飲食店におけるHACCPの導入方法
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
令和2年の食品衛生法改正により、令和3年6月1日から飲食店においてHACCPの導入が必要となります。
この記事では、HACCPとは何か、具体的に何をすればよいのかを解説します。
目次
HACCPとは、食中毒を発生させないための食品の安全な管理方法のことです。
HACCP(ハサップ)は、「Hazard Analysis and Critical Control Point」の略で、日本語では、「危害分析と必須管理点」等と訳されます。
HACCPの前提となる概念として、「一般的衛生管理」があります。一般的衛生管理は、食品の安全性を確保する上で必ず実施しなければならない基本的事項です。例えば、飲食店においては、調理場やトイレの清掃、従業員の手洗い等が一般的衛生管理にあたります。
令和2年6月1日施行の改正食品衛生法第50条の2により、全ての食品等事業者に対し、一般的衛生管理とHACCPに沿った衛生管理の導入が義務付けられました。
全ての食品等事業者には飲食店も含まれます。そのため、令和3年6月1日から、全ての飲食店は、一般的衛生管理及びHACCPに沿った衛生管理を実施しなければなりません。そのほかに、食品加工事業者、病院、ホテル、幼稚園、老人ホーム等がHACCP義務化の対象とされています。
厚生労働省の発表は、HACCPを適切に導入しない事業者への対応について、以下のように説明しています。
「事業者が衛生管理計画を作成しない場合や内容に不備がある場合、又は作成しても遵守していない場合、まずは改善のための行政指導が行われます。事業者が行政指導に従わない場合には、改善が認められるまでの間、営業の禁停止などの行政処分が行われることがあります。」
(HACCPに沿った衛生管理の制度化に関するQ&A 令和2年6月1日改正版 Q17)。
HACCPの導入が食中毒の抑制につながるのはもちろんですが、他にも以下のようなメリットがあると考えられます。
・異物混入等の事故防止に伴うクレーム減少、ロス率の低下
・提供する飲食物の品質の安定、向上
・顧客や取引先からの評価、信頼の向上
・業務内容に応じた確認事項の明確化に伴う生産性向上
・従業員のモチベーションアップ
導入のデメリットはほぼありませんが、導入に伴う労力・コストをデメリットに思われるかもしれません。
飲食店で導入を義務付けられているのは、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」と呼ばれるもので、厳密には、国際標準のHACCPそのものではありません。
HACCPに沿った衛生管理には、以下の2種類があります。
①HACCPに基づく衛生管理
食品場、病院、ホテル・旅館、幼稚園、老人ホーム等
②HACCPの考え方を取り入れた衛生管理
居酒屋、総菜屋、パン屋、ケーキ屋等
「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」は、「各業界団体が作成する手引書を参考に行う、簡略化されたアプローチによる衛生管理」です。
飲食店における「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」は、①衛生管理計画の策定、②計画に基づく実施、③確認・記録の3段階で構成されます。
今でも飲食店ごとに衛生管理のルールを作っておられると思います。そのため、HACCPの導入と言っても、これまでと全く異なる新しい方法を導入するものではありません。
過去の経験や勘に基づいて行っていた衛生管理を、計画策定や記録で「見える化」することが、飲食店で導入するHACCPの内容です。
公益社団法人日本食品衛生協会は、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)」(以下「手引書」といいます)を作成しています。
まずは、日本食品衛生協会のホームページから、この手引書を入手しましょう。
日本食品衛生協会は、HACCPに必要な衛生管理計画・記録簿の様式も公開しています。
衛生管理計画の作成等に十分な時間をかけることが難しい場合には、HACCPコーディネーター等の専門知識を有するコンサルタントから導入のためのサポートを受けることもできます。
衛生管理計画は、手引書にも載っているとおり、一般的衛生管理と重要管理の2つに分けて作成します。
手引書の「一般的衛生管理のポイント」の様式には、「原材料の受入の確認」、「手洗いの実施」など、飲食店において当たり前のことが列挙されています。
様式をそのまま利用することも可能ですが、店舗設備や提供する食品の特性に応じて項目を追加し、オリジナルの書式を作成することが望ましいです。
各項目について、いつ、どのように管理し、問題があったときにはどうするかの対応を考えて記載します。
手引書の「重要管理のポイント」の様式には、具体的なチェック方法が記載されていませんので、店舗ごとに個別に作成する必要があります。
重要管理のポイントを作成するためには、細菌やウイルスに関する知識(どのような場面で付着するか、増殖条件、死滅方法等)が必要です。
10℃~60℃は細菌が繁殖しやすい温度で、「危険温度帯」と呼ばれます。調理によって加熱処理した場合であっても、その料理が冷めて危険温度帯になると、料理の中で生き残っていた食中毒菌が増殖を始めます。そのため、料理をできるだけ危険温度帯におかない、危険温度帯を速やかに通過させる、危険温度帯にある料理は速やかに食べてしまうといった観点からも具体的なチェック方法を検討する必要があります。
衛生管理計画を作成したら、必ず全従業員に周知し、実施方法を詳しくレクチャーしなければなりません。
従業員が衛生管理計画の存在や内容を知らなければ、せっかくのHACCPが絵に描いた餅になってしまいます。
衛生管理計画の実施状況は、毎日、確認し、記録しなければなりません。
手引書には「一般的衛生管理の実施記録」、「重要管理の実施記録」の様式が記載例とともに載っています。
少しでも気になることがあれば、「特記事項」欄に記載しておきます。
衛生管理計画の実施及び確認・記録は、就業規則にも記載し、社内の公式なルールであることを明確にしておくべきです。
例えば、服務規律に関する条項に、衛生管理計画の実施及び確認・記録を義務付ける内容を定めたり、懲戒事由として、衛生管理計画の実施又は確認・記録を怠ったことを定めるといった対応が考えられます。
HACCPを含む衛生管理に対する積極的な取組みを評価の対象としたり、HACCPに関する外部講習を受講させれば、従業員の衛生管理意識がより向上するでしょう。
農林水産省の発表よると、食品を介して新型コロナウイルス感染症に感染したとされる事例は報告されていません。
コロナウイルス感染症の主要な感染経路は飛沫感染と接触感染であると考えられています。そのため、食品取扱者の体調管理やこまめな手洗い、アルコール等による手指の消毒、咳エチケット等、一般的衛生管理を実施していれば足り、HACCPにおいて新型コロナウイルス感染症対策を行う必要はありません。
当事務所では、細菌・ウイルスや食品衛生に精通したHACCPコーディネーターによるHACCP導入支援を行っております。
具体的には以下のような支援を行っています。
① お店への訪問、設備、メニューの確認
② 衛生管理計画(一般的衛生管理のポイント・重要管理のポイント)の作成
③ 実施記録の作成指導
④ 従業員向け研修の実施
HACCP導入に不安を感じられている方はお気軽にお問い合わせください。
法律事務所がHACCP導入支援に取り組む思いについては、以下の記事をご参照ください。
find a way 法律事務所
弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明