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飲食店における従業員のワクチン接種に関する法的問題


 

弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

令和3年12月16日時点で、ワクチン2回接種を終えた人の割合は77.5に達しました。

 

 

飲食店には顧客、業者などたくさんの人が出入りするため、従業員は必然的に不特定多数の方と接する機会が増えます。

従業員の生命、健康を維持するためにも、飲食店経営者としては、ぜひ従業員にワクチン接種を求めたいものです。

以前の記事では、飲食店向けのワクチン優先接種について解説しました。

 

 

しかし、飲食店は、従業員のワクチン接種について、何をどこまで求めることができるのでしょうか。

 

 

この記事では、飲食店における従業員のワクチン接種に関する諸問題について、解説しています。

 

1 厚生労働省の指針

 

厚生労働省は、新型コロナウィルスの感染が確認された当初から、企業向けに「新型コロナウィルスに関するQ&A」(以下「指針」といいます)を公表しています。

 

 

厚生労働省は、新型コロナウィルスに関する新たな問題が生じるたびに指針を更新しています。

令和3年11月22日更新の最新版の指針には、ワクチン接種に関する雇用上の問題に関するQ&Aも掲載されていますので、参考にすべきです。

 

例えば、ワクチン接種を拒否した労働者を、解雇、雇止めすることができるか、というQについては、「許されるものではありません」との結論が明記されています。

 

また、企業向けではなく、一般向けのQ&Aにも企業に対して、以下のような配慮の要請が記載されています。

 

 

新型コロナワクチンの接種は強制ではなく、接種を受ける方の同意がある場合に限り接種が行われます。職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていないことを理由に、職場において解雇、退職勧奨、いじめなどの差別的な扱いをすることは許されるものではありません。
 特に、事業主・管理者の方におかれては、接種には本人の同意が必要であることや、医学的な事由により接種を受けられない人もいることを念頭に置いて、接種に際し細やかな配慮を行うようお願いいたします。

「新型コロナウィルスに関するQ&A(一般の方向け)」

 

 

しかし、あくまで指針ですので、全ての問題に対する明確な対応方法が明記されているものではありません。

 

 

実際の対応は、指針を参考にしつつ、事案ごとに個別に判断する必要があります。

 

 

 

 

2 従業員にワクチン接種を義務付けることはできるか

 

予防接種法9条1項は、「予防接種の対象者は、…予防接種を受けるよう努めなければならない。」と定めています。

つまり、予防接種は努力義務とされています。

 

 

そのため、会社が従業員にワクチン接種を義務付けることはできません。

実際に接種するかどうかは個人の自由ですので、それを強制することは違法となります。

 

 

また、アナフィラキシー等の過敏症の既往歴があるため、ワクチンを接種したくてもできない方がいることも広く知られて

います。

 

 

 

 

3 従業員にPCR検査の受診を義務付けることはできるか

 

会社は従業員に対し、安全配慮義務を負っています。

そのため、飲食店の経営者は、新型コロナウィルスに感染した無症状の従業員が職場クラスターを引き起こすという事態を阻止しなければなりません。

 

 

そのための方策として、従業員にPCR検査の受診を義務付けることは可能です。

 

 

顧客への感染防止対策を徹底するという趣旨からも、一定の頻度でPCR検査を実施することは可能と考えてよいでしょう。

 

 

 

 

4 ワクチン接種を採用条件にすることはできるか

 

⑴ 法的には可能である

 

会社には採用の自由があります(最大判昭和48年12月12日・三菱樹脂事件)。

また、ワクチンを接種していないとどうしても安全に業務を行うことが難しいというケースもあると思います。

 

 

したがって、ワクチン接種を採用条件にすることは可能です。

 

 

ただし、募集要項の採用条件に、「ワクチン接種」と記載するか否かは慎重に検討する必要があります。

繊細な話題ですので、違法ではないとしても、社会的非難を受ける可能性があるためです。

 

 

 

 

⑵ 求人サービス各社の対応

 

飲食店では、求人サービスを利用することも多いと思います。

求人サービス各社がどのような対応をしているかを紹介します。

 

 

エン・ジャパンは、「応募資格」の欄に「ワクチン接種済み」という条件を表記できないようにしています。

会社として、ワクチン接種の有無による採用差別を助長しないよう、取り組んでおられるようです。

 

 

また、バイトルを運営するディップも、ワクチン接種済みを採用条件とする掲載を禁止しています。

ただし、ワクチン接種者を優遇する措置を掲載することは可能です。

例えば、ワクチン手当、ワクチン接種休暇、職域接種の有無などを掲載することが可能です。

 

 

ワクチン手当とは、ワクチン接種者に賃金を上乗せ支給するものです。

このような手当を導入すれば、ワクチンを接種していない方からの応募を抑制できるかもしれません。

 

 

ワクチン接種者を優遇することは間接的にワクチン接種を強制するという側面もあります。しかし、政府がワクチンパスポートを公認しているように、ワクチン接種者を優遇することは社会的に許容される状況にあると思われます。

 

 

