ECモールの利用規約を作成した事例
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
今回は、システム開発等の事業を行う会社から、ECモールの利用規約の作成について依頼を受けた事例を紹介します。
依頼者は、事業者が地域の特産品を全国の消費者に販売するためのECモールを作り、リリースを控えておられました。
しかし、インターネットで拾ってきた利用規約をそのまま使うのは不安だということで、当事務所でご依頼を受け、サービスの特性に応じた利用規約を作成することになりました。
目次
利用規約とは、サービスを提供する事業者(サービス提供事業者)がユーザー向けに定めたサービス利用上のルールのことです。
不特定多数のユーザーがサービスを利用する場合、サービス提供事業者が個別に契約を交わすことは現実的ではありません。
サービス提供事業者が利用規約を事前にユーザーに示すことで、利用規約の内容がサービス提供事業者とユーザーとの契約の内容となるのです。
ECモールの利用規約の場合、サービス提供事業者(今回の依頼者)、出品者、購入者という三者間の契約を調整するという特徴があります。
以下では、ECモールの利用規約を作成するにあたって検討すべき法令を、順に解説します。
まずは契約の基本、民法です。
令和2年4月1日に改正民法が施行されました。
利用規約には、新たに定められた「定型約款」に関するルールが適用されることになりました。
インターネット上のサービスには利用規約が定められていることが多いです。
あまり見る機会はないと思いますが、Amazonにも利用規約があります。
生命保険の契約をする場合にも、どういった場合に保険金が支払われるかについて定めた保険約款というものがあります。
こういった利用規約、保険約款は民法の「定型約款」にあたります。
民法上、利用規約を契約の内容とするためには、以下のいずれかの対応が必要です(民法548条の2第1項)。
①利用規約を契約の内容とする合意をする
②利用規約を契約の内容とすることをユーザーに予め表示する
現実的な対応としては、②のルールに従い、ユーザーがサービスに申し込む際、
「利用規約を契約内容とすることに同意します」
というチェックボックスにチェックを入れると、申込ボタンをクリックできるようにしておくという方法があります。
また、サービス提供事業者は、ユーザーからの請求があれば、遅滞なく利用規約を示さなければなりません(民法548条の3第1項本文)。
ただし、事前に利用規約を提供していれば、再度の提供義務はありませんので(同条項ただし書)、申込時の自動返信メールに利用規約のリンク先URLを載せておくのがよいでしょう。
さらに、利用規約を変更する場合にも定型約款のルールの適用があります(民法548条の4)。
以下の場合には、変更後の利用規約の条項について双方の合意があったものとみなすというルールがあります。
①変更が相手方の一般の利益に適合するとき
②変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更することがある旨の定めの有無…
②は長いので端折っていますが、少なくとも、利用規約に「変更することがある」と書いておいたほうがよいということに
なります。
その他にも変更の効力発生時期を定めたり、変更内容をユーザーに周知する必要があります。
要するに、利用規約の中に、「利用規約を変更することがある」ということと「変更の手続」について、詳しく書いておくほうが、いざ変更した時に有効と認められやすいということです。
「当社は一切の損害賠償責任を負いません」という条項を見かけることがあります。
しかし、BtoC(事業者対消費者)の取引においては、以下のような条項は無効となります(消費者契約法8条1項)。
・損害賠償責任を全部免除する条項
・事業者に故意・重過失がある場合に責任の一部を免除する条項
そのため、例えば、以下のような内容を定める必要があります。
「当社が負うべき損害賠償義務は、当社に故意または重過失がある場合を除き、損害発生日から直近1年以内にユーザーが購入した代金の累積総額を上限とします。」
この条項は、ユーザーのうち購入者のみを対象にしています。
出品者は事業を行っていますので、消費貸借契約法の適用はありません。
したがって、出品者に対しては一切責任を負わないという条項を入れることは可能です(ネット炎上のリスクを踏まえ、入れるかどうかは別途検討が必要です)。
ざっくり言うと、ECモールでは、出品者と購入者が商品とお金をやり取りし、サービス提供事業者がこの取引をサポートします。
このサービス提供事業者の関わりが、「資金移動業」に該当すると資金決済法の適用を受け、内閣総理大臣の登録や資産の供託などの義務を負います。
この義務は結構大変です。
そのため、「資金移動業」に該当しないように利用規約を作成する必要があります。
資金決済法が心配しているのは、「サービス提供事業者が倒産して、購入者が商品も受け取れず、支払った代金も返ってこない」という状態にならないかという点です。
この状態を回避できれば、資金決済法の適用を回避することができます(脱法行為ではありません)。
具体的には、利用規約に以下のような条項を入れておけばOKです。
・購入者が購入ボタンを押した時点で、出品者と購入者との間で売買契約が成立する。
・購入者が支払う代金をサービス提供事業者が代理受領することを、出品者は承諾する。
・サービス提供事業者が代金を受領すれば、購入者の出品者に対する代金支払債務は消滅する。
これらを定めておけば、万が一、サービス提供事業者が倒産しても、購入者は商品代金を支払ったものとして、出品者に商品の引渡しを求めることができます。
現時点(令和4年9月)では、上記の条項を入れることで資金決済法の適用を回避できます。
しかし、資金決済法の適用範囲は徐々に拡大しているため、このスキームが数年後に通じるかは不明ですので、注意が必要です。
ECモールのサービス提供事業者は、出品者、購入者双方の個人情報を扱います。
個人情報保護法には様々な規制がありますが、ECモールの利用規約では、まず、個人情報の利用目的が適切に特定できているかを考える必要があります(個人情報保護法17条1項)。
例えば、商品の発送先等を把握するために個人情報を取得するという場面が多いと思います。
その他、取得した購入履歴、閲覧履歴等の情報からリコメンドを表示する場合には、そのことも利用目的として記載しておく必要があります。
個人情報の取り扱いの詳細については、プライバシーポリシーに記載することが多いでしょう。
そのため、利用規約には、プライバシーポリシーのリンク先URLを記載します。
なお、本件のECモールについてはプライバシーポリシーも当事務所が作成しましたが、紙幅の都合上、プライバシーポリシーについては稿を改めたいと思います。
以上のように、当事務所は、関連する法令を多面的に検討し、ECモールの利用規約を作成しました。
漏れの無い利用規約を作成するためには、事業者が提供しようとするサービスの内容を深く理解するとともに、関連法令の幅広い調査が必要です。
特に、弁護士において、関連法令にたどり着く知識とセンスが重要になります。
法令調査は中々骨の折れる作業で、「これで検討し尽くした」という境地に至るまで、想像力を駆使して、そのECモールのことを考え続けることになります。
当事務所では、利用規約の作成の他にも文書作成に関し、以下のような業務を行っております。
・内容証明郵便の作成
・契約書のリーガルチェック
・契約書の作成
・プライバシーポリシーの作成
・特定商取引法に基づく表記の作成
・就業規則その他社内規定のリーガルチェック、作成
紛争を解決する場面だけではなく、文書を整備することで将来の紛争を予防するという視点からも、是非、弁護士の活用をご検討ください。
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find a way 法律事務所
弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明