デリバリーのドライバーが事故を起こした場合の法律関係
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
コロナ禍においてデリバリーによる料理の提供を導入する飲食店が増加しています。
今回は、デリバリーをお願いしたドライバーが配達中に事故に遭い、お客様に料理を配達できなかった場合、法的に何が起こるのかを解説します。
目次
料理の配達中にドライバーが事故を起こしてしまい、料理が台無しになってしまいました。
このような場合に再配達は必要でしょうか?
直感的に考えて再配達が必要ですよね。
再配達の必要性に疑問を抱くことなく、お店からお客様に謝罪の連絡を入れて再配達するのが一般的な対応かと思います。
このケース、法的にはどのように考えられるのでしょうか。
デリバリーの注文を受けると、飲食店と顧客との間で契約が成立します。
この契約が何契約かについては、色々な考え方があります。
① 売買契約 : 料理を販売する
② 請負契約 : 料理を完成させて引き渡す
③ 製作物供給契約 : 自社の材料で製作したものを相手方に提供する
それぞれ法的には微妙に内容が異なるのですが、契約の種類はともかく、飲食店は顧客に料理を引き渡す義務を負います。
一方で、顧客は料理の代金を支払う義務を負います。
当然ですが、料理を提供していないのに代金だけをもらうことはできません。
契約で何かを渡す場合、原則として「債権者の現在の住所」で行うというルールになっています(民法484条1項)。
つまり、飲食店は、債権者である顧客の自宅に料理を渡しに行かないといけないのです(デリバリーなので当然ですが)。
一方、「オフィスに届けて欲しい」と依頼を受けた場合は、民法の原則と異なり、「オフィスで渡す」という契約をしたことになります。
民法のルールよりも、当事者間の契約が優先します。
配達中の事故により料理を配達できていない場合、飲食店は料理を顧客に引き渡す義務を履行していない状態です。
これを債務不履行と言います。
そのため、飲食店は料理を再配達して義務を履行しなければなりません。
この結論は、事故の原因にドライバーの過失があっても、なくても同じです。
長々と述べてきましたが、法律的に説明すると以上のようになります。
UberEatsのドライバーが配達中に事故を起こした場合、「当店は悪くないので、再配達はしません。代金をお支払いください。」と言えるでしょうか?
そんなことを言うと、二度と利用してもらえないと思いますが…。
UberEatsを使って顧客がデリバリーの注文をした場合でも、飲食店と顧客との間には契約が成立します。
そのため、ドライバーが外部事業者であっても、料理が届いていない以上、飲食店は料理を再配達しなければなりません。
飲食店が配達を依頼するドライバーの立場を履行補助者と言います。
履行補助者とは、その名のとおり、義務の履行を補助する者です。
飲食店は顧客の承諾を得ることなく、自由に履行補助者として外部事業者のドライバーを使うことができます。
しかし、履行補助者の行為=本人の行為ということになります。
そのため、ドライバーが配達できなかったのであれば、飲食店が再配達していないこととなりますので、飲食店は再配達をしなければなりません。
お店「すみません、ドライバーが事故を起こしまして…。すぐにお届けしますので。」
顧客「いえ、もう結構です。」
という展開もありますよね。
顧客もお腹を空かせているので、いつまでも待てません。
お店としては、「申し訳ございませんでした…」と引き下がるのが通常と思われます。
なので、これ以上深く考える必要はそもそもなさそうです。
しかし、一歩踏み込んで、そもそも今回のようなケースで、法的に顧客は再配達を断れるのでしょうか?
法的には、顧客は飲食店との契約を解除できるのか?というテーマになります。
契約を解除する場合、法的には以下の手順を踏むのが原則です(民法541条)。
債務不履行 → 催告 → 解除の意思表示
これを今回のようなケースに厳密にあてはめると、顧客から「30分以内に配達してください」と催告しないといけないことになりそうです。
そして、催告しても配達がなければ、ようやく解除することができます。
でも、それは違和感がありますよね…。
民法は、債権者が催告をしなくても直ちに解除できる場合を定めています(民法542条)。
その中で、以下のような場合には直ちに解除できるとされています(同条1項4号)。
契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
長い。
要するに、期間内にやってもらわないと困るのにできなかった場合にはすぐに解除できるということです。
顧客が配達を注文したのは、お腹がすいてごはんを食べたいからです。
お昼の12時に届くように注文したのに、「ドライバーが事故を起こしたのでお届けが13時になります。」と言われたら、困りますよね。
そうすると、食事の配達という「契約の性質」により、「一定の期間内に履行をしなければ」、「契約をした目的」つまり、空腹を満たすという目的を「達することができない場合」にあたります。
そのため、顧客は、催告をせずに直ちに契約を解除して、再配達をお断りできます。
その上で、別のところに注文するか、自宅にある食材で昼食を済ませることができるのです。
お店「遅くなりまして申し訳ございません。お届けにあがりました。」
顧客「ずいぶん待たされました。代金を半額にしてもらえますか。」
このように代金の減額を求められた場合、応じなければならないのでしょうか。
前述のように契約の解除はできますが、顧客には代金減額請求権はありません。
買うか、買わないか、二者択一です。
顧客は、一定の条件を満たせば、飲食店の債務不履行を理由に、損害賠償請求をできる可能性があります。
損害賠償請求が認められるとすると、顧客は代金との相殺を主張して、減額を求めることが可能となります。
損害賠償請求をするためには、まず、顧客と飲食店の間で何時までに届けるかについて合意がされていないといけません。
12時までに届けると約束したのに13時に届いた場合には債務不履行です。
ただし、何時に届けるか約束していなかったとしても、11時30分に注文した料理が15時に届いた場合には債務不履行と言えるかもしれません。
UberEatsの場合、到着の目安時間が表示されますので、それをもって届ける時間を約束したと言えそうです。
目安時間が30分なのに、1時間後に到着したら債務不履行です。
次に、損害賠償請求をするためには、損害が発生していないといけません。
しかし、料理の配達が遅れたことによる「損害」とは何でしょうか?
これはかなり難しいですよね。
「配達が遅れたために、餓死しました」なんてことはまず起こらないでしょう。
「配達が遅れたために、自宅に招いていた大口取引先の社長が怒って帰ってしまいました。そのせいで取引を打ち切られてしまいました。」
これはまあ、料理の配達が遅れたことによる「損害」と言えるかもしれません。
ただし、この場合、飲食店は大口取引先の社長がいることなんて知りませんから、配達の遅れと損害との因果関係だとか、予見可能性だとかが問題になり、結局のところ、顧客からの損害賠償請求はできないと思われます。
そうすると、認められるのは、精神的苦痛による慰謝料くらいです。
デリバリーが遅れたことによる精神的苦痛…、法的に認められるとしても100円くらいでしょうか。
それなら代金を全額支払ったほうが気持ちいいですね。
結局のところ、顧客は代金の減額を求めることはできないと考えてもらって結構です。
まとめますと、デリバリーのドライバーが事故に遭って料理を届けられなかった場合、飲食店は再配達しなければなりません。
顧客は、再配達を断ることはできますが、代金の減額を求めることはできません。
結論としてはたったそれだけなのですが、法律家というものは頭の中であれこれ理屈を考える面倒くさい人間なのです(私だけかもしれませんが)。
ただ、デリバリーをめぐってお客様がクレーマーに豹変した場合には、ここで述べたような理屈をもとにお話合いができるかもしれません。
その他、飲食に関するお役立ち情報の記事は以下をご参照ください。
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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明