【実績】賃料減額請求から一転、退去合意による解決に至った事例
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
不動産の賃貸を行っていると、借主から賃料の減額を求められることがあります。
法律上、賃料が減額されるのは、以下の2つの場合です。
① 事情変更により、賃料が高すぎる状態になった場合(借地借家法11条、32条)
② 不動産の一部が使えなくなった場合(民法611条1項)
賃料減額が交渉でまとまることは多くありません。
貸主にとっては、一度減額すると、長期間にわたって継続的に収入が減る事態になるので、そう簡単には応じられないのです。
貸主は、賃料減額の請求を受けると、「減額したくない。ややこしいので、出ていってもらいたい」と考えることもよくあります。
この記事では、弁護士を通じて賃料減額請求を受けてから、裁判所の調停を経て、最終的に、4ヵ月間の賃料免除を条件に退去合意に至った事例について解説します。
ご相談から借主が建物を明け渡すまで、10ヵ月でした。
目次
不動産賃貸業を営むA社から、
飲食店を営む入居者Bから、弁護士を通じて賃料減額を求められている
との相談を受けました。
賃料減額の理由は、以下のようなものでした。
・消防署の指導で、店内にあるロフト部分の利用ができなくなった
・借りている不動産の一部が使えなくなったので、その分の賃料を減額してほしい
A社としては、賃料は相場よりも安いため、減額はできないとのことでした。
また、ロフト部分について協議をする中で、Bとの関係が悪化しているため、Bに出ていってもらいたいと考えているとのことでした。
Bに出ていってもらうということは、A社とBとの賃貸借契約を解除するということです。
Bは毎月の家賃をきちんと支払っています。
また、共用部分に勝手に物を置いていることはあるものの、賃貸借契約を解除できるほどの事情はありません。
私は、A社に対して、賃料減額請求に対して、いきなり契約解除の話をすることはできないと説明しました。
しかし、賃料減額の主張に反論する中で、最終的に退去合意を含む、何かしらの解決に至ることもあると説明しました。
まずは賃料減額の主張に全力で反論することになりました。
いかなる紛争であっても、まずは、契約書の分析を丁寧に行うのが基本です。
A社とBの賃貸借契約書を分析したところ、ロフト部分は貸し出しの対象に含まれていないと解釈できる可能性がありました。
ロフト部分は、最初からあったものではなく、Bの前の入居者が取り付けたものだったのです。
そのため、私は、
「ロフト部分は、貸している不動産に含まれないため、使えなくなったとしても賃料減額の理由にはならない」
という回答書を作成し、Bの弁護士に送りました。
こちらの回答から約1ヵ月半後、A社から私に「裁判所からの呼出状が届いた」との連絡がありました。
Bが賃料減額調停を申し立てたのです。
賃料減額の話合いがまとまらない場合、まず調停の申立てをしないといけません(民事調停法24条の2)。
調停とは、裁判所を交えた話合いのことです。
貸主、借主が交互に裁判所の部屋に入って、調停委員2名(弁護士、不動産鑑定士などの専門家)に事情を説明しつつ、解決の可能性を探ります。
調停がまとまらない場合には、借主が賃料の減額を求める訴訟を起こし、裁判所が適正な賃料を判断するという流れになります。
Bは、ロフト部分が使えなくなったことを理由に賃料の減額を求めています。
つまり、ロフト部分が使えるのであれば、賃料減額の理由がなくなります。
そのため、そもそも本当にロフト部分を使ってはいけないのか、消防署の指導の根拠を調査することにしました。
消防署は、消防法、市条例、市要領等の法令を根拠にロフト部分を使用しないように求めていました。
紛争を解決する中で、法令が出てきた場合、法令の分析を行う必要があります。
消防法に関連する法令を読み込んでいくと、解釈次第では、ロフト部分を使ってもよいと読めるのではないかと考えました。
そのため、消防署、市役所の建設課に出向き、担当者と法令の解釈について確認しました。
しかし、最終的に、今回のケースではロフト部分は使用できないことがわかりました。
