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【実績】労災を主張する従業員に退職勧奨を行い、無条件の退職合意に至った事例


 

弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

ケガや病気で仕事ができない従業員であっても、雇用を続ける以上、会社は社会保険料を負担しなければなりません。

そのため、会社としては、従業員に退職してもらうことを考えます。

 

従業員に退職してもらう方法は、大きく分けて以下の2つです。

1 解雇

2 退職勧奨

 

解雇は、会社が一方的に従業員との雇用契約を解除することです。

退職勧奨は、会社が従業員に対して退職するように勧めることです。

 

解雇はリスクが高いので、原則として行うべきではありません。

退職勧奨をして、合意の上で退職してもらうことを目指します。

 

この記事では、労災によって病気になったと主張する従業員に退職勧奨を行い、無条件で退職合意に至った事例について解説します。

 

ご相談から解決までの日数は、ちょうど1ヵ月でした。

 

 

1 ご相談内容

 

知人の社会保険労務士からの紹介で、廃棄物処理業を営む事業者の方から以下のような相談がありました。

 

・1年6ヵ月前に従業員Aさんが業務中に脳梗塞で倒れ、現在に至るまで休職している。

・会社からAさんに賃金は支給しておらず、Aさんは傷病手当金を受け取っている。

・復職が見込めないが、社会保険料が発生しているため、Aさんに退職してもらいたいと考えている。

・先日、Aさんと面談して、退職を勧めたが、「業務中に脳梗塞になったのだから、労災だ」と主張しており、退職に応じない。

・Aさんを解雇せざるを得ないと考えているが、法的なリスクが無いか相談したい。

 

いかなる解雇にも法的なリスクがあります。

 

解雇に理由や妥当性がない、つまり不当解雇だと主張された場合、裁判では会社が敗れることのほうが多いです。

もちろん、解雇が有効であるとして、会社が勝つこともありますが、裁判対応の時間や弁護士費用の負担が生じます。

 

そのため、解雇を回避し、あらためて弁護士からAさんに退職勧奨を行うことにしました。

 

 

 

 

2 労災による休業中の解雇制限

 

⑴ 労働基準法のルール

 

業務によるケガや病気を労災と呼びます。

労災によって休業している従業員は、休業中とその後30日間、原則として解雇することが禁止されています(労働基準法19条1項)。

 

ケガは業務によるものかどうかわかりやすいですが、病気は判断が難しいです。

 

例えば、休日に脳梗塞が発症したとしても、過重労働が原因であれば労災です。

反対に、業務中に脳梗塞が発症したとしても、家庭内でのストレスが原因であれば労災ではありません。

 

労災であった場合、労災保険の対象となり、国から様々な給付を受けることができます。

そのため、厚生労働省は、業務による病気(業務上疾病)の認定基準を公表しています。

 

脳梗塞を含む、脳血管疾患については、以下の3つの「業務による明らかな過重負荷」のいずれかが認められれば、労災と認定されます。

 

① 長期間の加重業務

② 短期間の加重業務

③ 異常な出来事

 

 

 

⑵ Aさんの脳梗塞は労災か

 

Aさんは、脳梗塞が労災だと主張していました。

 

しかし、会社から受領した資料を確認したところ、脳梗塞が発症した月のAさんの時間外労働は0時間、その前月のAさんの時間外労働は13時間であり、非常に残業の少ない会社であることがわかりました。

また、Aさんは、脳梗塞が発症する約2週間前、会社の夏休みと有給休暇を組み合わせて連続12日間の休みを取っていたことがわかりました。

 

Aさんと上司、同僚の関係性も良好であったため、本件では、「業務による明らかな過重負荷」と言えるような事情が見当たりませんでした。

 

したがって、私は、Aさんの脳梗塞は業務とは無関係と判断しました。

 

 

 

 

3 休職期間とAさんの復職意思

 

Aさんは、約1年6ヵ月、休職していました。

現在、会社には休職制度がありますが、Aさんの脳梗塞が発症した1年6ヵ月前には休職制度は存在しませんでした。

そのため、Aさんは会社のルールにない配慮を受けていました。

 

