裁判手続の種類と効果的な活用法
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
弁護士が「裁判をしましょう!」と言う時、通常は「訴訟」を起こして裁判所から判決を出してもらう手続を指すことが
多いでしょう。
しかし、「訴訟」は、裁判所でできる手続の1つに過ぎません。
この記事では、裁判所でできる様々な手続をざっくばらんに紹介し、その効果的な活用法を解説します。
なお、わかりやすさを重視するため、法律用語の正確性は多少犠牲にしておりますので、予めご了承ください。
目次
支払督促とは、文字通り、裁判所から相手方に支払いを督促してもらう手続です。
金銭の請求にしか使えませんが、金額の上限はありません。
債権者(請求する側)が裁判所に支払督促を申し立てると、裁判所は債務者(請求される側)に支払督促を郵送します。
債務者は、内容に不満があれば、2週間以内に裁判所に異議を申し立てます。
債務者の異議申立てがなければ、債権者は「仮執行宣言付の支払督促」というものをさらに申し立てます。
それでも債務者が2週間何も言わなければ、債権者は債務者の財産に対し、強制執行をすることができます
(強制執行については後述します)。
つまり、債権者が支払督促を申し立て、約5週間(準備期間や郵送期間を含む)、債務者が何も言ってこなければ、債務者の財産の差押えを進めることができるのです。
債務者が異議を申し立てると、訴訟に移行します(訴訟については後述します)。
メリットは、手続が簡単ですぐに強制執行にたどり着けることです。
裁判所は、債権者だけの言い分だけで支払督促を発送します。
契約書などの証拠がなくても申し立てることができます。
手間がかからないので、弁護士費用も安く抑えられることが多いです。
債務者が異議を申し立てると、結局、訴訟に移行します。
異議申立ての期限ギリギリに債務者が異議を申し立ててくると、最初から訴訟を起こしたほうが早かったということもあります。
また、支払督促は債務者の住所地にある簡易裁判所に申し立てなければなりません。
そのため、遠方の債務者が異議を申し立てた場合、遠方の裁判所で訴訟をしないといけないことになります。
交渉段階からバチバチと争っているようなケースでは使わないほうがよいです。
・「返さないといけないのはわかっているけど、お金がない」と言っているケース
・「どうせ裁判なんかやってこないだろう」と高をくくっているケース
などで活用するのがよいでしょう。
特に、高をくくっているケースでは、債務者の手元に裁判所から支払督促が届いたとたん、
「何とかお金を返すので取り下げてください」と申し出てくるケースもあります。
周囲の弁護士はあまり使っていない方が多いようですが、私は割と使っています。
支払督促から強制執行に進むケースもよくありますし、債務者自ら返済を申し出てくるケースもあります。
民事調停とは、勝ち負けを決めるのではなく、裁判所に間に入ってもらって合意を目指す手続です。
債権者が民事調停を申し立てると、裁判所が期日を指定して、債務者に呼出状を送ります。
民事調停の期日は、一般市民から選ばれた調停委員が双方の話を交互に聞き、紛争が円満に解決するようにリードしてくれます。
調停が成立すると調停調書が作られますが、調停調書には判決と同じ効力があります(財産の差押えなども行えます)。
債務者から「支払う義務がない」ということを主張して、民事調停を起こすこともできます。
お金のやり取りに限らず、その他の事情も踏まえて、柔軟な解決が可能です。
調停委員が優れた人格者であれば、見事に相手方を説得し、絶妙な着地点に導いてくれることもあります。
また、訴訟と異なり、手続が非公開なので、人知れず紛争を解決することができます。
債務者が調停に全く応じる余地がないという場合、初日で調停不成立になり、終わってしまいます。
そのため、支払督促と同様、最初から訴訟を起こしたほうが早かったということがあります。
今後も顔を合わせざるを得ない近隣住民間の紛争などは、民事調停で十分に話し合って、柔軟な解決をすることに適しています。
「お金をいくらかは支払ってもらわないとおかしいが、証拠が足りない」という場合、白黒はっきりさせない調停に馴染みます。
私も過去に、訴訟では証拠が足りなくて勝てるか微妙というケースで、民事調停を選択したことがあります。
また、有名企業などが紛争の内容を公にしたくないということで、あえて民事調停を起こすこともあります。
訴訟とは、ドラマなどで出てくる弁護士が法廷で争うあれです。
訴える側を原告、訴えられる側を被告と言います。
原告は、裁判所に、訴状と証拠一式を提出します。
原告が裁判所に訴状を提出すると、裁判所は第1回口頭弁論期日(裁判の日)を指定して、訴状と呼出状を被告に送ります。
被告は、第1回口頭弁論期日までに自分の言い分を答弁書に書いて提出します。
答弁書を提出せず、第1回口頭弁論期日にも行かなければ、初日で負けます。
つまり、原告の言い分がそのまま認められます。
訴訟では、ドラマのように法廷で激論をすることはほとんどありません。
裁判の日までに書面を出しているので、その書面の内容を確認する程度です。
裁判官は「被告の反論は答弁書のとおりですね。では、次回までに原告から再反論の書面を出してください」といった具合で進行します。
3分で終わることもあります。
