飲食店へのHACCP導入支援の事例
皆様こんにちは。HACCPコーディネーターの石田です。
令和3年6月より食品衛生法の改正に伴い、HACCPの導入が全ての食品を扱う事業者に義務付けられました。
導入状況はいかがでしょう?
「HACCPやらなあかんのはわかってるんやけど、緊急事態宣言ばかり出されてそれどころ違うわ・・・」
「どうしたらいいのかわからへん」
「こんな時にHACCPなんて難しそうなことやってられへん」
という声も多く聞かれます。
時短営業、酒類提供自粛の要請、支援金が中々支払われない中、ほとんどの飲食業者様が苦しい経営状況かと思います。
しかし、HACCPの導入は、作業手順の標準化・マニュアル化を伴いますので、生産性向上につながると言われています。
コロナ後を見据えて導入を進めることも、是非ご検討ください。
今回は当事務所が行いました、飲食店舗の「炭味家様」のHACCP導入支援についてお話したいと思います。
※許可を頂いて店舗名を掲載しております。
目次
まず、HACCP義務化の現状について簡単に述べます。
平成30年6月、食品衛生法が改正され、全ての食品を扱う事業者は「HACCPに沿った衛生管理」が必要となりました。
HACCP導入には、令和2年に開催される予定だった東京オリンピック・パラリンピックや食品の輸出促進を見据え、国際基準の衛生管理が求められているという背景がありました。
ところが、全世界を襲った新型コロナウィルス感染拡大により、令和2年4月7日、緊急事態宣言が発令されました。
その後、緊急事態宣言は5月25日に解除されましたが、世界的なパンデミックにより、2020東京オリンピックの開催は翌年に延期されました。
そのような世界情勢もあり、本来であれば、メディアで大きく扱われるべきであったHACCPの制度化はほとんど触れられませんでした。
一般消費者のHACCPに対しての認知は、義務化から3ヵ月が経った現在でもとても低いのではないでしょうか。
今回、ご依頼頂いたのは、大阪市福島区にある炭味家様です。
炭味家様の厨房責任者(以下「S様」といいます)はHACCP義務化を認識しつつも、特に何も始めていないという状況でした。
そのような中、知人の飲食店経営者からHACCP導入支援を行っている当事務所を紹介され、ご相談頂くこととなりました。
S様は大手飲食店のご出身のため、とても高い衛生管理の意識をお持ちでした。
そのため、自らの意思で、当事務所への相談をオーナーに頼んだとのことでした。
HACCPの導入にあたっては、現場の責任者が「自らの意思で」動くというのがとても重要です。
今回の支援を通じて、誰かに指示されたからではなく、「必要なこと」「大切なこと」と意思を持って始めることがとても大事だと改めて感じました。
まず、当事務所の2名のHACCPコーディネーターが、ヒアリングのためにお店を訪問しました。
訪問後、S様にHACCPの概要を説明し、1時間程度のヒアリングを行いました。
ヒアリング項目は以下の通りです。
・店内の設備(冷蔵庫の個数など)
・原材料の受入状況
・料理の種類
・ドリンクの種類
・調理手順の概要
・店内で導入されている現在のルール・運用
その後、以下の内容について説明を行いました。
・衛生管理計画の種類、内容
・衛生管理計画の従業員への周知方法
・衛生管理の実施方法
・実施記録の種類、内容
・記録の付け方
・記録の付け方の従業員への周知方法
・当事務所のサポート内容とHACCP導入までのスケジュール等
ヒアリングと説明を終え、一旦事務所に戻りました。
HACCP導入のためには、一般的衛生管理と重要管理の2種類の衛生管理計画と実施記録の書式を作成する必要があります。
当事務所の2名のHACCPコーディネーターで、炭味家様の特徴を踏まえつつ、今後の進め方について打合せを行いました。
一般的衛生管理は、料理以前の基本的な衛生管理であり、HACCPの基礎になるものです。
炭味家様の設備、原材料の受入状況等を踏まえ、衛生管理計画と実施記録の書式を作成しました。
日本食品衛生協会が書式を公開していますが、各飲食店の特徴に応じて、適宜、修正して利用する必要があります。
作業中にはどうしても補充でヒアリングが必要なことがあります。
お店の営業に支障が出ないよう、S様とは主にLINEを使用してコミュニケーションを取りました。
