【実績】飲食店、432万円の追加工事代金請求を200万円へ大幅減額した交渉事例
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
当事務所は、飲食業関連法務に注力しています。
内装工事・改装工事・原状回復工事など、飲食店には工事と名のつくものが常に付きまといます。
そのため、工事金額や工期、追加工事の扱いをめぐるトラブルが多発しています。
典型例としては、
・工事終了後になって、想定外の追加工事代金を請求された
・工事の不具合により営業再開が遅れたため、補償を求めたい
といった相談が後を絶ちません。
この記事では、約432万円の追加請求を受けた飲食店経営者からの依頼について、当事務所が交渉し、最終的に200万円の支払いで合意した事例を紹介します。
当事務所では、「心理的効果」(アンカリング効果やコントラスト効果など)を織り込み、相手方の認知の流れを見極めながら交渉を進めています。
建築工事の紛争は「専門性 × 数字 × 心理戦」が絡み合います。
今回はそれが典型的に表れた事件でした。
目次
飲食店その他複数の事業を行うA社は、新店舗の内装工事を約1620万円でB社に発注しました。
A社は、着手金800万円、中間金400万円、厨房機器購入費143万円を支払済みでした。
B社が見積書の工事の一部を施工していなかったため、A社としては、「これ以上支払うべき代金はない」という認識でした。
しかし、突然、工事残代金+追加工事代金として、約432万円の請求書が届きました。
A社が支払いを保留していると、今度はB社代理人の弁護士名で同額を求める内容証明郵便が届きました。
A社担当者から事情を聴取すると、
「未払いはゼロではないが、432万円はどう考えても高すぎる」
とのことでした。
そこで、当事務所が交渉の代理人として就任することになりました。
交渉の結果、請求額432万円から50%以上減額し、200万円の支払いで合意しました。
解決までの期間は4カ月でした。
この事件のキモは、現場の徹底検証です。
B社は見積書をベースに請求していたため、まずは店舗に足を運び、以下の確認を行いました。
・見積書記載の工事のうち、未施工部分がないか
・見積外の工事(追加工事)が実際に施工されたのか
・材料の数量、照明器具の個数など、数量単位の不整合がないか
今回は、A社が今後追加工事を依頼しようとしていた施工業者にも立ち会ってもらい、弁護士では判断が難しい部分を専門家の目で検証することができました。
その結果、次のような問題点が明確になりました。
・未施工(または不明確な)工事の代金が請求に含まれている
・実際の使用量よりも多い材料費が計上されている
・照明器具の個数や机の引出しの施工数が誤っている
・見積書に元々含まれている工事が「追加工事」として重複請求されている
これらをエクセルで一覧化し、A社が本来支払うべき金額は約40万円程度であると算定しました。
ただし、この段階では、疑義のある工事項目はすべて除外して金額を算出しています。
これは、交渉の初動として心理効果を利用するためです。
交渉において、双方が最初に提示した数字が、後の判断に無意識の基準点となります。
これが「アンカリング効果」です。
本件では、こちらから40万円という金額を提示しました。
最終着地点として想定している金額よりも低い数字です。
しかし、この低い「アンカー」は、後の交渉全体に強力な影響を及ぼします。
例えば、こちらがいきなり150万円を提示した場合、B社は「まだ金額を上積みできるはず」と考える可能性が高く、交渉は引き締まりません。
一方、40万円を基準に据えてしまうと、B社側は「本当にそんなに低いのか」と思考を揺さぶられ、検討の土俵が大きく変わります。
本件でも、最終的に200万円で決着したものの、A社が「譲歩した」という印象を相手に強く与える効果がありました。
交渉において、最初に提示された情報(数字や条件など)が基準(錨=アンカー)となり、その後の意思決定や判断が無意識に左右されてしまうことがあります。
これをアンカリング効果といいます。
この「心理的な交渉技術」は、金銭に関する交渉では極めて重要になります。
B社代理人から、こちらのエクセルに対し、項目ごとの反論が寄せられ、施工を証明する写真も提出されました。
そして、
「少なくとも360万円は未払いである」
との主張が提示されました。
ここからが交渉の本番です。
B社の説明を受けて、再度、現場検証を行いました。
施工が確認できた部分も出てきましたが、施工業者の専門的な意見として、
「この単価は相場より明らかに高額」
「材料費の積算に不合理な点がある」
といった評価が複数ありました。
こうしたデータをもとに、A社が負担すべき適正工事代金を再計算すると約175万円となりました。
ここで重要なのは、反論の仕方です。
ただ「高いと思う」「納得できない」と言っても、相手には届きません。
そこで当事務所では、以下のアプローチをとりました。
・同種工事の一般的な単価や原価率
・材料の相場や工数から逆算した適正価格
・見積りロジックの妥当性
・重複計上・数量誤記の指摘
これらを丁寧に積み上げて、「175万円が合理的である」と示しました。
また、写真により施工が確認できた部分については素直に支払いを認め、こちらが誠実に検討したことを示しました。
最終的に、B社代理人から「200万円で検討してほしい」との提案があり、A社とも協議したうえで合意に至りました。
飲食店の工事トラブルは非常に多く、かつ専門性が高いため、弁護士でも苦手分野とする方が一定程度います。
大阪地方裁判所にも、建築専門部(第10民事部)があるほど、建築紛争は複雑な領域です。
今回の事例では、
・現場検証により、数字の裏付けを具体化したこと
・施工業者の専門的知見を取り入れ、論理的に反論できたこと
・交渉心理(アンカリング効果)を戦略的に活用したこと
によって、「432万円 → 200万円」という大幅減額につながりました。
机上の検討だけでは限界があります。
実際に現場を見て、手触りのある事実を積み上げることで、難解な事件でも突破口は必ず開けます。
当事務所は飲食業関連法務に注力しており、以下の対応を行っています。
・内装工事・改装工事など建築関連トラブル
・店舗明渡時の工事費用・原状回復トラブル
・顧客トラブル(カスハラ、無断キャンセル、飲食代金不払い)
・従業員トラブル(未払賃金、退職時トラブル、ハラスメント)
・契約書作成・リーガルチェック(雇用・業務委託・FC契約ほか)
お気軽に、問合せフォームまたは事務所LINEよりお問い合わせください。
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