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【実績】相手方の勤務先を裁判に巻き込み、全額を支払うとの決定を得た事例


弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

裁判を起こす時は、誰を訴えるのかを十分に考えなければなりません。

つまり、誰を訴えれば、勝訴した時にお金を回収できるのかを考えなければならないのです。

 

弁護士の技術と執念で、裁判の結論をコントロールすることは可能です。

しかし、裁判に勝った後のお金の回収は、相手方の状態に左右されるため、コントロールすることが簡単ではありません。

そのため、いかに想像力を駆使して、回収の可能性を高められるかが、弁護士としての腕の見せ所です。

 

 

この記事では、取引先の従業員に対する請求について、勤務先を裁判に巻き込み、従業員と勤務先の両方が、請求した全額を支払うという決定を得た事例を紹介します。

 

1 相談の概要

 

建設業を営むA社から、以下の2件の相談がありました。

 

① 工事代金を支払ってもらえない

 

A社が工事を受注したB社の従業員Cから別の工事を頼まれた。

工事を完成させて、B社に請求したが、「うちが受けた工事ではない。Cが個人で受けた工事なので、うちは知らない。」と言って代金を支払ってくれない。

 

 

② お金をだまし取られた

 

従業員Cから、「お宅の工事が原因でクレームになった。別の業者に補修を頼んだから、その費用を支払ってほしい」と言われ、費用を支払った。しかし、後に嘘であることが発覚した。B社に事情を説明したが、「Cが勝手にやったことだ」と取り合ってくれない。

 

いずれも、従業員CがA社に支払わなければならないことは明らかです。

しかし、従業員Cも、「自分が支払わないといけない」とは認めつつ、のらりくらりと逃げています。

また、B社は、「Cが迷惑をかけたようで申し訳ない。注意しておく。」と他人事です。

 

 

 

 

2 解決結果

 

A社が、B社と従業員Cの両方を被告とする訴訟を起こし、

「B社と従業員Cの両方が、A社の請求する291万円全額を分割して支払う」

という内容の、裁判所の決定を得ることができました。

 

B社及び従業員Cとの交渉を開始してから、裁判所の決定が出るまで、6ヵ月でした。

 

 

 

 

3 弁護士が取り組んだ課題

 

⑴ B社に請求する根拠

 

A社としては、信用ならない従業員Cだけではなく、B社も交渉に巻き込む必要がありました。

そこで、A社がB社に請求できる法的な根拠を文書で送付して、B社にも請求することにしました。

 

私から送付した文書には以下のとおり、B社に請求できる根拠を示しました。

 

① 工事代金を支払ってもらえない

表見代理が成立する。

 

② お金をだまし取られた

→B社が使用者責任を負う

 

以下、順に説明します。

 

 

 

⑵ 表見代理の成立

 

表見代理とは、「一見、代理人のように見える」という意味です。

 

民法109条1項は、以下のとおり定めています。

 

第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。

 

 

今回のケースにあてはめると、

第三者であるA社に対して、従業員Cに代理権を与えたと表示したB社は、従業員CがA社とした契約について、責任を負う

ということになります。

 

もう少し具体的に説明します。

B社は従業員Cに「統括部長」と書いた名刺を与えていました。

従業員Cから名刺を受け取ったA社は、従業員Cの指示で工事をすればB社が代金を支払ってくれると、当然、信じますよね。

このような場合、B社は、名刺を与えた以上、従業員Cがした契約についても責任を負うことになります。

 

 

 

⑶ 使用者責任

 

民法715条1項は、以下のとおり定めています。

 

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

 

これを使用者責任と言います。

事業の執行について、従業員が第三者に損害を与えた場合、会社も責任を負うのです。

 

従業員CがA社からお金をだまし取った行為は、B社の「事業の執行」とは言えません。

しかし、最高裁判所は、外形標準説という考え方を採用しており、外から見て、従業員の通

常の仕事の範囲内に見える場合、会社は使用者責任を負うことになっています(最判S32.7.16など)。

そのため、従業員CがA社の工事に関して、お金をだまし取った行為については、B社も責任を負うことになるのです。

 

 

 

⑷ 交渉から訴訟へ

 

私は、B社と従業員Cの両方に、内容証明郵便による通知書を送付しました。

 

従業員Cは、「自分が支払わないといけないのはわかっている」と回答し、毎月末に10万円ずつ分割して支払っていくという合意書に署名捺印しました。

 

しかし、従業員Cは、1回目から支払いませんでした。

 

 

B社は、「Cがやったことだから、うちは関係ない」と相変わらず他人事でした。

 

そのため、やむを得ず、B社と従業員Cの両方に対して、訴訟を起こすことにしました。

B社に対する請求の根拠としては、前述の表見代理、使用者責任を記載しました。

 

 

 

⑸ 民事調停法17条に基づく決定

 

第1回の裁判には、従業員Cは来ましたが、B社からは誰も来ませんでした。

 

裁判官は、従業員Cに対し、「証拠によると、A社の請求はすべて認められる。」と説明しました。

 

従業員Cは、既に退職しており、B社の意向は知らないが、B社には迷惑をかけられないので、自分で支払うとのことでした。

従業員Cは、

毎月末に10万円を支払う、3ヵ月後には残金を一括で支払える目処が立っている

と述べましたが、これまでの経緯を考えると信用できません。

 

B社不在のままでは、和解をすることができないため、私は、裁判官に判決を出して欲しい

と言いました。

 

すると、裁判官から民事調停法17条に基づく決定を出してはどうか、との提案がありました。

 

民事調停法17条に基づく決定とは、話合いがまとまる見込みがない場合でも、裁判所が金額や支払方法について、決定することができるという制度です。

 

つまり、B社が来ないため、話合いがまとまる見込みがないものの、従業員Cが支払うということを前提に、裁判所がB社も加えた決定を出してしまうということです。

 

 

具体的には、裁判所から以下のような決定を出してもらうことになりました。

・B社と従業員Cは、A社に291万円全額を支払う

・従業員Cは、10万円×3ヵ月を支払い、4カ月後に261万円を支払う

・従業員Cが1回でも支払いをしなかったときは、残金をB社と従業員Cが直ちに支払う

 

この内容であれば、従業員Cは、B社に迷惑をかけられないというプレッシャーで、今度こそ支払いに応じそうです。

 

判決を出す場合、B社は直ちに全額を支払わないといけないのですから、B社にとっても、従業員Cを信じて、決定を受け入れるメリットがあります。

 

このような経緯を経て、裁判所は17条決定を出しました。

従業員Cは、決定に従い、支払いを続けています。

 

 

 

 

4 まとめ

 

裁判に勝つことよりも、勝った後にお金を回収することのほうが難しいです。

 

裁判の結果は、法的に予想することが可能ですし、弁護士の技術と執念で結果を変えることができます。

しかし、どれほど優秀な弁護士であっても、相手方をお金持ちに変えることはできません。

少しでも回収の可能性を高めるため、誰を相手に裁判を起こすかが重要になります。

 

 

今回の事例では、B社と従業員Cの両方が支払義務を負うという決定を得ることができました。

B社に迷惑をかけられないという中で、従業員Cは、素直に支払いに応じています。

4カ月後に261万円を支払うために、親族から借入をするとのことでしたが、従業員Cがこれほど必死になっているのは、B社も相手方に加えたためです。

 

一見困難なお金の回収であっても、方法は見つかります。

 

 

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