飲食店が提供できる生肉の部位と衛生管理の注意点 - 大阪市で労使、飲食、M&Aに関する相談は「findaway法律事務所」へ

 

飲食店が提供できる生肉の部位と衛生管理の注意点


皆様こんにちは。HACCPコーディネーターの石田です。

 

西日本を中心に記録的な大雨による土砂災害や道路冠水が発生しています。大気の状態が安定せず、到底8月とは思えない天候が続いていますね。

 

新型コロナウィルスの感染拡大も収束しない毎日ですが、気分転換に家族や親しい友人と外食に出かけることも最近では多くなっているのではないでしょうか。

 

本日は、外食に行った際、気になった飲食店が提供できる生肉の部位と衛生管理についてお話していきたいと思います。

 

1 飲食店で提供が禁止されている生肉・部位について

 

飲食店に行くと、生肉を載せた肉寿司や馬刺し、またユッケなどが提供されている場面に出会います。

そういえば、ユッケって提供していいんだったっけ? 馬刺しはOKなの?と頭が混乱することはありませんか。

 

 

では、飲食店で提供が禁止されている生肉・部位について確認していきましょう。

 

(1)牛の肝臓(レバー)

 

厚生労働省は食品衛生法に基づき、牛の肝臓に関する新たな基準を設定し、平成24年7月1日から牛の肝臓(レバー)を生食用として販売・提供することを禁止しました。

牛の肝臓の内部には腸管出血性大腸菌などの食中毒菌が存在することがあります。また、これまでに牛の肝臓を安全に生食する予防策が見出されていません。このような理由で、牛の肝臓の生食は禁止されています。

 

また、厚生労働省は、飲食店向けに牛の肝臓の調理に関する<新しい基準のポイント>を定めました。

<新しい基準のポイント>は以下の通りです。

 

①牛のレバーを原料として調理する場合は、レバーの中心部まで十分に加熱しなければなりません。

(中心部の温度が63℃で30分間以上、または75℃以上で1分間以上など)

 

②牛のレバーは『加熱用』として提供しなければなりません。

 

③来店客が自ら調理するため、加熱されていない牛のレバーを提供する際には、中心部まで十分な加熱が必要である旨の案内をしなければなりません。

 

 

 

 

(2)豚の食肉(内臓を含む)

 

厚生労働省は食品衛生法に基づき、豚の食肉(内臓を含む)に関する新たな基準を設定し、平成27年6月12日から豚の食肉(内臓を含む)を生食用として販売・提供することを禁止しました。

 

<新しい基準のポイント>は以下の通りです。

 

①豚の食肉は、『加熱用』として販売しなければなりません。

(「生食用」「刺身」として、豚の食肉を販売することはできません。)

 

②豚の食肉(内臓を含む)は『加熱用』として提供しなければなりません。

 

③加熱されていない豚の食肉を販売する際には、豚の食肉の中心部まで十分な加熱が必要である旨の案内をしなければなりません。

 

 

 

 

(3)牛の肝臓、豚の食肉において実施すべき事項の共通点

 

厚生労働省の基準によると、牛の肝臓、豚の食肉ともに飲食店において実施すべき事項は以下の2点です。

 

①来店客が店で自ら調理して食べる場合には、飲食店はコンロや七輪などの加熱調理ができる設備を必ず提供して下さい。

 

②飲食店は、来店客が牛のレバー、豚の生肉(内臓を含む)を中心部まで十分に加熱して食べるよう、

「加熱用であること」

「調理の際に中心部まで加熱する必要があること」

「食中毒の危険性があるため生で食べられないこと」

をメニューや店内の掲示などにより、来店客に案内して下さい。

 

 

牛のレバー、豚の食肉(内臓を含む)の生食が禁止されているんですね。

厚生労働省「牛レバーを生食するのは、やめましょう(「レバ刺し」等)」

 

私はてっきりユッケも禁止になっているのだと思っていました。

平成24年7月に基準が改訂された背景にはどんなことがあったのでしょう。

 

 

 

 

2 生肉が提供禁止になった背景

 

記憶にある方もとても多いのではないかと思います。

平成23年、富山県などで5人が死亡、181人が発症した焼肉酒家えびす」の生肉集団食中毒事件です。

 

この多くの被害者を出した食中毒事故の要因は以下の通りです。

 

・系列チェーン店において、生食用食肉の衛生基準に基づく処理や表示がされていない原料肉を食肉卸売業者からユッケ用として仕入れていた。

 

・焼肉店において客に提供する際も生食用食肉の衛生基準に基づいた処理がなされていなかった。

 

この事件では、ユッケ用肉が焼肉店に納入される前の段階で細菌に汚染されており、食肉卸売業者、と畜場などのいずれかの処理工程で汚染された細菌が除去されず、客に提供されたと考えられます。

 

チェーン店であったことも被害者数を増大させた要因になりました。

 

この事件を受け、厚生労働省において、大規模な細菌検査が実施されました。

その結果、レバ刺し用に加工された牛レバーの内部からも、死をも引き起こす腸管出血性大腸菌(O157)が検出されました。検査が実施される前までは、レバーの外側にO157が付着していてもきちんと処理を行えば内部にはO157の生息はなく、安全と言われ提供されていました。

国はこの結果を受け、平成24年7月より食の安全を守るために設置された食品衛生法によって、牛の肝臓の生食を禁止したという背景があります。

 

牛の肝臓の生食が禁止された後、一部の飲食店で牛がだめならと、豚の肝臓を生食用として提供していることが判明しました。

豚にはE型肝炎ウィルス、食中毒菌及び寄生虫による危害要因があり、公衆衛生上リスクが非常に高いことから平成27年6月12日より豚の食肉(内臓を含む)の生食の提供が禁止となったという背景があります。

