払いを認めました。
追加工事が31項目もあるため、新たに提出した書面、証拠は膨大な分量になりました。
一旦、心証ができあがってしまった裁判官の意見を変えてもらうため、表を作成するなどしつつ、丁寧かつ端的にこちらの考えを伝えるように心がけました。
和解案がかなりの減額になったため、B社側の反発がありましたが、粘り強く和解協議を進めた結果、最終的にA社からの支払金額は、330万円となりました。
当事務所が参加した直後に、転勤によって裁判官が交代したことも、ラッキーでした。
建築工事に関する訴訟は、専門性が高く、非常に難しい事件類型の1つです。
大阪地方裁判所も、建築専門部(第10民事部)を設置し、建築事件ばかりを扱う専門の裁判官を配置しています。
しかし、飲食店では内装、改装、原状回復など様々な工事を行うため、建築工事に関するトラブルがよく発生します。
飲食店専門弁護士としては、避けては通れない事件類型です。
また、金額が大きいトラブルが多く、交渉がまとまらずに裁判に発展しやすいという特徴もあります。
建築工事に関する訴訟では、現場に足を運んでじっくり観察すること、見積書、注文書、請求書などの文書を丁寧に読み込むことが重要です。
難解な事件であっても、現場や文書の細部には、必ず解決の糸口が潜んでいます。
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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明