【労務】副業ルールに違反した従業員への対応
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
働き方改革の推進によって、副業・兼業を容認する企業が増えています(副業・兼業を、以下では単に「副業」と記載します)。
厚生労働省のモデル就業規則から「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という記載が削除されたように、政府も副業を容認するという方向性を明確にしています。
また、人的資本経営の議論が展開される中、2022年5月に公開された人材版伊藤レポート2.0においても、「副業・兼業等の多様な働き方」が推奨されています。
一方で、労働者の安全・健康や企業の信用・秘密等を守るため、副業にも一定のルールを定めておく必要があります。
しかし、人事の現場ではルールが守られないことが当然に出てきます。
この記事では、副業に関するルール違反があった場合に、どのような対応をするかを解説します。
なお、副業を容認する場合の留意事項については、以下の記事を参照してください。
目次
副業を容認する場合、会社は従業員が行う副業の内容を知っておく必要があります。
そのため、届出制を採用し、会社に必要事項を報告させるようにしましょう。
副業は従業員が業務時間外に行う活動です。そのため、就業規則で届出に関する事項を定めておかないと、従業員に対して報告を命じることができません。
一定の場合、副業を禁止又は制限できる(条件を付けられる)ようにしておきましょう。
例えば、副業による長時間労働のため、従業員の健康に支障が生じるおそれがあるといった場合、禁止せずに放任し、従業員が倒れたときに会社が責任を負うことがあります。
ルール違反時の対応として、以下のものが考えられます。
・注意・指導
・副業の禁止
・懲戒処分
どの対応を選択するかは、違反の程度や悪質性を踏まえて検討します。
以下、個別に解説します。
副業に関するルール違反があった場合、まずは注意・指導を行います。
ルール違反の軽重に関わらず、違反状態を是正するため、注意・指導を行いましょう。
従業員が注意・指導に従わない場合、注意・指導を行ったことを証拠化する必要があります。
そのため、文書で指導書を交付し、従業員に受領のサインをもらいましょう。
指導書のデータをメール添付で送信するという方法も有効です。
それでも従業員が従わない場合、ルール違反の重大性が増していきます。
その場合、副業の禁止、懲戒処分など、次の段階を検討することになります。
届出をしていなかったことをもって、副業の内容にかかわらず、直ちに禁止してしまうのはやりすぎです。
ただし、何度も指導しているのに、副業に関する必要事項を届け出ないということがあれば、副業自体を禁止してもよいでしょう。
禁止した副業を行っている場合は、業務命令として文書で副業の禁止を命じます。
また、従業員の健康や本業における仕事のクオリティに影響がある場合には、副業を禁止すべきです。
懲戒処分とは、従業員が秩序を乱す行為をしたことに対する制裁です。
懲戒処分の目的は2つあります。
① ルール違反を犯した本人に対し、制裁を加える
② 従業員全体に対し、ルール違反が許されないことを示す
注意・指導はするけど、懲戒処分まではしたことがないという方が多いのではないでしょうか。
しかし、重大なルール違反があった場合、懲戒処分を実行しておく必要があります。
懲戒処分をすべき理由は以下のとおりです。
「会社が違法な懲戒処分をした」という理由で、従業員との紛争が生じることがあります。
懲戒処分が適法と言えるためには、相当性(懲戒処分が妥当であること)が必要です。
さらに、懲戒処分が妥当と言えるためには、過去に行った懲戒処分との公平性が問題になるのです。
つまり、これまでは問題にしていなかったのに、今回のルール違反には懲戒処分を科すという場合、不公平だということで、懲戒処分が違法になってしまうのです。
そのため、重大なルール違反があった場合、躊躇なく懲戒処分を実行しましょう。
懲戒処分の種類が法律で決まっているわけではありませんが、以下の6種類が就業規則に載っていることが多いです。
① 戒告・譴責処分
文書で指導し、始末書を提出させる処分です。
会社からの公式な注意というイメージです。
経済的な制裁はありませんが、昇給や賞与の査定で懲戒処分があったことを考慮することはできます。
② 減給処分
給料を減らす処分です。
法律上、1回のルール違反に対する減給は、1日分の給料の半額が上限とされています。
例えば、月給30万円の場合、減給できる金額は約5000円です。
1回のルール違反に対する減給は1回だけなので、1月に減給処分をした場合であっても、2月からは元の給料になります。
③ 出勤停止処分
一定期間出勤を禁止し、その間は無給とする処分です。
例えば、30日間の出勤停止処分の場合、30日分の給料を支給しないことになります。
④ 降格処分
役職を下げる処分です。
降格により役職給が下がる結果、長期にわたって給料が減ることになります。
ただし、実務上はあまり使いません。
前述のとおり、懲戒処分は違法になるリスクがあるのですが、会社の経営判断で人事異動としての降格を行う場合、あまりリスクがありません。そのため、人事異動としての降格を行うのが一般的です。
⑤ 諭旨解雇処分
解雇理由を告げて、自ら退職させる処分です。
⑥ 懲戒解雇
ペナルティとして解雇する最も重い処分です。
相当性が問題になることが多いので、社内での横領や傷害などを従業員本人が認めている場合など、限られた場合にのみ使用します。
懲戒処分をするためには、就業規則の根拠が必要です。
「就業規則に懲戒処分のことが一切書いていなかった」ということはほとんどないですが、「こういう場合に、こういう懲戒処分をしますよ」という規定がちゃんとあるかは確認しましょう。
また、ルール違反があったことについて証拠が必要です。
言った言わないになると会社が負けますので、注意・指導などは文書で行って、証拠化しておきましょう。
さらに、懲戒処分を行う前には、対象者の言い分を聴く機会を設けましょう。
これを弁明の機会の付与といいます。
どのような弁明がなされたとしても、会社が必要と判断すれば、懲戒処分は行って構いません。
しかし、副業に関するルール違反の場合、懲戒処分を行うかどうかは、慎重に判断する必要があります。
なぜなら、副業は、会社の業務とは関わりのない私生活上の行為であるためです。
業務時間外にどのような活動をするかは従業員の自由なので、ルール違反によって労務提供や会社秩序に生じる影響を吟味する必要があります。
例えば、週5日、1日あたり3時間で深夜に及ぶものではない兼業は、業務に支障が生じる可能性がないため、兼業禁止規定に該当しないと判断した裁判例があります(東京地方裁判所令和3年3月4日判決)。
副業を容認する場合、まずは就業規則その他規程でルールを整備する必要があります。
業務内容や会社の文化によって、適切なルールは異なりますので、会社で副業を容認する趣旨を踏まえ、適切なルールを構築しましょう。
また、ルール違反に対し、懲戒処分を科す場合、懲戒処分の選択、手続は慎重な検討が必要です。そのため、懲戒処分を行う場合には、弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所では、副業容認やルール違反時の対応について、以下のようなサービスを提供しておりますので、問合せフォームまたは事務所LINEアカウントよりお気軽にお問い合わせください。
・副業のルールに関する就業規則等の整備
・副業届等の様式の作成
・企業による注意・指導の様式作成、サポート
・懲戒処分の内容に関する相談
・懲戒処分通知書の作成
find a way 法律事務所
弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明