デリバリーのドライバーが事故を起こした場合の法律関係 交通事故編
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
新型コロナウィルス感染拡大以降、デリバリーによる料理の提供を導入する飲食店が増加しています。
ドライバー配達中に事故を起こしたというケースで、前回の記事では対顧客との関係について解説しました。
今回は、ドライバーが配達中に事故を起こした場合における、事故の被害者やドライバーとの関係について解説します。
目次
従業員がお店のバイクで配達中に事故を起こして、歩行者にケガをさせてしまいました。
この場合、直接の加害者である従業員は当然、歩行者に生じた損害を賠償する責任を負います。
では、お店は責任を負うでしょうか?
お店は、事故を起こした従業員の使用者であり、バイクの所有者でもあります。
そのため、お店も法的責任を負います。
この場合の飲食店の責任を使用者責任、運行供用者責任といいます。
運行供用者責任とは、そのバイクを使って利益を得ている者が負う責任です。
ただし、交通事故の場合、何かしらの保険でカバーすることが多いと思います。
業務でバイクを使用する場合は、任意保険の使用目的が業務使用でもカバーできる内容になっているか確認しておきましょう。
自転車で事故を起こした場合でも結論は同じです。
自転車には自賠責保険のような強制加入の保険がありませんが、自転車での配達を予定している場合には必ず任意保険に加入しておきましょう。
従業員が自分のバイクで配達中に事故を起こした場合はいかがでしょうか。
この場合でも、業務中の事故である限り、原則としてお店は使用者責任を負います。
ただし、お店が自家用車での配達を明確に禁止していたような場合には、責任を負わないこともあります。
事故の原因について従業員の落ち度が大きい場合などには、お店が、従業員にも損害の負担を求めることはできます。
しかし、被害者にとって、お店と従業員の内部の事情は関係ありませんので、被害者がお店に何らかの請求をしてきた場合には「うちは関係ない」と言うことはできません。
従業員が自分のバイクで起こした事故であっても、何かしらの保険でカバーすることが多いと思います。
被害者もできることならスムーズに被害弁償を受けたいはずです。そのため、「法的に誰が責任を負うのか」についてはあまり考えることなく、窓口に立ってくれる任意保険会社とやり取りすることが多いと思われます。
従業員ではなく、UberEatsのドライバーが配達中に事故を起こして歩行者にケガをさせてしまいました。
この場合に責任を負うのは誰でしょうか?
以下に述べる結論は、配達しているのが出前館など他の事業者であっても同じです。
まず、ドライバーは事故の直接の加害者ですので、確実に責任を負います。
注文した顧客は、アプリを通じてドライバーに配達を依頼しているので、ドライバーを動かした張本人と見ることもできます。
しかし、注文した顧客が責任を負うというのは非常に違和感がありますね。
結論としては、注文した顧客が法的な責任を負うことはないと思われます。
ドライバーと全く面識のない顧客は、自らの努力によって事故を防ぐことなどできませんし、ドライバーを使ってお金儲けをしているわけではないからです。
また、事故の被害者が注文した顧客を特定することは不可能です。そのため、注文した顧客が事故の被害者からの連絡を受けるということもまずないでしょう。
UberEatsを導入しているお店もドライバーを動かした張本人と見ることができます。
また、お店はドライバーの配達によって利益を享受できる立場にあります。
しかしながら、お店が法的な責任を負うことはないと思われます。
お店は、料理を取りに来るドライバーを選ぶことはできません。そのため、ドライバーに指揮したり、監督したりすることはできません。
事故の防止については、お店も注文した顧客と同じく、何とも努力のしようがありません。
また、事故の被害者が、どこのお店の料理を配達していたのかを知ることも難しいでしょう。そのため、お店が事故の被害者からの連絡を受けることはないと思われます。
料理が配達できなくてお客様には迷惑がかかるし、事故の被害者には賠償しないといけないし、といったダブルパンチに陥ることはまずありません。
では、UberEats本体は責任を負うでしょうか。
UberEatsは、個人事業主である配達員に業務委託しているだけであるため、責任を負わないという主張をしているようです。
これは法的にはなかなか難しい問題で、現に裁判でも争われています。
しかし、私個人としては、UberEatsは責任を負うと考えます。
まず、UberEatsは、ドライバーに指導教育し、安全運転を促進するような制度を作ることで事故を予防することが可能な立場にあります。
また、UberEatsは、ドライバーの配達によって利益を得ているのですから、ドライバーの配達によって損失が生じた場合であってもそれを受け入れるべきです。
このような考え方を報償責任の原理と言い、使用者責任の根本にある考え方の1つです。
裁判例においても、雇用関係が存在せず、業務委託関係しか存在しない場合であっても委託者は使用者責任を負うとされています(東京地方裁判所平成25年8月6日判決)。
さらに、日本の裁判所は、「外観から職務の範囲内のように見えるかどうか」を基準に、使用者が責任を負うかを判断する傾向があります(外形標準説)。
UberEatsのドライバーは、黒字に緑の文字が入った特徴的なボックスを背負っていますので、外形標準説からするとUberEatsも責任を負うと考えられます。
当事務所で実際にあった事例を紹介します。
当事務所は、以下のような交通事故に関する相談を受けました。
・新車がUberEatsで配達中の原付バイクに追突された
・加害者は任意保険に入っておらず、さらに破産申立ての準備をしている
・修理費や代車費用は自分が負担しなければならないのか
加害者が破産してしまうと修理費などを回収することができません。
そこで、私は、UberEatsを運営するウーバーイーツジャパン合同会社に損害賠償請求をすることにしました。
インターネットの情報によると、ドライバーの交通事故について、UberEatsは法的責任を否定しているとのことでした。しかし、私は、前述のとおり、UberEatsは法的責任を負うと判断し、内容証明郵便にて請求書を送付しました。
すると、UberEatsの加入している任意保険会社から連絡があり、交渉によって修理費用等の全額の賠償を受けることができました。
このように、UberEatsは法的責任を否定しているものの、現時点では任意保険に加入して被害者への賠償に応じています。
UberEatsのドライバーが配達中に事故を起こした場合、被害者が誰に賠償を求めるかを選びます。
被害者は、誰からであれば回収できるか、誰から回収するのが効率がよいかを考えて請求相手を決めます。任意保険があるのであれば、任意保険を使える相手に請求します。
したがって、飲食店がターゲットとされる可能性は高くないと考えられます。
従業員が配達中の事故で負傷した場合、労災事故となります。
ケガが重く、労災保険金でカバーできない場合には、お店が不足分の請求を受けることがあります。
事故の状況からして、従業員にも落ち度がある場合には従業員にも負担を求めることはできます。
UberEatsのドライバーが配達中の事故で負傷した場合であってもお店が責任を負うことはありません。
UberEatsは登録ドライバーが事故で負傷した場合の補償を準備しているようです。
従業員が配達中に交通事故を起こした場合、配達に使ったバイクの所有者がお店であっても従業員であっても、被害者は、飲食店に対して損害賠償請求をしてくることがあります。
そのため、飲食店としては、万が一、交通事故が起こってしまった場合に使える任意保険があるのか、しっかり確認しておきましょう。
一方で、UberEatsのドライバーが配達中に交通事故を起こした場合、お店が責任を負うことはありません。
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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明