【実績】無断転貸を理由とする建物明渡請求訴訟を提起し、賃借人を建物から退去させた事例
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
今回は、賃借人が無断転貸(勝手に又貸しすること)していたことが判明したため、訴訟を提起して、賃借人を建物から退去
させた事例を紹介します。
当事務所は、賃貸マンションの所有者から依頼を受け、賃借人に対してマンションの一室の明け渡しを求めました。
賃借人は、無断転貸の事実を争い、和解協議では立退料の支払いを求めてきました。
しかし、粘り強く主張立証した結果、最終的に、賃借人は敷金を放棄し、3ヵ月以内に退去するという内容での和解が成立
しました。
目次
ご相談者のAさんは、投資用または将来の居住用としてタワーマンションの一室(以下「本マンション」といいます)を購入
しました。
Aさんが購入した時、本マンションには高齢の男性Bが一人で入居していました。
Bが入居してからかなりの年数が経過し、周辺の相場と比べて賃料が安すぎる状態でした。
そのため、AさんはBに手紙を書き、賃料の増額をお願いしました。
すると、Bの息子であるCから、一方的に賃料を決定する内容のメールが届きました。
Aさんは「契約相手であるBと話したい」と連絡したのですが、やはりCから賃料の増額を拒否する内容の返信がありました。
当事務所は、Aさんから賃料増額の調停などの手続についてご相談を受けました。
ところが、当事務所で調査した結果、3年以上前にBが死亡していたことが発覚しました。
Cは、Bが死亡したことを告げず、Bのメールアドレスからメールを送ってきていました。
Aさんは、CがBの死亡を隠したことについて、強い不信感を抱いていました。
賃借人が無断転貸をしたときには、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます(民法612条)。
今回のように、賃貸人の知らないところで入居者がBからCに交代していた場合、無断転貸にあたる可能性があります。
弁護士は、Cに内容証明郵便を送付し、無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除を申し入れました。
しかし、Cが退去に応じないため、やむを得ず、建物明渡請求訴訟を提起しました。
最終的に、Cが3ヵ月以内にマンションから退去すること、CがAさんに敷金の返還を求めないこと等を内容とする和解が成立しました。
訴訟提起から和解成立までの期間は11ヵ月でした。
Aさんは賃料増額調停の申立てを予定していました。
調停を申し立てるためには、相手方を特定する必要があります。
Aさんが何度連絡してもBとは連絡が取れず、回答してくるのはCでした。
そのため、Aさんは本マンションに居住しているのはBではなく、Cではないかと疑っていました。
当事務所で住民票を取寄せたところ、なんと3年以上も前にBが死亡していたことが発覚しました。
本マンションの前所有者、不動産売買の仲介会社、不動産の管理会社もまた、Bが死亡していたことを知りませんでした。
また、本マンションの駐輪場は、Bの死亡後にB名義で契約されていました。
Cは、マンションの管理組合との契約書にBの名前を記入していたのです。
さらに、Bは6年前(亡くなる3年前)に本マンションから別の場所に住民票を移しており、同じ頃、Cが本マンションに住民票を移していることがわかりました。
住民票の内容から、弁護士は、Bが賃貸人の承諾を得ずに、本マンションにCを住まわせていたと判断しました。
まさに無断転貸です。
Bが生きているようにCが装っていたことを知り、Aさんは恐怖を感じました。
Aさんは、Cと賃料の交渉をする気持ちにはなれず、何とかCに退去してもらいたいと希望されました。
そこで、無断転貸を理由に賃貸借契約を解除し、Cに本マンションの明渡しを求めることにしました。
弁護士は、Aさんの代理人として内容証明郵便を送付し、Cに対し、本マンションを明け渡すよう求めました。
すると、Cも弁護士をつけ、明渡しには応じないという回答書を送付してきました。
回答書には、無断転貸については特に言及がありませんでした。
Aさんと相談した結果、やむを得ず、本マンションの明渡しを求める訴訟を提起することにしました。
賃貸借契約は、契約当事者間の信頼関係を基礎とする継続的な契約です。
そのため、たとえ無断転貸があったとしても、賃貸人が直ちに賃貸借契約を解除できるものではありません。
無断転貸によって賃貸借契約を解除するためには、賃借人の背信性により、契約当事者間の信頼関係が破壊されたと言える必要があります。
本件では、以下の事実が賃貸人であるAさんに有利な事情でした。
・Bが死亡したことをCが隠していたこと
・Aさんが「Bと話したい」と言っても、B死亡の事実をCが告げなかったこと
・Cが死者であるB名義で駐輪場の契約をしていたこと
一方で、以下の事実が賃借人であるBに有利な事情でした。
・CがBの息子であること
・Cが賃料を支払っていること
・Bの無断転貸が営利目的でないこと
裁判の途中で、裁判官が暫定的な事件の見立てを示すことがあります。
これを裁判官の心証開示と言います。
裁判官は、確定的な心証ではないと前置きしつつ、「賃借人Bの背信性が強いとまでは言えないのではないか」との心証を開示
しました。
つまり、裁判官は、こちらの請求を認めないと示唆したのです。
その後、Bは、和解案として、「立退料170万円を支払えば明渡しに応じる」と提案しました。
これを受けて、弁護士は、裁判官に対し、マンションという一生に一度の大きな買い物の重要性、Aさんがいかなる思いで本マンションを取得したか等の事情を主張しました。
Aさんと打合せを重ね、粘り強く主張を重ねた結果、最終的に、Bから以下のような和解の提案がありました。
・立退料は無し
・明渡しは3カ月以内(それまでの賃料は支払う)
・Bは敷金を放棄する
・AさんはBに本マンションの原状回復を求めない
原状回復の請求ができないという点にリスクがありましたが、Bの放棄する敷金を原状回復工事に充てられると考え、和解に応じることにしました。
無断転貸があったとしても、以下のような事情がある場合は賃貸借契約の解除が認められにくい傾向があります。
・親族間の転貸
・賃借人(転貸人)が利益を得ていない
・家賃が支払われている
本件も一般的には賃貸借契約の解除が認められにくいケースでした。
しかし、Bが死亡していたことを知らずにAさんが本マンションを購入したこと、Bが生きているとCが装ったこと等を考慮すると、このままCの入居を認めるわけにはいきませんでした。
そのため、Cの背信性を強調して、訴訟に踏み切ることにしました。
一般的には請求が認められにくいものであったとしても、裁判官に対し、当事者が抱える具体的な不都合を訴えかけ、粘り強く訴訟活動を行えば、道が開けることがあります。
道を切り開くために重要なことは、経験でも、事件の筋でもありません。
弁護士の執念です。
裁判官の心証開示により一時は雲行きが怪しくなりましたが、最終的には当方の請求が全面的に認められる内容の和解が成立
しました。
Aさんには訴訟の経過を逐一報告していましたので、解決時には大変お喜びいただくことができました。
当事務所では、不動産に特化したリーガルサービスに注力しております。
賃貸借契約においては、賃借人保護が重視されています。
賃借人が多少の不誠実な行動を行ったとしても、賃料がきちんと支払われている以上、賃貸人が契約を解除することが困難です。
しかし、弁護士が粘り強い主張立証活動を行い、裁判官に真摯な検討を促すことで、良い結果を得ることも可能です。
不動産関連法務に関しては、不動産明渡請求の他にも以下のような業務を行っておりますので、まずはお問い合わせください。
find a way 法律事務所
弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明