中小企業の法務デューデリジェンスを行い、問題点等の報告を行った事例
目次
企業が他社を買収する時、買い手が対象会社の価値やリスクを調査します。このような調査をデューデリジェンス(DD)といいます。
その中で、法律関連に特化したDDを法務DDといいます。法務DDでは、買収の障害となる法律上の問題点や簿外債務等の対象会社の価値に影響を与える事項の発見を目的とした調査を実施します。
調査の対象は、①株主構成、②許認可、③第三者との契約、④労務関係、⑤事業用資産(不動産・動産)、⑥知的財産、⑦ファイナンスなど多岐にわたります。
また、純粋な法律事項でなくとも、買い手の意思決定や買収後のスムーズな統合に役立つと思われる情報(例えば、組織文化、生産管理の特徴等)も報告することがあります。そのため、法務DDには、法律はもちろん、経営や財務に関する基礎的な知識が必要となります。
DDの結果を参考にして、買い手は買収実施の可否や金額を決定します。発見した問題点が軽微な場合は、買収完了後、速やかにその問題点を解消する措置をとります。
法務DDを行っておかないと、買収実施後、想定外のトラブルに巻き込まれてしまうことがあります。
そのため、法務DDは必ず実施すべきです。
今回のご相談は関西のA社が東京の同業他社B社の株式の過半数を取得して経営に参画するといったケースでした。
M&Aのスキーム立案や契約書作成はM&Aのコンサルタント会社が行い、財務DDは公認会計士が行うとのことで、当事務所は法務DDのみをご依頼頂きました。
まずは、B社のWEBサイト、登記簿謄本、直近3年分の貸借対照表及び損益計算書といった基本的情報を閲覧しました。
その後、基本的情報をもとに、開示を求める資料のリストを作成して、B社に送付しました。
リストに基づいてB社から開示された資料を分析し、問題点、疑問点をリストアップするとともに、追加で関連する資料の開示を求めました。
B社から開示された資料分析の結果を踏まえ、B社経営陣に対するヒアリング調査を行いました。
A社経営陣、財務DDを担当する公認会計士とともに東京のB社を訪問し、丸1日かけて、様々な角度から疑問点をヒアリング
しました。
例えば、あるべき書類が存在しないのはなぜかといった点や労務管理の実態について、B社代表者や担当者にヒアリング
しました。
特に、労務関係については未払賃金等の簿外債務が存在することが多いため、各種手当の内容や賃金の算定方法まで踏み込んだ
詳しいヒアリングを行いました。
資料分析とヒアリング調査の結果を踏まえ、A社経営陣に向けた報告書を作成しました。
一例ですが、以下のような点は、法律や判例にも言及しつつ、詳しく報告する必要があると考えました。
⑴ 会社法上必要な株式譲渡手続が実施されておらず、潜在的株主が存在すること
⑵ 就業規則、雇用契約書の規定が不十分で未払賃金が発生し得ること
⑶ 同一労働同一賃金の対応が不十分であること
項目ごとに、①問題の所在、②結論、③理由、④今後の対応を整理し、報告書にまとめました。
ただし、⑶の同一労働同一賃金の対応については、近年、策定されたガイドラインや令和2年10月の最高裁判所の判断との関係で検討が必要なものであり、不十分であることはやむを得ないものでした。
B社経営陣が熱心に経営に取り組んでおられたため、幸いにも、買収実施の中止を検討するような問題点はありませんでした。
報告書をA社に郵送しましたが、報告書は細かい点まで網羅的に記載しているため、読み込むのに相当の時間が必要になります。
そのため、A社にて、報告書の要点を説明するための報告会を開催しました。
報告会では、報告書の項目に沿って、メリハリを付けて説明しました。
重要な項目については、B社とどのような交渉・調整を行うべきか、また、買収実施後にどのような対応をとるべきかについて、具体的に説明しました。
軽微な項目については、問題が現実化する可能性が低いことを伝え、概要を説明するにとどめました。
A社経営陣から、報告書の記載よりも踏み込んだ質問が出ることもありました。
また、B社の分析結果を受けて、A社自身の運用が適切かといったご質問もありました。
やはり、同一労働同一賃金の対応については関心が高いようで、様々なご質問がありました。
報告会で特定の項目に関する追加調査の要請を受けたため、B社に問い合わせた上、後日レポートを作成してA社に追加の報告を行いました。
その後、1カ月ほどして、A社より無事にクロージング(最終契約の締結)に至ったとの報告を受けました。
法務DDは対象会社の問題点を発見する点が重視されがちです。
しかし、統合後に買い手会社と対象会社が、いかに収益を上げ、会社の組織を強化していくのかといった未来志向の分析・検討にこそ法務DDの真の価値があります。
そのため、法務DDは単に問題点を指摘するにとどまらず、買収実施後に、買い手会社がどのような対応を行うべきか、具体的に示す必要があります。
法務DDには対象会社の経営陣の協力が不可欠です。
しかし、対象会社からすると、自社の粗探しをされているようで、「買収価格を値切られるのではないか」といった不安を感じられることがあるようです。
そのため、法務DD担当者は、対象会社の経営陣にも法務DDがスムーズな統合のために重要であることを十分に説明しなければなりません。
また、依頼主である買い手企業の立場は理解しつつも、中立的な立場から公正な調査を実施することを心掛ける必要があります。
当事務所では、弁護士、中小企業診断士の専門性を活かし、多角的視点から法務DDを実施しています。
また、M&Aの目的に応じたスキームの立案や基本合意、クロージング、秘密保持等の各段階に応じた契約書の作成、リーガルチェックも行っております。
財務DDに精通した公認会計士のご紹介も行っております。
費用は、買収価格、規模、DDの対象等に応じて個別にお見積りいたしますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
また、費用の目安をご参照ください。
find a way 法律事務所
弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明