その業務委託契約、偽装請負ではないですか?
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
業務委託契約書の作成の依頼を受けることがよくあります。
予定されている契約内容を伺うと以下のような内容でした。
・A社がB社に業務を委託する。
・B社の従業員CがA社のオフィスに常駐して作業を行う
・従業員CにはA社が指示を出す
これは、労働者派遣法で禁止された偽装請負という違法行為です(B社が労働者派遣事業の許可を受けていれば問題ありません)。
近年、偽装請負に関する裁判所の判断が相次いでおり、業務委託契約を利用する企業のリスクが高まっています。
しかし、エンジニアが取引先企業に常駐して業務を行うといった契約はしばしば見かけるので、リスクがあるからと言って、一律に排除することはできません。
この記事では、偽装請負と疑われないよう、適法に業務委託契約を締結するためのポイントを解説します。
目次
偽装請負とは、形式上は業務委託契約(請負契約など名称は様々)が締結されているのに、委託者が受託者の従業員に対して指示を出しており、実態が労働者派遣にあたる場合を言います。
具体例を用いて説明します。
A社:委託者(発注元)
B社:受託者(受注先)-従業員C
A社は、B社に対して、業務を委託(発注)しました。
この場合、Cを雇用しているのはB社なので、Cに指示を出すのはB社のはずです。
にもかかわらず、B社がCをA社に送り込み、A社がCに指示を出すことは、労働者派遣にあたります。
それをしたければ、B社は労働者派遣業の許可を受けなければなりません。
にもかかわらず、業務委託契約という契約名を隠れみのにして、密かに労働者派遣を行うことを偽装請負と呼びます。
偽装請負は労働者派遣法に違反する行為です。
偽装請負に対して、どのようなペナルティがあるのか、先ほどの具体例を用いて説明します。
A社:委託者
B社:受託者-従業員C
B社は、無許可で労働者派遣を行ったということになります。
そのため、労働者派遣法違反で1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます(労働者派遣法59条1号)。
A社は、無許可のB社から労働者派遣を受けた状態です。
この場合、A社から従業員Cに対して、労働契約の申込みをしたものとみなされます(労働者派遣法40条の6第1項、以下では「みなし制度」と呼びます)。
A社の申込みに対して、従業員Cが承諾をすれば、A社とCとの間に労働契約が成立します。
つまり、外注先B社の従業員であったCがA社の従業員になってしまうというドラスティックな現象が起こるのです。
ここ数年の間、みなし制度の適用が争点となる裁判例が相次いでいます(札幌地判R4.2.25、大阪地判R4.6.30、大高地判堺支部R4.7.12など)。
ここでは、初めて裁判所が、みなし制度の適用を認めた東リ事件(大阪高等裁判所令和3年11月4日判決)を紹介します。
裁判所は、委託者が自社の工場に常駐していた受託者の従業員に対し、指揮命令をしていたなどの理由で、偽装請負の状態にあったと認定しました。
その上で、みなし制度に基づき、委託者と受託者従業員との間で、労働契約の成立を認めました。
この判決の中で、裁判所は、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けて」いれば、労働者派遣法の適用を免れる目的があったと推認されると判断しました。
つまり、受託者において、「業務委託契約書を交わしたので、偽装請負にあたるなんて考えもしなかった」「こちらから指示を出してはいけないなんて知らなかった」という言い訳は通用せず、問答無用に労働契約が成立してしまう可能性があるのです。
業務委託において、委託者が指揮命令をしてはいけないということはわかりました。
しかし、当然ながら、委託者(A社)と受託者従業員(C)は、コミュニケーションを取りながら仕事を進めますし、必要な打合せも行うでしょう。
偽装請負か否かの判断基準は、どのように考えればよいのでしょうか。
この点、厚生労働省が、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(以下、「37号告示」といいます)というものを公表しています。
前述の東リ事件でも、37号告示に基づいて判断がされています。
37号告示では、受託者(B社)が、
① 自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること
② 請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方(A社)から独立して処理するものであること
という2つの条件を満たさない限り、受託者(B社)がやっているのは、労働者派遣事業だと言っています。
さあ、ややこしくなってきたと思いますので、かみ砕いて説明しますね。
①②の条件をざっくり言い換えると、こうなります。
受託者(B社)は、
① 自社の従業員であるCを直接利用しなさい
② A社から受注した業務を自社で処理しなさい
さもなければ、労働者派遣事業と判断します。
①②の条件を満たすかどうかは、以下のような点から判断されます。
① 自社の従業員であるCを直接利用しなさい
・従業員の業務の指示や管理を自ら行うこと
・労働時間や休日の指示や管理を自ら行うこと
・業務上の秩序の維持を自ら行うこと
② A社から受注した業務を自社で処理しなさい
・従業員が業務をするのに必要な資金を自分で支払うこと
・業務の遂行について、A社が法律上の責任を負うこと
・従業員が単に肉体的な労働力を提供するものでないこと
具体的にどのように考えればよいのかについて、厚生労働省が疑義応答集を公開していますので、そちらも参考になります。
業務委託契約を締結するときには、偽装請負にならないように気を付けないといけません。
具体的にできる対策としては、4で述べた、①②の条件をそのまま業務委託契約書に盛り込んでおくのです。
例えば、委託者(A社)と受託者(B社)との契約書に、
・従業員の業務の指示や管理はB社が行う
・労働時間や休日の指示や管理はB社が行う
といった内容を一個一個盛り込んでいくのです。
もちろん、契約書の記載と実態が全然違うということがないように注意しないといけません。
偽装請負のリスクをA社、B社の双方が認識し、現場での運用について、事前にすり合わせを行っておく必要があります。
現地で作業を行う従業員にも、委託者(A社)から指示を受けることはないこと、もし指示を受けた場合は報告することを伝えておく必要があります。
偽装請負という言葉をご存知の事業者は多いと思いますが、業務委託契約と偽装請負がこれほど近い関係にあることまではご存知ない方が多いです。
システム開発やWEBサイト制作などの業務を受注されている事業者の方からのご相談で、偽装請負のリスクがある取引を多く見かけます。
取引先に思わぬ迷惑をかけないよう、偽装請負対策は十分に行っておきましょう。
以下のような事前にケアできる対策は必ずやっておきましょう。
①業務委託契約書のリーガルチェック
②取引先との事前すり合わせ
③従業員に対する情報共有
当事務所では、以下のようなサポートを行っています。
・業務委託契約書、請負契約書のリーガルチェック
・業務委託契約書、請負契約書の作成
・業務委託に関するビジネススキームの構築
・従業員によるみなし制度主張の対応
取引先に従業員を送り込んで業務を行うことがあるという方は、問合せフォームまたは事務所LINEアカウントよりお気軽にお問い合わせください。
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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明