IT業界における契約不適合責任の追及を排斥した事例 - 大阪市で労使、飲食、M&Aに関する相談は「findaway法律事務所」へ

 

IT業界における契約不適合責任の追及を排斥した事例


 

弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

今回は、WEBサイト制作会社が納品後1年近く経過した後に不具合を指摘されたというケースを紹介します。

 

1 事件の概要

 

ご相談者のA社は、WEBサイト制作、グラフィックデザイン等を行う会社です。

 

A社は、広告代理店B社を介して他社のコーポレートサイトの制作を請け負い、令和2年11月に納品を完了しました。

その後、A社が制作したサイト(以下「本サイト」といいます)は公開されていましたが、10ヵ月後の令和3年9月になって

突然、表示されなくなりました。

 

A社は原因について調査しましたが、本サイトに不備は見当たりませんでした。

ところが、B社は、A社に対して、執拗に調査費用、補修費用等を請求してきました。

 

A社の代表者は、B社対応の重圧に耐えきれず、当事務所に相談に来られました。

 

 

 

 

2 解決結果

 

弁護士は、A社の代理人としてB社に文書を送付し、本サイトに不備が確認できないため、A社が責任を負わない旨通知

しました。

その後、3ヵ月が経過しましたが、B社からの回答はありません。

 

 

 

 

3 対応内容

 

⑴ A社へのヒアリング

 

A社は本サイトが表示されない原因を調査しましたが、特に問題が見当たりませんでした。そのため、A社は、自社が関与して

いないドメインの設定に原因があるのではないかと考えました。

 

A社がB社にドメインの確認を求めたものの、取り付く島もなく、B社は「すぐに復旧させるように」と言い続けているとのことでした。

さらに、B社は、他社に復旧作業を依頼して、その費用をA社に請求すると主張しているとのことでした。

 

本サイトの制作については契約書を作成しておらず、A社は自社がどこまで責任を負うのか、不安を感じておられる様子でした。

 

 

 

 

⑵ 瑕疵担保責任・契約不適合責任

 

B社は「本サイトには瑕疵がある」と主張していました。

「瑕疵」とはキズを意味し、「瑕疵がある」とは通常有すべき性能を欠いているという意味です。

 

旧民法には「瑕疵担保責任」という責任が定められていましたが、令和2年4月の改正民法では、「契約不適合責任」という

名称に改められました。

 

「契約不適合」によって注文者に損害が生じた場合、受注者はその損害を賠償する責任を負います。

 

B社の主張は、契約不適合責任の追及によってA社に損害賠償を求めるという内容であると理解しました。

 

 

 

 

⑶ 内容証明郵便による通知書の発送

 

本サイトに契約不適合があると主張するのであれば、法律上、B社がその存在を証明しなければなりません。

しかし、B社は、一方的な物言いでA社に責任があると主張しており、何の証明もなされていません。

 

そのため、弁護士は、内容証明郵便で文書を送付して、

・令和2年11月に本サイトが完成し、約10ヵ月が経過していること

・B社が契約不適合の存在を立証していないこと

・A社は請求に応じられないこと

等を通知しました。

 

その後、B社からの回答はありません。

 

当事務所は、A社に対して、月2回程度の頻度で進展がないことを報告していましたが、3ヵ月を経過しましたので、ご依頼を

受けた事務を終了することとしました。

 

 

 

 

4 弁護士の見解

 

⑴ 契約不適合責任

 

「契約不適合責任」とは、売買契約や請負契約で、納品物に不具合があった場合に売主や請負人が負う責任を言います。

 

令和2年4月の民法改正によって、これまで「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものが「契約不適合責任」という名称に変更

されました。

 

WEBサイトの制作は、法律上、請負契約にあたります。

そのため、WEBサイト制作会社が納品したサイトに不具合があった場合、制作会社は契約不適合責任を負います

(民法559条、562条)。

 

注文者は契約不適合責任の追及として、以下のような請求をすることができます。

履行の追完の請求(不具合の補修の請求)

代金の減額の請求

損害賠償請求

契約の解除(契約を解除して代金の返還を求める)

 

納品物に不具合(契約不適合)があることは注文者側が証明しなければなりません。

 

本件では、本サイトに不具合があること、つまり、本サイトが表示されないのはA社の作業が原因であることが証明されない

限り、A社が責任を負うことはありません。

 

A社としても真摯に調査した結果、本サイトには原因はないと判断していました。

そのため、B社に対し、契約不適合が立証されていないと主張しました。

 

 

 

 

⑵ ストレスからの解放

 

A社はB社に対し、繰り返し、本サイトには原因がないと説明しました。

しかし、B社は執拗にA社に責任を取れと主張していました。

 

本件では、契約不適合の立証がないため、B社からの連絡を無視してもA社が法的責任を負うという事態になる可能性は

低いものでした。

 

しかし、A社はその他の受注業務で多忙を極めており、B社の対応にエネルギーを費やしている時間はないという状況でした。

 

弁護士が受任通知を送ると、相手方から直接の連絡を受けることはなくなります

(まれに直接連絡をしてくる者もいますが、すぐに弁護士が抗議します)。

 

そのため、要求内容がいかに理不尽で法的に認められないものであっても、その対応を弁護士に一任するメリットはあります。

 

A社の代表者も、当事務所での法律相談を終え、「眠れない日々が続いていましたが、久々にすがすがしい気分です。」と言いつつ、帰って行かれました。

 

 

 

 

⑶ 契約書の重要性

 

A社は本サイトの受注時に契約書を交わしていませんでした。

そのため、自社がいかなる範囲で責任を負うのかよくわからず不安を感じたとのことでした。

 

WEBサイト制作、システム開発等の契約は注文者と請負人のイメージする完成像が乖離していることが多く、紛争が生じやすいという特徴があります。

 

そのため、弁護士が作成した契約書の雛型を1つ用意しておくことが望ましいです。

 

契約する際は、基本的に雛型を使用します。

注文者が契約書を提示してきた場合には、雛型に照らして条項をチェックするか、あらためて弁護士に契約書のリーガルチェックを依頼しましょう。

 

 

一例として、WEBサイト制作契約書では以下のような条項に注意する必要があります。

 

●目的物の定義

前述のとおり、注文者と請負人のイメージする完成像が乖離していることが多いため、できる限り詳しく完成像を適宜します。

 

●納期

納期を定めておくことは当然ですが、文者の希望への対応、注文者の決定の遅延等があったときは納期を延ばすことができるといった条項を入れておく必要があります。

 

●納品

何をもって納品が完了したとするかも明確にしておく必要があります。

WEBサイトが公開されているにもかかわらず、注文者が細部にこだわり「まだ納品されていない」と主張する事態を回避しなければなりません。

WEBサイトの公開前に注文者に検査を求め、一定期間内に修正依頼がなかった場合には納品が完了したものとみなすといった

規定を入れることが一般的です。

 

●契約不適合責任

民法の規定にかかわらず、契約書で契約不適合責任を排除したり、期間を短く定めることが可能です。

 

 

 

 

5 解決結果のまとめ

 

現時点で本サイトは復旧しており、3カ月以上にわたってB社からの連絡はありません。

もちろん、A社もB社からの連絡を受けておらず、業務に専念できているとのお喜びの声をいただきました。

B社はもはや請求を断念したと考えてよいでしょう。

 

当事務所は、IT業界の他にもBtoBビジネスにおける紛争解決を多数扱っております。

紛争予防の見地から、契約書のリーガルチェック、契約書・利用規約の作成等も行っておりますので、まずはお問合せください。

 

 

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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明