ワクチン接種者を優遇する制度を導入する際は、指針が述べるように接種に際し細やかな配慮を行う」必要があるでしょう。

 

 

 

 

⑶ 面接でワクチンを接種したかを尋ねてもよいか

 

個人情報保護法において、取得時に本人の同意が必要とされている情報を「要配慮個人情報」と言います。

 

 

ワクチン接種の有無は、要配慮個人情報ではありませんので、面接でワクチン接種の有無を尋ねることは法的に問題ありません。

 

 

しかし、やはり繊細な情報であることには違いありませんので、「答えたくなければ答えなくてよい」と伝えた上で、尋ねるのがよいでしょう。また、なぜその質問をする必要があるかも説明したほうがよいでしょう。

 

 

例えば、

「ホール業務を担当してもらう場合、どうしても多数のお客様と接することになります。ワクチンを接種していないスタッフについては、主に厨房を担当してもらうといった配慮をしていますので、可能であれば教えてもらえますか。」

といった尋ね方をすれば、無作法な飲食店だとは思われないでしょう。

 

 

なお、病歴は要配慮個人情報ですので、面接時に新型コロナウィルスに感染したか否かを尋ねることは不適切です(回答している以上、同意があるものとして違法とまでは言えないかもしれません)。

 

 

 

 

5 ワクチン接種しない従業員を配転できるか

 

会社は、配転については広い裁量が認められています。

また、会社は従業員に対して安全配慮義務を負っています。

そのため、ワクチンを接種しない従業員を顧客と接触しない業務に配転するということは可能です。

 

 

面接時の質問で例示したように、ホールから厨房に配転するという対応が考えられます。

 

 

ただし、まずは従業員にワクチン接種を推奨し、その後に「厨房に入ってもらうことも可能ですよ」と提案するという段階を踏むことが望ましいと言えます。

 

 

 

 

6 ワクチン接種済みの従業員に「接種済み」の名札を付けて接客させることはできるか

 

⑴ 接種できない従業員への配慮

 

店頭で感染防止対策の徹底をアピールしている飲食店をよく見かけます。

顧客が安心して入店できるための工夫でしょう。

同様の発想で、従業員がワクチン2回接種済みであることをアピールして集客に繋げるという戦略も一定の効果が見込めます。

 

 

ワクチンを接種したけど、「接種済み」の名札を付けたくないという従業員はほとんどいないでしょう。

 

しかし、「従業員全員でワクチン2回接種しよう」というムードの中、病歴や体質が理由で、ワクチンを接種できない従業員は肩身の狭い思いをしているかもしれません。

 

 

そのような従業員がいる可能性を考慮し、導入の可否を慎重に判断する必要があります。

 

 

 

 

⑵ 他社の取組みの紹介

 

ワタミは、接客担当の従業員が2週間に1回の抗原検査を受けて、「抗原検査で接客」と記載したバッジを付けるという取組みをしています。

 

 

しかし、令和3年8月時点では、ワタミが令和3年11月オープンの新店舗からワクチン接種済みの従業員に「接種済み」マークを表示すると報道されていました。

現時点では、この制度は開始していないようですので、結局、導入を見送ったものと思われます。

 

 

また、飲食店ではありませんが、家電量販店のノジマは、ワクチン接種済みの従業員が「接種済み」シールを名札に貼って接客するという取組みをしています。

 

 

ただし、ノジマでは、シールを貼るかは自由、ワクチン接種の有無も会社には報告不要という方針を徹底しています。そして、その方針を従業員にも、メディアにもアナウンスしています。

 

 

「シールを貼っていない=ワクチンを接種していない」という図式が成り立たないよう、細心の注意を払っているのです。

 

 

 

 

⑶ まとめ

 

結論として、「接種済み」名札の導入は法的には問題ありません。

 

 

その上で、導入のメリットとデメリットを比較して慎重に考えるということになります。

やはり、ワクチン接種というのは繊細な問題ですので、名札をもって間接的に強制したり、名札を付けない従業員への差別が生じたりしないように配慮する必要があります。

そういった導入の弊害を総合的に考えて、ワタミは導入を見送ったものと思われます。

 

 

導入するとしても、ノジマの事例を参考にして、名札を付けるかは自由であるという点を強調し、しっかりと従業員に説明することが重要なポイントです。

 

 

 

 

7 当事務所のサポート内容

 

飲食店は、従業員がマスクを外した不特定多数者と接する機会が特に多いという特性があります。そのため、ワクチン接種については色々と検討すべき事項が生じ、当事務所にも日々新たな相談が寄せられています。

 

 

当事務所では、まず、弁護士として労働法等に関する分析検討を行います。

さらに、中小企業診断士として、いかに従業員満足度を向上させつつ他社との差別化を図るかという観点からも検討を行っています。

 

 

いわば、ブレーキを踏みつつ、限界までアクセルを踏み込み、企業の成長を加速させるという対応を得意としています。

 

 

日常的に生じる法律上、経営上のふとした疑問点を速やかに解決していただくため、弁護士・中小企業診断士との顧問契約もご検討ください。

 

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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明