 

 

 

 

3 生肉を食べる危険性

 

生肉が提供禁止になった背景からもお分かりになると思いますが、生肉には食中毒の原因になる細菌やウィルス、寄生虫が多く付着しています。

生肉に付着している主な細菌とその特徴は以下の通りです。

 

 

(1)腸管出血性大腸菌

 

牛などの家畜の腸管内に生息する。

 

ベロ毒素を産生し、出血性大腸菌や溶血性尿毒症症候群(HUS)、脳症などの重症合併症を引き起こす。

 

子供や高齢者は免疫力が低く、HUSを起こしやすい

 

・感染経路は牛などの肉のみでなく、二次的に汚染された食品も原因となる。また、食品からだけでなく、ヒトからヒトへの直接感染や菌を保菌している動物との接触により感染する場合もある。

 

・腸管出血性大腸菌による食中毒を予防するためには、手洗い、食材などから調理器具を介した二次汚染の防止、食品の十分な加熱などを行う必要がある。

 

 

 

 

(2)エルシニア食中毒

 

・ペットなどあらゆる動物が保菌しており、特に豚肉の汚染が高い。井戸水や動物の糞便にも生息している。

 

4℃以下の低温環境でも増殖する低温細菌である。

 

・エルシニア食中毒を予防するためには、基本的な食中毒の予防方法とあわせて、生肉を10℃以下で保存する場合でも保存期間は短時間にとどめ、長く保存する時は冷凍する必要がある。冷蔵庫内で保存する時は、野菜など、生で食べる食品と区別して保存する必要がある。

 

 

 

 

(3)カンピロバクター

 

健康な家畜や鶏の腸管内に広く分布しており、特に鶏肉(食肉や内臓)はカンピロバクターに高度に汚染されている。

 

・酸素が少量含まれる環境ではじめて発育できる微好気性細菌。発育するのに必要な酸素濃度は3~15%。発育温度は31~46℃。乾燥や熱に弱い性質がある。

 

・カンピロバクターの大きな特徴として、少しの菌量(100個程度)でも食中毒を引き起こす。

 

・カンピロバクターによる食中毒を予防するためには、生肉専用の包丁やまな板を使用する、生肉を扱った後は、十分に手指を洗浄・消毒するなど、二次汚染の防止が必要。また、熱に弱いことから中心部で75℃以上、1分以上加熱するなど、加熱調理を徹底する必要がある。

 

 

 

一部の細菌の概要をご案内したのですが、多くの食中毒菌は十分な加熱調理により死滅します。近年増えている食中毒は、刺身や生レバーなどのように肉類を生で食べたり、加熱が不十分な肉料理を食べたりすることによって発生しています。食中毒を防ぐためには、生肉や加熱が不十分な肉の料理を食べないことがとても重要です。

 

 

 

 

4 飲食店で提供できる生肉と条件

 

生肉の提供はリスクが高いことから厳格な規制が設けられました。しかし、生肉が一切提供できないのかというと、そうではありません。飲食店でも生肉が提供されている場面をよく見かけます。

では生肉を使ったメニューを提供するための条件と提供する際の表示基準を確認していきましょう。

 

(1)提供するための条件

 

条件付きで提供できる牛の生肉(内臓を除く)には、ユッケや牛刺し、牛タタキなどがあります。以下の条件で提供可能です。

 

・腸内細菌科菌群試験の結果が陰性であること。

 

・陰性確認の検査記録を1年間保存すること。

 

他の設備と明確に区別され、器具及び手指の洗浄及び消毒に必要な専用の設備を備えた衛生的な場所で、専用の器具を用いて加工をすること。

 

・加工に使用する肉塊は、枝肉から切り出した後速やかに気密性のある容器に入れ、密封し、肉塊の表面から深さ1cm以上の部分までを60℃以上で2分間加熱する方法、又はこれと同等以上の方法で加熱殺菌後、速やかに4℃以下に冷却すること。

 

・規定の温度管理を守ること(冷蔵は4℃以下、冷凍はー15℃以下)。

 

・腸管出血性大腸菌などの細菌感染リスクを知るものが調理を行うこと。

 

・調理を行った生肉は速やかに提供すること。

 

・生食用食肉の加工・調理は「認定生食用食肉扱者」が行うこと。

ただし、適切に加工処理された生食用食肉を仕入れ、調理のみを行う施設においては、その施設の食品衛生責任者が認定生食用食肉取扱者として認められる

 

 

 

 

(2)生食用食肉の表示基準

 

生食用食肉の表示基準は以下の通りです。

リスクが高い食材であるために、厳格な基準が設けられていることで安心して生肉を食べることができるんですね!

 

・メニューなどに生肉の食中毒リスクに関する記載を表記すること。

 

・子供や高齢者などの食中毒に対する抵抗力の弱い人は食肉の生食を控えるべきと表記すること。

 

 

 

 

5 まとめ

 

牛の肝臓には腸管出血性大腸菌という大きな危険が潜んでいることが、生食禁止である所以ということがわかりました。他の動物ですと、豚や鹿、イノシシなどの野生動物の肉やレバーにはE型肝炎に感染するリスクがあります。E型肝炎も腸管出血性大腸菌と同様に重症化し、死亡するケースもあります。

 

生肉を取り扱う規制やルールに違反してしまうと営業停止などの行政処分を受ける可能性があるだけでなく、たくさんの人の生命にかかわってきます生肉を提供する際は、規制やルールを十分に確認し、衛生面に細心の注意を払って取り扱い頂ければと思います。

 

生肉以外にも食品衛生に関する注意事項や法律は、以下の記事をご参照ください。

 

飲食店の衛生管理に関する法律の概要

 

 

 

find a way 法律事務所

HACCPコーディネーター 石田 香玲