場合によって、これまでの衛生管理の方法を変更し、適切な方法を導入してもらうよう助言することもあります。
炭味家様は、S様の指導の下、徹底した衛生管理を行っておられたため、一般的衛生管理については、特に方法を変更してもらう必要はありませんでした。
重要管理は、料理を調理過程や調理後の保管方法等に応じて分類し、それぞれの調理方法・保管方法についてルールを定めるものです。
提供されている全ての料理を把握する必要があるため、メニューを写真撮影して持ち帰りました。
重要管理の段階では、食材や調理方法から病因物質のリスクを検討する必要があります。
メニュー名から食材、調理方法がわからないものについては、追加でヒアリングを行いました。
炭味家様で提供されている全ての料理を把握、分類した上で、管理方法を示した衛生管理計画と実施記録の書式を作成しました。
炭味家様の衛生管理に役立てて頂くため、以下の書式を提供しました。
① 冷蔵庫・冷凍庫の温度管理表
各飲食店の庫数に応じて、管理表を作成します。
② 手洗いポスター(日本食品衛生協会)
手洗いは一般的衛生管理の基本です。
従業員の方に都度、重要性を自覚してもらえるように提供しています。
また、当事務所では「清掃マニュアル」を提供しています。
清掃マニュアルは清掃方法を統一するためのもので、実際に行われている清掃方法を元に作成します。
1週間程度で衛生管理計画、実施記録の各書式を作成し、炭味家様にデータを提供しました。
その後、S様に炭味家様の実態と合わない等がないか確認をお願いしました。
書式の提供から約1か月後、HACCP導入後の状況を確認するため、再度、2名のHACCPコーディネーターで炭味家様に訪問しました。
この段階で、導入時、導入後の問題点を伺うとともに、実施記録が適切に付けられているかを確認します。
炭味家様は緊急事態宣言等による休業期間に、じっくりとHACCPの導入を進められていました。
まず、全従業員を集めてのHACCP導入に関する説明会を開催されました。
その後、衛生管理計画の全ての項目を一斉に行うのは難しいため、週ごとに集中して取り組む項目を決め、1つずつ着実に定着するようにされていました。
また、休業期間を利用して、営業中ならできない箇所の清掃にも従業員みんなで取り組まれたとのことでした。
HACCPをいざ導入するとなった時、その日から表通りに全て行わなければならないと思ってしまいそうですが、従業員の方が理解し、意欲的に取り組むために、1項目ずつ理解を深めながら取り組んだという点は、当事務所にとっても参考になりました。
炭味家様のHACCPを導入前後の従業員の反応やお店の状況は以下のとおりでした。
・HACCPを知らない従業員がほとんどだった。
・従業員の衛生への意識が向上した。反応が良かった。
・取り入れてしまえば大丈夫だと感じた。
HACCP導入を指揮されたS様の意識の高さや”HACCPが大切なこと”という認識のもとにご説明をされたことが、従業員の方へ伝染しているのだと強く感じました。
当事務所は、単に、HACCP導入支援というサービスを提供したいのではありません。
食品衛生を通じて子どもたちの未来を守っていくという使命を持って、HACCP導入支援を行っています。
今回の炭味家様、S様のように熱心に取り組んで頂き、大変うれしく思いました。
今回は、一般的衛生管理、重要管理とも当事務所にて作成を行いました。
一般的衛生管理は自店で作成頂き、難易度の高い重要管理のみの作成も承っております。
HACCP導入支援を実施する際は、実際にお店に伺い、店長や厨房責任者にヒアリングの時間を頂きます。
その後、衛生管理計画の書式は、メニュー数にもよりますが、1週間程度で提供いたします。
HACCPはお店全体で一丸となって取り組まなければ、効果が発揮できません。
そのため、当事務所では従業員向けセミナーも承っております。
HACCPをやらなければいけないとわかっているが、どうすれば良いかわからない・・
そんな時は当事務所にご相談頂ければと思います。
find a way 法律事務所
HACCPコーディネーター 石田 香玲 / 弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明