【2024年秋までに施行!!ざっくり理解するフリーランス新法】
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
クライアントからのリーガルチェック依頼で最も多いのが、業務委託契約書です。
業務委託契約とは、事業者が従業員ではない誰かに仕事を頼むという契約です。
仕事を受けるのは法人であったり、フリーランスであったりします。
今回は、2024年秋頃までに施行される、フリーランスとの取引に関する新しい法律について解説します。
その名も、
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律
…ですが、これは覚えなくてもよいので、
「フリーランス新法」と覚えておきましょう。
法律の趣旨から、フリーランス保護法と呼ばれることもあります。
前回解説した労働法改正は2024年4月1日から始まりましたが、フリーランス新法の対応はまだ少し時間があります(前回の法改正情報はこちら)。
ただし、現在使っている業務委託契約書のひな形の抜本的な見直しが必要になりますので、早めに準備を進めておきましょう。
目次
会社が人を雇用する場合、労働基準法が適用されるため、従業員は法律による手厚い保護を受けることができます。
一方、フリーランスの方に業務委託(外注)する場合、適用される法律は基本的に民法です。
民法は、契約をする者同士が対等であることを前提にしています。
しかし、会社がフリーランスに依頼する場合、フリーランスのほうが立場が弱いことが多いですよね。
会社から仕事をもらっているフリーランスの方は、言いたくても言えないことがたくさんあります。
そこで、フリーランスが安心して働ける環境を整備するために作られたのがフリーランス新法です。
以下、順に解説していきます。
フリーランス新法で保護されるのは、業務委託を受ける側のうち、以下の2者です。
① 従業員を雇っていない個人
② 社長1人だけの会社(従業員や他の役員がいない)
つまり、誰かを雇っている方はフリーランス新法で保護されません。
フリーランス新法で保護される事業者を「特定受託事業者」と言いますが、長いので、この記事では単に「フリーランス」と呼びます。
フリーランス新法の規制を受けるのは、業務を委託する事業者です。
業務を委託する事業者が従業員を雇用している場合(従業員がいなくても役員が2名以上いる場合を含む)は、特に厳しい規制があります。
フリーランス新法の規制を受ける事業者を「特定業務委託事業者」と言いますが、こちらも長いので、この記事では「委託事業者」と呼びます。
フリーランス新法の施行後に業務を委託しようとする場合、相手方(受託側)に従業員がいるか、役員が何名いるかをチェックする必要があります。
フリーランス新法の規制内容は、
① 取引の適正化に関する内容
② 就業環境の整備に関する内容
の2つに分かれます。
以下、順に解説します。
「取引の適正化」について、新たに定められるルールは3つあります。
1つ目は、契約内容の明示です。
委託事業者は、フリーランスに対し、①業務内容、②報酬、③報酬の支払期日の3つを書面やメールで明示しないといけません。
他に明示しないといけない項目は、公正取引委員会規則で定めることになっています。
口頭で約束し、後で言った言わないの話になると、立場の弱いフリーランスが不利です。
また、フリーランスから「契約書を作って欲しい」と頼みにくいこともあります。
そのため、フリーランス新法では、契約内容を明示することが義務付けられました。
委託事業者の方は、フリーランス新法の施行に備え、合意書、取引条件明示書のひな形や、メールのテンプレートを準備しておきましょう。
2つ目は、報酬の支払期日のルールです。
委託事業者は、フリーランスに対する報酬を60日以内(かつできる限り短い期間内)に支払わないといけません。
3つ目は、禁止行為です。
全部で7つの行為が禁止されます。
①フリーランスに落ち度がないのに、受取りを拒否する
②フリーランスに落ち度がないのに、報酬を減額する
③フリーランスに落ち度がないのに、返品する
④相場より著しく低い報酬を定める
⑤正当な理由なく、物の購入、サービスの利用を強制する
⑥金銭、サービスを提供させる
⑦フリーランスに落ち度がないのに、内容を変更させたり、やり直させる
の7つです。
「就業環境の整備」について、新たに定められるルールは4つあります。
1つ目は、募集情報の的確な表示です。
委託事業者がフリーランスを募集するときは、うそを書いたり、誤解を生じさせる書き方をしないようにという当たり前のルールです。
また、情報は正確かつ最新の情報に保っておくことが義務付けられました。
例えば、報酬を実際よりも高く表示したり、高いと誤解させないように気を付けましょう。
また、募集を出した後に条件が変わったときは、記載内容を変更するようにしましょう。
2つ目は、妊娠・出産・育児・介護に対する配慮です。
委託事業者フリーランスとの契約が一定の期間以上になる場合は配慮が義務付けられます(期間はまだ決まっていません)。
一定の期間にならない場合は、努力義務(配慮するよう努めなければならない)とさています。
配慮の具体的な内容はまだ決まっていません。
3つ目は、ハラスメント防止措置です。
フリーランスにセクハラ、マタハラ、パワハラなどを行ってはいけないのはもちろんですが、フリーランスからの相談に応じることや、必要な体制の整備も義務付けられました。
また、フリーランスからハラスメントの相談を受けても、そのことを理由に契約解除などの不利益な取り扱いをしてはいけないこととされました。
令和4年4月以降、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)で、パワハラの相談窓口の設置が義務付けられました。
令和6年4月以降は、同じ窓口でフリーランスからの相談を受け付ける運用にすることが考えられます。
パワハラの相談窓口の設置を含む、パワハラ防止法の対応については、以下の記事を参照してください。
4つ目は、解除の予告・理由の開示です。
委託事業者がフリーランスとの契約を解除するときは、少なくとも30日前までに予告をしないといけません。
また、フリーランスが解除の理由を求める場合には、委託事業者は理由を開示しなければなりません。
既存の業務委託契約書のひな形では、委託事業者がいつでも解除できるという内容になっていることがよくあります。
今後は、契約書のひな形の見直しも検討する必要があります。
フリーランスは、公正取引委員会、中小企業庁長官または厚生労働大臣に対し、フリーランス新法違反の事実を申告して、違反事業者に対する措置を要求することができます。
当局の対応としては、
①立入検査
②指導、助言
③勧告
④勧告した措置をとることの命令
⑤公表
などがあります。
さらに、立入検査の拒否や、命令違反には50万円以下の罰金を科されます。
今後、一層の人材不足が進んでいくことが予想されます。
企業は、フリーランスの人材をうまく活用するため、フリーランスの方との強固な信頼関係を築く必要があります。
第三者と業務委託契約を締結している事業者の方は多いと思います。
フリーランス新法の施行までに、以下の準備を進めておきましょう。
・フリーランス新法の適用を受ける契約の洗い出し
・業務委託契約書のひな形の修正
・募集広告の見直し
・ハラスメント防止措置
当事務所では、以下のようなサポートを提供しています。
【委託事業者向けのサポート】
・フリーランス新法対応に向けた業務委託契約書のリーガルチェック
・フリーランス新法に対応した業務委託契約書等の作成
・フリーランスに対するハラスメント防止措置に関するご相談
【フリーランス向けのサポート】
・取引先のフリーランス新法違反に関するご相談
・取引先とのトラブルに関するご相談
・取引先に対する債権回収
また、当事務所では、クライアントの目的、実態に合わせた業務委託契約書の作成、リーガルチェックは顧問契約の範囲内で行っておりますので、顧問契約についても是非ご検討ください。
その他ご不明な点は、問合せフォームまたは事務所LINEアカウントよりお気軽にお問い合わせください。
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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明