残念ながら、本当にロフト部分を使ってはいけないという結論に至ったのです。
さらに、新たな事実が判明しました。
法令の解釈からすると、ロフト部分が存在すること自体が消防法違反ということが判明したのです。
消防法違反の状態を解消するには、ロフト部分を撤去するしかありません。
ロフト部分が使えないことは確定なので、A社にとって不利な状況でした。
しかし、A社と協議した結果、以下のように協議を進めることもできると考えました。
ロフト部分を撤去しないといけない
↓
お店を休んでもらわないといけないし、物の置き場がない
↓
消防署には説明しておくので、他に広いお店を探してはどうか
見つかるまで賃料はいらない
そこで、A社の本来の希望である、賃貸借契約の解除を提案することにしたのです。
A社との契約上、Bは、建物をスケルトン(内装を全部撤去すること)にして返さないといけないことになっていました。
つまり、賃貸借契約の終了時には、Bはロフト部分を撤去する費用を負担しないといけないのです(数百万円はかかります)。
解除に応じれば、ロフト部分はそのまま残していって構わないと提案しました。
調停委員の説得もあり、Bが持ち帰って検討してくるということになりました。
その次の調停で、Bから、「解除を前提に条件の協議を進めたい」との回答がありました。
議論の対象が、「賃料はいくらか」から「解除の条件はどうするか」に変わったのです。
解除の条件として、Bから、
1年以内に移転先を見つけるので、その間は賃料を無料にして欲しい
との提案がありました。
しかし、1年も賃料が得られないとなると、A社としては大打撃です。
また、消防署もそんなに待ってくれないと思われます。
そこで、こちらから、消防署に立入検査をお願いしました。
通常は、立入検査で違法が発覚するのですが、「違法かもしれないから、立入検査して欲しい」とわざわざ依頼したのです。
消防署の担当者に事前に電話し、調停の経緯を説明しておきました。
「入居者は1年以内に出ると言っていますが、違法な状態をそんなに放置して大丈夫でしょうか。何か起こらないか心配です。」と、話しておきました。
Bも立ち会った立入検査の結果、消防署から、速やかに違法状態を是正するように命令が出ました。
立入検査後の調停で、
年末まで(残り4ヵ月)に退去してもらいたい
と提案しました。
最終的に、
・A社とBは、12月末で賃貸借契約を合意解約する
・12月末までの賃料は免除する
・Bが前倒しで退去した場合は、A社が残り期間の賃料の金額をBに支払う
という内容を含む調停が成立しました。
Bは、調停成立後、すぐに建物を明け渡したので、A社はBに4ヵ月分の賃料を支払って解決となりました。
最初の相談時からA社は、
「何とか出ていってもらう方法はないか」
と考えていました。
通常、賃料減額請求の中では、立退きを求めることはできません。
「賃料を減額してもらえませんか?」
「いや、出ていってください。」
では、入居者は怒り出すでしょう。
法的に明渡しを求めることができない中、強引に出ていってもらおうとする場合、
・引越代
・移転先の内装工事費用
・休業期間中の売上・人件費の補償
など、高額の立退料が必要になります。
お店の規模にもよりますが、立退料が数百万円、数千万円に及ぶことも少なくありません。
しかし、柔軟な思考で、変化する状況や相手方の対応を丁寧に観察すれば、法的には導かれない解決に至ることも可能です。
相談時には、弁護士に「率直な希望」をお伝えください。
法的には実現できないかもしれません。
しかし、できない理由を並べ立てることはしません。
弁護士は、実現する方法がないかを常に考え続けます。
その他、裁判手続を用いて入居者を退去させた事例は以下をご参照ください。
【実績】無断転貸を理由とする建物明渡請求訴訟を提起し、賃借人を建物から退去させた事例
法律上、請求できないにもかかわらず、交渉により目的を達成した事例は以下をご参照ください。
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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明