雇用?業務委託? フリーランスと契約する場合のポイント
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
近年、働き方の多様化によって、「フリーランス」として活動する方が増加しています。
事業者側も、雇用ではなく「フリーランス」を活用することで、固定費を抑制することができます。
事業者がフリーランスと契約をする場合、契約自由の原則により、契約内容を自由に決めることができるのが基本です。
しかし、フリーランスは事業者に比べて弱い立場にあることが多いため、様々な法令による保護を受けます。
当事務所でも、フリーランスとして契約していたデザイナーから未払賃金の請求を受けたという相談を受けたことがあります。
この記事では、フリーランスと契約を締結する場合のポイントについて解説します。
目次
政府は、令和3年3月26日、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下「ガイドライン」といいます)を公表しました。
ガイドラインでは、フリーランスを「実店舗がなく、雇人もいない自営業者や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」と定義づけています。
内閣官房日本経済再生総合事務局の調査によると、令和2年5月時点で、フリーランスの人数は462万人(本業214万人、副業248万人)と試算されており、今後も増加が見込まれます。
フリーランスと契約をする場合には、独占禁止法、下請法、労働関係法令の適用について注意する必要があります。
発注者が資本金1000万円超の法人であれば、相手方が個人でも下請法が適用されます。
また、資本金が1000万円以下で下請法が適用されない場合であっても、発注者が事業者であれば、独占禁止法が適用され
ます。
そのため、事業者とフリーランスの契約には独占禁止法が適用され、事業者の行為が「優越的地位の濫用」に該当しないかが
問題となります。
ガイドラインは、下請法、独占禁止法上、問題となる12の行為類型を挙げています。
① 報酬の支払遅延
② 報酬の減額
③ 著しく引く報酬の一方的な決定
④ やり直しの要請
⑤ 一方的な発注取消し
⑥ 役務の成果物に係る権利の一方的な取扱い
⑦ 役務の成果物の受領拒否
⑧ 役務の成果物の返品
⑨ 不要な商品又は役務の購入・利用強制
⑩ 不当な経済上の利益の提供要請
⑪ 合理的に必要な範囲を超えた秘密保持義務等の一方的な設定
⑫ その他取引条件の一方的な設定・変更・実施
このうち、①から⑩は下請法で禁止されている行為類型です。
ガイドラインによって、下請法が適用されないケースであっても、独占禁止法の適用があり得ることが示されています。
さらに、ガイドラインは、発注者がフリーランスに対し、取引条件を明確にする書面を交付することを求めています。
下請法では親事業者による書面交付が義務付けられていますが、ガイドラインによると、下請法が適用されない場合でも書面の
交付が必要となります。
要するに、フリーランスと契約する場合には、契約内容を明記した業務委託契約書を交わしましょうということです。
下請法違反があった場合、公正取引委員会からの勧告や公表を受けることがあります。
また、書面の交付義務違反があった場合、違反者と会社に50万円以下の罰金が科されます。
優越的地位の濫用があった場合、公正取引委員会から排除措置命令が出され、命令に従わない場合には2年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科されることがあります。
また、公正取引委員会が課徴金納付命令を出すこともあります。
ただし、いきなりこれらの命令が出ることはなく、事前に書面で是正するよう通知がなされます。
フリーランスだから業務委託契約書を交わしておけば、労働関係法令は適用されない、というわけではありません。
労働関係法令が適用されるかどうかは、契約の名称ではなく、個々の働き方の実態から客観的に判断されます。
判断要素としては、旧労働省が作成した労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)が、現在も裁判所で用いられています。
ガイドラインにも、労働基準法研究会報告の判断要素がそのまま記載されています。
具体的には、以下のような要素です。
① 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
フリーランスが仕事の依頼を受けるか受けないか、自分で決められるか。
② 業務遂行上の指揮監督の有無
フリーランスが仕事の進め方を自由に決められるか。
③ 管理性の有無
発注者が勤務場所、勤務時間を指定し、管理しているか。
④ 代替性の有無
フリーランスが自分の判断で他人に仕事を頼めるか、補助者を使うことができるか。
⑤ 報酬の労務対償性
報酬の性格が、一定時間の仕事を行ったことに対する対価と認められるか。
⑥ 事業者性の有無
機械、器具、衣装等を発注者とフリーランスのどちらが負担しているか。
フリーランスが自身の器具を用いて仕事をしているのであれば、労働者ではないということになります。
⑦ 専属性
フリーランスが特定の発注者の下で仕事をしているか。
他にも、注文者がフリーランスを社会保険に加入させているかなども判断要素となります。
これらの要素を総合的にみて、労働者に該当するか否かを判断します。
フリーランスと業務委託契約を締結していましたが、働き方の実態から「労働者」であると判断されました。
その場合、労働関係法令が適用されることになります。
大きなところでは、解雇法制が適用されます。
業務委託契約であれば、法的には自由に契約を解除することができます。
しかし、労働者に該当するとなると、労働基準法、労働契約法が適用されますので、合理的理由と相当性がなければ契約を解除(解雇)することができません。
また、1日8時間超、週40時間超の労働に対しては、時間外手当を支払う必要が出てきます。
業務委託料として、1時間あたり1000円としていたはずが、1250円を支払わないといけないのです。
その他、最低賃金を保証しなければなりませんし、年次有給休暇も与えなければなりません。
また、社会保険に加入させなければならないことにもなります。
何かと制約の大きな雇用ではなく業務委託にしておきたいという事情もあるでしょう。
しかし、実態にそぐわない契約を無理やり選択するような場で、人のモチベーションが上がることはありません。
指揮監督、管理しつつ安定的に「人の手」を借りたいのであれば、雇用。
費用をコントロールしつつ、一時的に「人の手」を借りたいのであれば、業務委託(フリーランス)。
本来の目的に応じて、適切に雇用or業務委託を選択しましょう。
冒頭で述べたとおり、当事務所でも、フリーランスとして契約していたデザイナーから未払賃金の請求を受けたという相談を受けたことがあります。
業務委託契約を選択したのであれば、誤解の余地がないようにしておく必要があります。
つまり、前述の労働基準法研究会報告を参照しつつ、雇用契約と疑われることがないように、しっかりとした業務委託契約書を
作成しておく必要があります。
また、実態としても、フリーランスに仕事の依頼を受けるか受けないかの自由を認め、業務の進行について広い裁量を与える必要があります。
働き方の多様化の時代に合わせ、目的に合わせた柔軟な人材確保を心がけましょう。
フリーランスの方と円満な関係を築き、気持ちよく仕事をしてもらうためには、下請法、独占禁止法のルールを十分に理解し、
現場の担当者にも教育しておかなければなりません。
また、フリーランスの方から、「不当解雇だ」、「残業代が未払いだ」といった思わぬ主張を受けないよう、適切な契約書を交わしておかなければなりません。
当事務所では、フリーランスとの契約に関し、以下のようなサポートを行っています。
・業務委託契約書の作成・リーガルチェック
・人事・組織戦略の構築と運用
・不正行為(情報漏洩、顧客の引抜きなど)の対応
・訴訟対応
フリーランスを活用している、活用したいという方は、一度お問合せください。
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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明