【飲食店の衛生管理に関する法律】 - 大阪市で労使、飲食、M&Aに関する相談は「findaway法律事務所」へ

 

弁護士の荒武です。

 

飲食店において、食中毒の発生を防止し、「安全な食品を提供すること」は、最も基本的かつ重要なテーマです。

飲食店の衛生管理に関する法律にはどのようなものがあるのでしょうか。

この記事を読んでいただくことにより、飲食店の食品衛生に関する法律の概要を理解していただくとともに、飲食店における食中毒発生時の対応を理解していただくことができます。

 

第1 飲食店の衛生管理に関する法律の概要

 

1 食品衛生法

 

食品衛生に関する代表的な法律が、昭和23年に施行された食品衛生法です。

飲食店営業を開始する際には、食品衛生法に基づく都道府県知事の許可が必要とされています(法51条、52条)。そのため、食品衛生法の名称を聞いたことがある方は多いと思います。

 

食品衛生法は、都道府県に対し、条例で食品衛生に関する基準を定めることを求めており、飲食店が営業許可を受けるためには、この基準を満たす必要があります。

また、食品衛生法は、飲食店に対する行政指導や営業停止等の処分も定めています。

 

さらに、食品衛生法は、人の健康を損なうおそれのある食品を列挙し、その販売を禁止しています。具体的には、以下のような食品の販売が禁止されています(法6条)。

 

① 腐敗、変敗したもの

② 未熟なもの

③ 有毒・有害な物質が含まれたり、付着したりするもの、またはその疑いがあるもの

④ 病原微生物により汚染され、またはその疑いがあり、人の健康を損なうおそれがあるもの

⑤ 不潔、異物の混入等の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの

 

もし、飲食店で食中毒が発生した場合、基本的には上記①ないし⑤の食品を販売したこととなり、その飲食店は食品衛生法に違反したこととなります。

 

平成30年の食品衛生法改正により、飲食店にHACCPに沿った衛生管理の導入が義務付けられました(法第50条の2)。

HACCPとは簡単に言うと、食中毒が発生しにくい管理体制のことです。HACCPの具体的内容については、あらためて記事を作成いたします。

 

2 食品安全基本法

 

BSE(牛海綿状脳症)の発生や繰り返される食品偽装表示事件等を契機として、食品安全行政の見直しが意識されるようになり、平成15年5月に食品安全基本法が制定されました。

食品安全基本法が飲食店の業務に直接関係することはほぼないと思います。ただし、食品安全基本法は、食品関連事業者の責務が、①食品の安全性確保のために必要な措置を適切に講ずること、②食品等に関する正確かつ適切な情報の提供、③国または地方公共団体が実施する食品の安全性確保に関する施策に協力すること、であると明確にしています。

ここに言う「食品関連事業者」には、飲食店経営者も含まれます。

そのため、業務に関係しないとはいえ、飲食店経営者も食品安全基本法の名称と、同法が宣言する飲食店の責務は把握しておいていただきたいと思います。

 

3 食品表示法

 

平成21年9月の消費者庁の設置に伴い、食品衛生法、健康増進法、JAS法の「食品表示」に関する部分をまとめて食品表示法が施行されました。

 

食品表示法については、以下の記事をご参照ください。

「食品表示法における生鮮食品・加工食品の表示のルール」

 

第2 食中毒が発生したときはどう対応するか

 

1 食中毒とは何か

 

そもそも食中毒とは何でしょうか。

農林水産省は、食中毒を「食品に起因する下痢、腹痛、発熱、嘔吐などの症状の総称」と定義しています。

これは、食品衛生法に度々登場する「食品に起因する食品衛生上の危害の発生」とほぼ同義と捉えられます。

 

厚生労働省は、食中毒病因物質を以下の6種類に分類しています。

① 細菌(腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラ属菌等)

② ウイルス(ノロウイルス、A型肝炎ウイルス等)

③ 動物性自然毒(フグ毒、シガテラ毒魚等)

④ 植物性自然毒(毒キノコ、アルカロイド含有植物等)

⑤ 化学物質(ヒスタミン、農薬、有害元素等)

⑥ 寄生虫(アニサキス、クドア等)

 

農林水産省の定義によりますと、同じ食品に起因する健康障害でも、異物混入によって生じる物理的障害は食中毒には含まれないこととなります。

 

2 食中毒発生による飲食店への影響

 

⑴ 行政処分

 

前述のとおり、飲食店で食中毒が発生した場合、その飲食店は、基本的には上記①ないし⑤の食品を販売したこととなります。そのため、営業停止等の行政処分を受ける可能性があります(法54条ないし56条)。

 

