どれが適法?自炊代行業と複製権侵害について
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
著作権という言葉は、法律用語の中でも比較的フランクに用いられることが多い単語です。
現代はコンテンツのデータ化が容易であるため、著作物を複製することの違法性がしばしば取り沙汰されています。
所有する書籍をスキャンしてデータ化することを自炊といいますが、その自炊作業を代行するサービスの適法性については、特に議論が活発に行われています。
今回は、いわゆる自炊代行業の代表的な形態3種について、複製権侵害にあたるか否かを解説させていただきます。
目次
複製権とは、著作権法21条に規定される著作権の一内容であり、著作物を複製する権利のことです。
よくイラストやポスターの隅の方に©というマークが表示されていますよね。
あれはコピーライト、すなわち複製権が誰のものかを明確にするための表示です。
では、複製とは何か。
著作権法2条1項15号では以下のとおり規定されています。
“印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする “
要するに、元の著作物と同一のものを作成することです。「有形的に」とは、何らかの媒体に著作物を収録することです。
手書き、録音・録画、スキャン等、情報をメディアに収録するあらゆる行為が含まれます。
ネット上での転載やコピペも、著作物の複製データをサーバという媒体に収録する行為なので、複製に当たります。
なお、他人の著作物を複製するには著作権者の許諾が必要であり、著作権者の許諾を得ずに著作物の複製をした場合、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金のいずれか又は両方が科されることがあります(著作権法109条1項)。
さて、前置きが長くなりましたが、ここからはいわゆる自炊代行業の適法性について述べていきます。
原則として、自分の所有する書籍等を自分でスキャンすることは、「私的利用のための複製」(著作権法30条1項柱書)にあたり、著作権者に無断で行うことができます。
しかし、このような例外措置は、「個人的に又は家庭内」において「使用する者が」複製することを前提に認められているに過ぎません。
そうすると、顧客の依頼を受けて営利目的で自炊を代行するサービスは、「私的利用のための複製」にあたらず、違法となりそうです。実際にはどうなのでしょうか。
自炊代行業には、
①業者に書籍を送り、業者が書籍をスキャンし、データを送り返してくるもの
②顧客が店舗内のスキャナーを用いて、持ち込んだ書籍を自分でスキャンするもの
③顧客が店舗内のスキャナーを用いて、店舗内の書籍を自分でスキャンするもの
といった形態があります。
これらが違法になるかどうか、以下で個別に検討していきます。
既に述べたとおり、「私的利用のための複製」として適法とされるには、その複製を使用する者自身(この場合は顧客)が複製行為を行う必要があります。
この点、自炊代行業者は顧客の手足となって複製をしているに過ぎないのだから、実質的に複製を行っているのは顧客であるとも考えられます。
しかし、スキャンを直接行っているのが業者である以上、顧客が複製を行ったと言い張るのは苦しいのではないでしょうか。
実際に、著作権者が、①の形態の自炊代行業者に差止めと損害賠償を求めて認められた高裁判例(知財高裁平26年10月22日)もあります。
また、「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器による複製」(著作権法30条1項1号)は、私的利用のための複製であっても違法とされています。
わかりやすく説明すると、コンビニ等の店舗に置かれているコピー機やスキャナーを用いた複製は、私的利用目的であっても例外的に違法になるということです。
このような例外の例外が設けられたのは、コピー機が全国のコンビニ等に備え付けられ、日々大量の複製が行われているからです。
すなわち、一つ一つの複製が適法であっても、全体的に見ればもはや「個人的に又は家庭内」において行われる規模を大きく超えているという理屈です。
要するに、一見して適法であっても、実質的に著作権者の利益を害する場合はアウトとみなされるのです。
そうすると、業者が直接スキャンする形態の自炊代行業は、形式的に違法である以上、適法と解釈する余地はないということになります。
業者がスキャン作業を代行する形態の自炊代行業は違法です。
そのような業者に依頼すること自体も、著作権侵害の幇助として罰せられるおそれがあります。
このような形態で自炊代行業を行うことはもちろん、利用することもやめておいた方がよいでしょう。
②の形態では、スキャンをしているのは顧客自身ですから、私的利用のための複製にあたりそうに思えます。
しかし、店舗内に設置されたスキャナーは、「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」にあたります。
そうだとすれば、例外の例外である著作権法30条1項1号が適用され、②の形態も違法ということになりそうです。
ここで更にヒントとなるのが、クラブキャッツアイ事件(最判昭和63年3月15日)で最高裁が示したカラオケ法理です。
ざっくり説明しますと、業者が直接著作権を侵害していない場合であっても、
㋐著作権を侵害する機器を貸出しもしくは機器を利用するためのスペースを提供し、
㋑それによって営業上の利益を得ている場合
顧客の行為を業者の行為と同視できるという考え方です。
カラオケ法理に従って考えると、②の形態の自炊代行業は、スキャナーを利用するためのスペースを提供し(㋐)、それによって利用料という営業上の利益を得ている(㋑)のだから、業者自身が複製を行っているものと同視できます。
しかし、著作権法附則5条の2は、著作権法30条1項1号について、「当分の間、これらの規定に規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする」と定めています。
つまり、書籍をスキャナーで複製する場合は、当分の間に限りお目こぼしするということです。
附則5条の2によって、②の形態のサービスも現状は適法になります。
しかし、文化庁では、平成23年から既に附則5条の2を削除することについて議論されており、概ね削除する方向で動いています。
したがって、顧客にスキャナーを使わせる形態のサービスであっても、いつ違法とされるかは不明であり、法的リスクが低くありません。
顧客として利用するならまだしも、新規ビジネスとして開始するには、そのようなリスクを避ける工夫が必要です。
既に述べたように、③の形態も著作権法附則5条の2によってギリギリ適法となります。
しかし、①、②と異なり、③の形態は、利用者が所有していない書籍までスキャンさせる点で、著作権者の被る不利益が大きいです。
既に見てきたように、著作権の分野においては、立法者も裁判所もかなり強引に著作権者の権利を守ろうとする傾向が強いです。
また、著作権法は細かい改正等が非常に頻繁に行われます。
これらの事情を踏まえると、③の形態はいつ違法とされてもおかしくありません。
現在③の事業を行っている事業者は、いつでも②の形態に切り替えられるように準備をしておいた方がよいでしょう。
著作権法は、新しい形態のビジネスが現れる度に改正や新たな解釈を積み重ね、常時変化しています。
既に著作権法上グレーとされている事業を新たに開始することは非常に法的リスクが高いです。
しかし、リスクが高いことと挑戦しないことは直結しません。
まずはサービスの実態を変えずにより安全な形で事業を開始・継続することを検討してはいかがでしょうか。
当事務所は、新規事業の適法性チェックに関するご相談にも対応しています。
法的リスクを懸念されている方は、事業を断念する前に是非ご相談ください。
find a way法律事務所
弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明