改正女性活躍推進法による届出、公表の義務化
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
2021年の日本のジェンダーギャップ指数は、156カ国中120位でした。
毎年のようにニュースで取り上げられる話題ですが、この順位はG7では最下位、先進国の中でも最低のレベルです。
ジェンダーギャップ指数とは、各国の男女格差を数値化したものです。
つまり、日本は、男女格差が非常に大きい国なのです。
政府もこの状況を問題視しており、対策を考えています。
対策の1つとして平成27年に公布されたのが、
「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」、通称「女性活躍推進法」です。
女性活躍推進法は、文字どおり、女性の職業生活における活躍を推進することを目的とした法律です。
現在、女性活躍推進法は、常時雇用する労働者数301人以上の企業に行動計画の策定や情報の公表等を義務付けています。
しかし、令和4年4月1日から対象企業が拡大され、常時雇用する労働者数101人以上の企業にも同様の義務が課されます。
この記事では、対象企業が令和4年4月1日までに取り組むべき内容を解説します。
目次
対象企業は、行動計画を策定して労働局に届け出るとともに、情報を公表する義務を負います。
具体的な手順は以下のとおりです。
まずは自社の状況を確認しましょう。
以下の項目に関する状況を具体的な数値で把握します(法8条3項)。
① 採用した労働者に占める女性の割合
② 男女の平均継続勤続年数の差異
③ 労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況
④ 管理職に占める女性の割合
上記①~④の項目を踏まえ、改善すべき課題を分析します。
⑴の課題分析を踏まえ、行動計画を定めます。
行動計画には以下の内容を入れておく必要があります。
① 計画期間(いつからいつまでの計画なのか)
② 達成しようとする目標(1つ以上の数値目標)
③ 具体的な取組内容及びその実施時期
行動計画は労働者に配布、メール送信等の方法により周知します。
策定した行動計画は労働局に届け出ます。
届出の様式はこちらのサイトからダウンロードできます。
女性の職業選択に役立つよう、定期的に実績を公表します(法20条)。
自社のWEBサイトがある場合は、そこに掲載するとよいでしょう。
公表すべき内容は、以下の①~④のうち1項目以上です。
① 採用した労働者に占める女性の割合
② 男女の平均継続勤続年数の差異
③ 労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況
④ 管理職に占める女性の割合
その他に、公表するのは男女別の育児休業取得率、有給休暇取得率などでもよいとされています。
1項目を公表すれば義務を果たしたことになりますが、数値を把握したのであれば、出し惜しみせずに全ての情報を公表
しましょう。
定期的に情報を更新し、数値を改善してくことによって、女性活躍に積極的に取り組む企業であることをアピールすることが
できます。
取組みを実施した後、定期的に数値目標の達成状況を点検し、PDCAサイクルを回していきましょう。
ここまでが法律上の義務の内容です。
女性活躍推進法の義務を履行することによって、以下のようなメリットがあります。
行動計画の策定・届出を行った企業のうち、女性の活躍推進に関する取り組みの実施状況が優良である等の一定の要件を
満たした場合、「えるぼし認定」を受けることができます(法9条、10条)。
「えるぼし」とは、「L」と「星」を組み合わせた造語で、「L」には「Lady」、「Labor」、「Lead」、
「Laudable(賞賛に値する)」という意味が込められています。
特に優良である場合には、「プラチナえるぼし認定」を受けることができます。
「えるぼし認定」の認定基準は以下のとおりです。
① 男女の採用時の競争倍率が同程度
② 男女の勤続年数が同程度
③ 時間外労働・休日労働の平均が45時間未満
④ 管理職に占める女性の割合
⑤ 多様なキャリアコースが設けられている
「えるぼし認定」の認定マークは、自社の商品や広告に表示することができます。
これによって、女性活躍推進企業であることをPRし、人材確保に役立てたり、企業イメージの向上につなげることができます。
令和4年1月31日時点において関西2府4県で認定を受けている企業数は以下のとおりでした。
・プラチナえるぼし認定 2社(和歌山県1社、京都府1社)
・えるぼし認定 159社
プラチナえるぼし認定を受けている企業のうち、京都府の1社は、従業員数100人以下の規模です。
つまり、女性活躍推進法の対象企業でないにもかかわらず、「プラチナえるぼし認定」まで受けているのです。
このような取組みは、優秀な人材の採用や定着化につながりますので、企業にとって大きな強みになりますね。
厚生労働省は、学生や求職者向けに「女性の活躍推進データベース」を公開しています。
学生や求職者は、このデータベースから「えるぼし認定」などを受けた企業情報を入手することができます。
このデータベースへの掲載を通じて、優秀な女性社員の採用に結びつけることができそうです。
「えるぼし認定」を受けている企業は、公共調達(総合評価落札方式または規格競争)で加点評価を受けることができます。
行動計画に盛り込んだ取組内容を実施し、数値目標を達成した企業に対し、両立支援等助成金が支給されます。
行動計画を策定した企業や「えるぼし認定」を受けた企業は、日本政策金融公庫から、「働き方改革推進支援資金」特別利率に
よる資金融資を受けることができます。
行動計画の届出義務、公表義務に違反しても、罰則(懲役や罰金)はありません。
ペナルティを課すのではなく、「えるぼし認定」などのメリットを付与することで、実効性を担保する方針となっています。
確かに、罰則によって対象企業に行動計画の作成を促すことは可能かもしれませんが、その先にある女性活躍の推進を促すことは難しいでしょう。
もっとも、対象企業であるにもかかわらず、行動計画を届け出ない企業は、労働局から報告を求められたり、助言、指導、勧告を受けることがあります(法30条)。
公表をせず、労働局の勧告に従わなかった企業は、公表されることがあります(法31条)。
以上、女性活躍推進法の概要を解説しました。
さて、この仕組みで、日本の女性の活躍をどれだけ推進できるでしょうか?
そもそも、女性活躍推進法で行動計画の届出義務、公表義務があることが全然、知られていないのではないでしょうか。
令和4年4月1日から対象企業がかなり拡大されますが、当事務所のクライアントに尋ねても、「そんな義務化は聞いたことが
なかった…」という回答がほとんどでした。
政府、メディアには積極的に法改正の情報を拡散してもらいたいものです。
今回、解説した内容は義務だからやるという性質のものではありません。
日本の生産年齢人口の減少は大きな問題です。
そのような中、いかに優秀な女性労働者を確保するかは企業にとって喫緊の課題となります。
SDGsの17の目標の中にも、「ジェンダー平等を実現しよう」とあります。
労働分野における女性活躍の推進は、持続可能な社会のためにも取り組むべきものです。
令和4年4月1日の義務化が良いタイミングです。
これを機に、女性活躍に関する自社の課題を分析し、より女性が働きやすい会社を目指しましょう。
当事務所は、弁護士・中小企業診断士による人事・組織に関する助言、各種書類の作成を行っております。
女性の活躍状況に関する課題分析や行動計画の策定について、何から手をつけてよいかわからないという方は、
一度お問い合わせください。
同じく令和4年4月1日施行の「プラスチック資源循環促進法」については、こちらをご参照ください。
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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明