事業者必見!チャージバックの仕組みと対応方法
こんにちは。弁護士の荒武です。
今回は、クレジットカード決済に対応する全ての企業にとって重要なお話をします。
「チャージバック」という手続きをご存じでしょうか。
たとえば、カード会社が消費者から苦情を受けて返金に応じた場合、カード会社は返還した代金分の損害を被ったことになります。
チャージバックとは、このような場合に、カード会社が強制的に加盟店から代金を回収する手続きのことです。
実際には、代金決済の流れはもっと複雑なのですが、本筋とあまり関係がないため割愛します。
問題は、どのような流れでチャージバックが行われ、どのような対策をすればよいかという点です。
以下で詳しく解説いたします。
チャージバックによらない不当な返金クレームへの対応については、当事務所記事「不当なクレームによる代金の返還請求を斥けた事例」をご覧ください。
目次
チャージバックは、消費者がカード会社に対して代金の支払いを拒否する旨の苦情(「不審請求申請」といいます)を申立てることで発生します。
苦情によってチャージバックを発生させることができる期間は、商品購入から120日程度です。
苦情の内容は、『カードを不正利用された』というものから『商品に不満があるのでキャンセルした』というものまで様々です。
不正利用の責任を加盟店が負うの?商品に不満があるって何?と思われる方も多いと思います。
しかし、チャージバックが発生するか否かは、VisaやJCB等の大手カード会社が定めた一定の事由(「チャージバックリーズン」といいます)に該当するか否かで形式的に決まってしまいます。
苦情の中身が正当かどうか詳しく検討されることはほぼありません。
消費者が苦情を申立てた時点で、カード会社は即座に加盟店の売上を取消し、決済代金を引落します。
この措置はカード会社によって一方的に行われます。
しかも、ほとんどの場合、引落しが行われてから連絡がきます。
つまり、カード会社から連絡がきた時には既に後手に回っていることになります。
カード会社は、代金を引落した後、加盟店に対し、
・消費者が○○を理由として苦情を申立てている
・返金を受け入れるか反証するか選択せよ
・反証する場合は、何月何日何時までに資料を提出せよ
といった内容の通知を送ってきます。
加盟店が決済代行業者を利用している場合は、決済代行業者から通知がきます。
この段階では、引落された代金はまだカード会社が預かっている状態です。
期限までに反証が成功すれば、代金は加盟店に返還されます。
回答期限までに有効な反証ができなければ、代金をカード会社に回収されることが確定してしまいます。
また、決済代行業者を利用している場合、チャージバックを受けたことを理由として、決済代行業者から、取引リスクが高い会社と認定されるおそれがあります。
決済代行業者は、取引リスクが高いと認定した会社に対し、売上の一部を引き渡さない措置を執る、契約を解除する等の対応をすることがあります。
そのような事態を避けるためにも、以下で対応方法を解説いたします。
正当な苦情であれば返金するのもありですが、不当なクレームに対してあっさり返金に応じてしまえば、その後も何かある度に返金に応じることになってしまいます。
苦情の内容が不当であれば、カード会社に対して資料を提出し、チャージバックに理由がないことをきちんと反証する必要があります。
必要な資料は以下のとおりです。
① 購入者に関する情報
まず、どこの誰にいくらで何を売ったか、商品は無事に届けられたかについて説明をする必要があります。
そのために、
・消費者の氏名、住所、電話番号等の情報
・商品の送付先がわかる配送伝票の控え等
・商品や金額等がわかる注文履歴
を提出する必要があります。
配送先の住所、電話番号がホテルや転送サービスである場合、個人を特定できないので、反証資料としては使えません。
② 加盟店に関する情報
加盟店がどのような商品をどのような方法で販売したのかを説明する必要もあります。
そのために、店舗名、販売サイトURL等の情報を提出する必要があります。
③ 顧客とのやり取りに関する情報
顧客とのやり取りの履歴も重要な資料です。
顧客が商品を受け取って使用したか、加盟店がどのように対応したか、苦情の内容は真実か等、有益な情報が含まれています。