また、就業規則では、勤続3年以上の従業員が私傷病(業務と無関係のケガや病気)で30日を超える欠勤をした場合、6ヵ月の休職期間を与えるとされていました。

Aさんは、勤続3年に満たないにもかかわらず、1年6ヵ月近く休職を認められており、かなり優遇されている状況でした。

 

社長と会社の担当者がAさんと面談した時、Aさんは、「元の収集運搬業務に戻ることはできないと思う」と述べていました。

 

 

 

 

4 社会保険料の負担

 

会社と従業員は社会保険料を折半して支払います。

 

一般に、従業員が支払う社会保険料は給料から天引きされます。

しかし、Aさんは休職中のため、給料がありません。

その間の社会保険料は会社が全額を負担していました。

 

Aさんは傷病手当金(私傷病で働けない方が国から受け取れるお金)から少しずつ会社に社会保険料を返していましたが、会社の立替分が約62万円残っていました。

 

仮に、Aさんが退職しても、この62万円は会社に返してもらわないといけません。

 

 

 

 

5 具体的な交渉方法

 

⑴ お手紙の送付

 

以上を踏まえ、まずは、私が代理人として、Aさんにお手紙を送り、退職をお願いすることにしました。

 

お手紙には、以下のような内容を書いておきました。

 

・Aさんの脳梗塞が労災とは認められないこと

・会社としては誠意をもって、Aさんの復職を待ち続けていたこと

・主治医が復職困難と述べており、Aさん自身もその自覚があること

・退職勧奨を受け入れ、今後は失業保険を受給しながら、適切な仕事を探してもらいたいこと

・公平のため、会社が立て替えている社会保険料については、分割で構わないので、返済を続けてもらいたいこと

 

 

お手紙は、短すぎると淡白で誠意がないと思われますし、長すぎても読む気になれません。

そのため、必要十分な情報を盛り込みつつ、A4用紙2枚にコンパクトにまとめました。

お手紙には退職合意書と返信用封筒を同封しました。

 

 

 

⑵ 電話での交渉

 

お手紙を受け取ったAさんから事務所に電話がありました。

 

Aさんは、

「仕事中に病気になったのに、仕事ができなくなったから辞めてほしいというのは納得できない」

と主張しました。

 

しかし、ずっと話に耳を傾けていると、Aさん自身、脳梗塞が労災でないことは理解している様子でした。

 

私は、

・Aさんが収入を得ながら治療に専念できるよう、傷病手当金の支給期間である1年6ヵ月、会社は待ち続けた。

・これからは会社に在籍していても収入が無くなるので、別の仕事を探してもらいたい。

・残り日数分の傷病手当金を受給できるように会社も支援するし、退職後に失業保険を速やかに受け取れるよう、必要な手続をサポートする。

と説明し、退職を受け入れるように説得しました。

 

また、社会保険料についても長期の分割で構わないので、返済を続けるように説得しました。

Aさんは、月3万円ずつであれば支払うと約束しました。

 

最終的に、Aさんは退職を受け入れ、数日後、事務所に退職合意書が届きました。

これによって、解雇ではなく、合意による円満退職が確定しました。

 

 

 

 

6 まとめ

 

この記事では、労災を主張する従業員に退職勧奨を行い、無条件での退職合意に至った事例について解説しました。

 

感情的になって会社からの退職勧奨を受け入れない従業員でも、第三者が順を踏んで丁寧

に説明すれば、退職に応じることはあります。

 

解雇に踏み切る前には、必ず弁護士にご相談ください。

「解雇した従業員から内容証明郵便が届きました」とご相談いただくことも多いのですが、その段階ですと、選択肢が限られてきます。

 

その他、合意による円満退職をサポートした事例や雇用契約の終わらせ方については、以下の記事も参照してください。

 

【実績】解雇を回避し、合意による円満退職をサポートした事例

従業員との雇用契約の終わらせ方

 

 

当事務所では、以下のようなサポートを提供しています。

 

・従業員の採用、賃金、評価、能力開発、モチベーション向上に関する助言

・指導・教育等の証拠化に関する文書作成

・退職勧奨の立会い

・普通解雇通知書の作成

・解雇に関する裁判手続(労働審判、訴訟)

 

 

労務に関する対応方針の助言や文書作成は、顧問契約の範囲内で行っております。

 

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