行政処分には、①営業停止処分(期間を定めた処分)、②営業禁止処分(危害を除去するまでの期間の設定が困難な場合における期間を定めない処分)、③許可取消処分があります。

また、営業の継続に影響がない処分として、④食品等の廃棄命令、⑤危害除去措置命令(販売禁止、使用禁止等)、⑥施設の整備改善命令といった処分があります。

行政処分に至らないものの、行政指導として始末書、顛末書の提出を求められることもあります。

 

⑵ 民事損害賠償

 

飲食店で食中毒が発生した場合、その飲食店の行為は、顧客に対する債務不履行または不法行為となります。そのため、飲食店は、被害者(顧客)が負担した治療費、休業損害、慰謝料等を賠償しなければなりません。

 

レストランのケーキビュッフェで顧客がノロウイルスによる食中毒に感染したという事件で、裁判所は、レストランの経営者に対し、顧客が要した治療費等の実費と慰謝料2万円の支払いを命じました(東京地裁平成25年1月28日判決)。

 

焼肉店が提供したユッケにより、顧客が腸管出血性大腸菌による食中毒に感染し死亡したという事件をご存知だと思います。この事件では、5名の死者(6歳男児、6歳男児、14歳男児、43歳女性、70歳女性)が死亡しました。遺族らが提起した訴訟において、裁判所は、焼肉店を経営する会社に対し、約1億7000万円の支払いを命じました(東京地裁平成30年3月13日判決)。

 

⑶ 刑事処分

 

飲食店で食中毒が発生した場合、食品衛生法に基づく刑事処分を受ける可能性があります(法71条、78条)。

また、結果が重大または態様が悪質といった事情がある場合には、刑法の業務上過失致死傷罪(刑法211条)として処罰される可能性もあります。

 

⑷ その他の影響

 

仮に、食中毒による被害が軽微で上記の処分等を免れたとしても、顧客や取引先からの信用は著しく低下します。

また、近年、飲食店に対するクチコミ投稿サイト等が多数存在しておりますので、ネット上での炎上リスクが存在し、信用を取り戻すためには相当の努力が求められるものと考えられます。

 

3 食中毒が発生したときはどう対応するか

 

顧客から食中毒を疑わせる連絡を受けた場合、速やかに、以下のような対応を取る必要があります。

 

⑴ 情報収集

 

まず、連絡をくれた顧客に対するヒアリングにより以下の情報を収集します。

① 来店日時

② 人数

③ 当日食べた料理

④ 発症日時

⑤ 具体的症状

 

その上で、必要に応じて、病院の受診と受診結果に関する情報提供を依頼します。

この段階で、顧客から激しいクレームや治療費等の請求を受けることもあると思います。その場合であっても、因果関係の存在が明らかである場合を除き、安易に責任を認めるべきではありません。顧客には、調査の上で誠実に対応することを約束し、まずは原因究明に努めることを伝えましょう。

なお、この段階で謝罪したとしても、法的な責任を認めることにはなりませんので、会話のやり取りの中で謝罪をすることは差し支えありません。

 

⑵ 記録の確認

 

情報収集後、顧客の注文伝票その他の記録を確認し、原因と考えられる食品とその食品を提供した顧客の範囲を特定します。

その際、前述のHACCPを導入済みであれば、店内に衛生管理に関する一定の記録が残されていることになり、原因の調査が容易になります。

また、調査の結果、因果関係がないと判断した際には、HACCPの記録をもとに、顧客に説明することが可能になります。

 

⑶ 調査範囲の拡大

 

記録確認後、原因と考えられる食品が浮上した場合、その食品を提供した顧客へも調査範囲を拡大します。

可能であれば、その食品を提供した顧客に連絡をとり、症状の有無を確認します。連絡先がわからない場合は、ホームページや店頭の掲示により情報発信することも検討すべきです。

 

⑷ 保健所への連絡

 

食中毒発生の可能性が高い場合には保健所に連絡し、食品衛生監視員による調査が実施されたときは、その調査に協力します。

法律上は飲食店には保健所への届出が義務付けられていません。

しかし、食中毒発生の可能性があるときは、積極的に調査及び情報発信を行い、被害の拡大防止を最優先に考えなければなりません。

 

第3 飲食店の食品衛生に関する当事務所のサポート内容

 

find a way 法律事務所では、弁護士、中小企業診断士及びHACCPコーディネーターの資格をもつ専門家による飲食店に特化したサポートを行っております。

顧客から食中毒を疑わせる連絡を受けた場合、経営への影響を最低限にとどめるため、迅速かつ適切な対応を行う必要があります。

そのため、提供した料理と食中毒との因果関係が判明した段階ではなく、顧客からの連絡があった段階で、ご相談いただくことをおすすめいたします。

 

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