今までは遥々裁判所に出向いて、3分で終わって、遥々帰ってくるということがあったのですが、最近は、ほとんどWEBで裁判をするので助かります。
裁判の5分前にノートPCを起動すればOKです。
1年ほど書面のやり取りをすると、裁判官から「和解の可能性があるか」と尋ねられます。
原告と被告が歩み寄り、和解が成立すれば、訴訟が終わります。
和解が成立しなければ、尋問(証人や本人を法廷に呼んで話してもらう手続)をして、判決が下されるという流れが一般的です。
判決に不服があれば、原告または被告は、上訴することができます。
上訴とは、「さらに上の裁判所でもう一度判断してほしい」と求めることです。
地方裁判所→高等裁判所→最高裁判所、と進んでいきます。
メリットと言えるかわかりませんが、白黒はっきりさせることができます。
和解せずに判決までたどり着くと、裁判官が必ず何かしらの判断をしてくれます。
また、手続が公開されますし、調停等に比べてメディアに報道されやすいので、自身の主張を社会に伝えることもできます。
時間がかかります。
1、2年かかるのは当たり前、事案によっては5年以上かかることもあります。
弁護士が励ましてくれるとは思いますが、訴訟をしている間はかなりのストレスを抱え続けることになります。
書面を作る、証拠を集める、尋問のリハーサルをするという労力もかかりますし、弁護士に依頼する費用もかかります。調停などと異なり、白黒はっきりさせるための手続なので、相手方からは嫌なことを言われます。
効果的と言ってよいかわかりませんが、とにかく白黒はっきりさせなければならないという局面が人生には何度か訪れるでしょう。
その場合は、訴訟を提起することになります。
訴訟手続を経てなされる判決は、日本の司法による公式の判断であり、重みがあります。
和解をためらう方も多いですが、私は訴訟の中で和解をすることを前向きに捉えるべきと考えています。
日本の司法による公式の判断とは言え、判決は、見ず知らずの第三者である裁判官が考えた結論に過ぎません。
「訴訟を経て自分で和解を決める」ことはとてもポジティブな行動だと思います。
強制執行とは、債務者の財産を差し押さえて、強制的に回収する手続です。
・不動産
・銀行預金
・保険の解約返戻金
・給料
など、様々な財産を差し押さえることができます。
ただし、裁判所は債務者が財産を持っているかの調査を手伝ってくれません。
財産は自分で探さなければなりません。
せっかく訴訟で判決を取ったのに、債務者の財産が見つけられずに判決が絵に描いた餅になることもあります。
訴訟で債権者の言い分を認める判決が出たら、ひとまず債務者に連絡し、「判決が出たんだから、お金を払ってください」と交渉します。
それでも支払わないようであれば、強制執行を行います。
債権回収に精通し、債務者の財産を見つけ出すノウハウを豊富に持つ弁護士に相談するのがよいでしょう。
仮差押えとは、債務者の財産を仮に差し押さえる手続です。
「せっかく訴訟で判決を取ったのに、債務者が銀行預金を全部引き出して、タンスに隠してしまった」という事態が生じると、強制執行ができなくなります。
そのため、訴訟を起こす前に(訴訟中に行うこともあります)仮差押えを申し立て、債務者の財産を凍結してしまうのです。
銀行預金の仮差押えをすると債務者は銀行預金を引き出せなくなりますし、不動産の仮差押えをすると債務者は不動産の名義を変更できなくなります。
訴訟で請求が認められた時にスムーズに回収することができます。
また、まれにですが、仮差押えを行った段階で「お金を返すから仮差押えを取り下げてほしい」と債務者が連絡してくることもあります。
一番のネックは担保です。
仮差押えは内緒で実行する必要があるので、裁判所が債権者だけの言い分を聞いて仮差押えを認めるか否か判断します。
そのため、最終的に、裁判所の判断が間違っていたという結果になることがあります。
その場合、間違えて仮差押えを受けた債務者は大迷惑ですので、債権者が債務者に弁償してあげないといけません。
そこで、債権者が法務局に一定金額の担保を預けておくというルールになっています。
担保の金額は請求する金額の20~30%程度です。
1000万円請求する場合、200万円を預けないといけません。
いずれ返ってくる可能性の高いお金とは言え、担保が用意できず仮差押えを断念するというケースもあります。
今回は、
1 支払督促
2 民事調停
3 訴訟
4 強制執行
5 仮差押え
という民事裁判の基本的な手続について解説しました。
クライアントの目的を達成するためにはどの手続を使うのがベストかを判断するのが弁護士の仕事であり、腕の見せ所です。
当事務所の弁護士は、法律の議論と事実の追及が大好きで、裁判手続を使うことに躊躇がないという特性があります
(もちろん、交渉で解決するのがベストです)。
法的に判断が難しく、交渉では如何ともしがたいという悩みをお持ちの方は、問合せフォームよりお気軽にお問い合わせ
ください。
弁護士委任中の事件のセカンドオピニオンにも対応しています。
次回は、労働審判など特別な類型の裁判手続について解説します。
当事務所は、債権回収事件を多数扱っております。
仮差押え、訴訟、強制執行を行い、債権回収を実現した実績については、以下の記事をご参照ください。
find a way 法律事務所
弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明