④ キャンセルポリシー
購入をキャンセルしたいという苦情が申立てられた場合に必要となります。
商品の性質上キャンセルに応じられない場合は、その旨を明記したキャンセルポリシーを作成しておいてください。
⑤ 意見書
キャンセルの有効性に法的な争いがある場合等に必要です。
取引に法的な問題がなかったことや、キャンセルができない契約であったこと等について、弁護士に意見書を書いてもらいましょう。
反証が認められるか否かについては、何ら基準が設けられておらず、カード会社の一存にかかっています。
しかし、十分な客観的資料を添付した上で法的な正当性を訴えることができれば、チャージバックを回避できる可能性を高めることはできます。
苦情の内容に納得できない場合や、商品の代金が高額の場合等であれば、弁護士に意見書の作成を依頼する価値はあります。
いずれの資料もスクリーンショットをデータで提出することになります。
取引が正当であったことを証明するためにも、HPの商品説明や利用規約、キャンセルポリシーは明確なものにしておきましょう。
また、利用規約とキャンセルポリシーについては、内容が法的に有効でなければ意味がないので、弁護士に作成を依頼することが必須です。
明らかに不当な要求に対しては、毅然と対応することが必要ですが、正面から反証をするのは多大な労力を要します。
また、苦情の内容が正当な場合には、対応すること自体が無駄になります。
そこで、予防も含めたその他のチャージバック対策も紹介します。
3Dセキュアとは、Visa、JCB、MasterCardが提供する本人認証サービスです。
決済前に、事前に本人が登録したパスワードを入力させることで、盗難や偽造によるカード不正利用を防止することができます。
3Dセキュアを導入すれば、仮にカードの不正利用を理由としたチャージバックが発生しても、カード会社が代金の返還を負担してくれます。
カード不正利用の場合限定の対策ではありますが、非常に有効性が高いです。
費用も3Dセキュア単体の導入であれば1件10円や月額1000円程度と低額です。
クレジット決済が多い会社なら、3Dセキュアに加えて、不正検知サービスを導入するのもありですが、こちらは月額数千円~数万円の費用がかかります。
チャージバックが発生した場合に返金分の損害を補償してくれる保険です。
プランによって金額に上限が設けられている場合がありますが、売上の0.5%や月額数千円の費用で補償を受けられます。
3Dセキュアの導入によって保証上限が上がる場合もあります。
ただし、カードの不正利用以外のケースに対応していないものがほとんどです。
これのどこが対策なのかと思われるかも知れませんが、意味はあります。
消費者に返金して苦情を取下げてもらうことで、カード会社や決済代行業者から取引リスクの高い会社と認定されるのを避けることができます。
なので、こちらに非がある場合には反証をせずに早めに返金に応じることも合理的です。
ちなみに、消費者が苦情を取下げたことは、こちらからカード会社に報告する必要があります。
チャージバックは、通販だけでなく動画配信等のサービスにも発生し得ます。
株式会社シマトモのプレスリリースによると、チャージバックをされた経験のある企業は全体の6割以上、チャージバックを減らしたいと考えている企業はその内の9割近くにも上るそうです。
しかし、残念ながら、一度発生したチャージバックを回避できる可能性は高くありません。
当事務所でご相談を受けた中にも、法的には明らかにご相談者の言い分がが正しいのに、一方的にチャージバックをされていたこともありました。
このような現状を考えると、チャージバック対策は予防を重視した方がよいでしょう。
当事務所では、
・利用規約の作成
・キャンセルポリシーの作成
・返金請求への対応(交渉)
・資料の提出、意見書作成等のチャージバック対応
等、様々な業務を取扱っております。
チャージバック予防策についてのご相談や、事後的な対応のご依頼を検討されている方はお気軽にお問合せください。
find a way法律事務所
弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明