令和4年4月改正、男性育休のポイントと対策
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
改正育児・介護休業法が令和4年4月1日から段階的に施行されます。
今回の改正では、男性育休の取得促進に向けた様々なルールが定められています。
このルールは企業規模にかかわらず、すべての中小企業に適用されます。
女性活躍推進法の記事でも取り上げましたが、2021年の日本のジェンダーギャップ指数は、156カ国中120位でした。
ジェンダーギャップを埋めるためには、女性活躍と男性育休の定着はセットで進めていく必要があります。
内閣府は、令和2年5月29日に策定した少子化社会対策大綱で「男性育休の取得率を2025年に30%に引き上げる」という数値目標を掲げています(2020年は12.65%)。
改正育児・介護休業法は、保守的な日本社会において男性育休定着の転機となるか?
この記事では、改正育児・介護休業法で、企業はどのような取組みをしないといけないのかを解説します。
目次
順番が前後しますが、令和4年10月から導入される「産後パパ育休」を先に解説します。
産後パパ育休は、子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能な休暇です。
従来から存在した育休制度とは別に取得することができます。
この制度によって、男性が妻の出産と同時に育休を取れるようになります。
「男性版産休」と考えるとわかりやすいです。
女性は、出産予定日6週間前から「産前休暇」、出産翌日から8週間の「産後休暇」を取得できます。女性の「産後休暇」は
母体の回復という意味もあるので、必ず取得しなければなりません。
一方、男性は自ら出産するわけではないので、父体の回復を考える必要はありません。
しかし、出生直後は母親の産後うつのリスクが高い時期です。
その後の家事・育児を協力して行うためにも、男性も産後に一定の休暇を取ることが望ましいです。
そこで、設けられたのが「産後パパ育休」です。
産後パパ育休には、以下のような特徴があります。
・休業の2週間前までに申し出ればよい
・2回に分割して取得可能
・労使協定を締結すれば、休業中でも仕事ができる
分割取得ができるため、出産直後に1週間、1週間働いてさらに3週間、という休み方が可能になります。
休業中でも仕事ができるため、育休中に重要な会議だけ出席するといった働き方が可能になります。これまでは育休中の就業は
認められていませんでした。
女性・男性ともに、育休を2回に分割して取得できるようになります。
出生後8週間が経過した後、子が1歳になるまで、夫婦が3ヵ月ごとに交代で育休を取るということができるようになります。
女性の就労支援にも役立つ制度です。
会社は、以下のいずれかの措置を講じなければなりません(複数が望ましいです)。
① 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
② 育児休業・産後パパ育休に関する相談窓口の設置
③ 育児休業・産後パパ育休取得に関する事例の収集・提供
④ 育児休業・産後パパ育休の取得促進に関する方針の周知
要は、「当社では育休をとっていいんですよ」ということを従業員に認識してもらうための取組みをしましょうということです。
女性の産休・育休は広く知られていますので、特に男性も育休が取れるということを周知する必要があります。
まずは、①、④が取り組みやすいでしょう。
①について、政府は、少なくとも管理職は研修を受けたことがある状態にするように求めています。
④は、社内にポスターなどを貼って周知すればよいです。
本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た従業員に「育休の制度がありますよ」と個別に周知しなければなりません。
個別周知なので、メーリングリストに情報を流すという程度ではいけません。
申し出なければ周知しなくてよいのかと言うと、そんなことはありません。
1で述べたとおり、産後パパ育休は2週間前に申し出れば取得できます。従業員が「再来週、妻が出産します」と急に言ってきて焦ったということがないように、従業員には妊娠・出産の予定を上司に知らせるように伝えておきましょう。
周知すべき内容は以下の点です(出産予定日の1ヵ月前まで)。
① 育児休業・産後パパ育休の制度内容
② 育児休業・産後パパ育休の申出先
③ 雇用保険からの育児休業給付に関すること
④ 社会保険料の取り扱い(社会保険料負担がないこと)
①②は手続の説明、③④は安心して育休が取れるようにするための情報ですね。
③について、育休中は休業前の賃金の67%の支給を受けることができます。
また、④のとおり、育休中は社会保険料の控除がありませんので、手取り賃金でみると休業前の賃金の80%を受け取ることが
できます。
周知の方法は、①面談(オンライン可)、②書面交付、③FAX、④電子メールのいずれかとされていますが、
①面談して、②書面交付が望ましいです。
周知を行った上で、育児休業・産後パパ育休の取得について従業員の意向確認を行います。
これまで、有期雇用の従業員は入社後1年から育休の取得が可能でしたが、入社後の期間にかかわらず、育休が取得できるようになります。
就業規則において、有期雇用労働者の育休に「引き続き雇用された期間が1年以上」という条件が記載されている場合、削除する必要があります。
ただし、労使協定によって、これまで通り、入社後1年以上の従業員を対象にすることもできます。
改正法の内容は上記のとおりですが、法律が変われば現場もすぐに変わるということはありません。
管理職研修などを通じて、以下のような環境を作っておきましょう。
・上司が率先して家族の話をする
・上司が配偶者や子どもの誕生日に早退する
・上司が子どもの保育園の送迎のために時間有給を取得する
・子どもの病気で早退する部下に上司が「お大事に」と声をかける
・上司が部下のタスクを把握し、業務の属人化を防ぐ
男性が育休を取りやすい環境が構築されると、コミュニケーション強化による生産性向上、優秀な人材の定着率向上といった効果も期待できます。
住宅メーカーの積水ハウスは「キッズファースト企業」というスローガンを掲げて自社のブランド価値向上に結びつけています。男性育休の取得率を内外に公表して、会社のイメージアップにつなげるという戦略もあります。
以上が改正育児・介護休業法の概要です。
従来の政府の施策は、従業員である男性に「育休を取りましょう」と呼びかけるようなものでした。しかし、職場の同調圧力等により、男性が育休を取得するのは勇気のいることです。
今回の改正法は、男性従業員ではなく、会社の仕組みに働きかけるものになっており、これまでとは異なる効果が期待できます。
日本男性の育児に対する意識変革を促す、非常にインパクトの強い制度になっています。
令和4年4月までに、まずは、以下の作業を進めましょう(ほとんど時間がありませんが…)。
1 就業規則、育児・介護休業規程の見直し
2 育児休業・産後パパ育休の取得促進に関する方針の周知
3 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
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今回の改正について、何から手をつけてよいかわからない、育休取得を希望する男性従業員の対応方法がわからないという方は、まずはお問い合わせください。
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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明