【特商法】「ZOOMで契約したからクーリングオフできる」は本当か?
弁護士・中小企業診断士の荒武です。
当事務所は、特定商取引法(特商法)に関する事業者側の相談を数多く受けています。
最近、特に増えているのが、
「ZOOMで契約したなら電話勧誘販売にあたるから、クーリングオフできると言われた」
という相談です。
顧客から突然クーリングオフを申し出られたり、消費生活センターから「ZOOMは電話勧誘販売に該当する」と指摘されるケースも続出しています。
本当に「ZOOMで契約した=クーリングオフできる」なのでしょうか。
消費生活センターがそう説明する以上、何らかの根拠があるはずです。
この記事では、その根拠と政府・裁判所の見解を踏まえ、事業者がどう対応すべきかを解説します。
目次
特商法は、7つの取引類型を「特定商取引」として厳しく規制しています。
その1つが電話勧誘販売です。
「特定商取引」の具体的な内容については、以下の記事をご参照ください。
消費者庁の「特定商取引法ガイド」では、電話勧誘販売は、「事業者が電話で勧誘し、申込みを受ける取引のこと」と定義されています。
クーリングオフとは、消費者が理由なく、一方的に契約を解除できる権利のことです。
電話勧誘販売で契約した場合、消費者は8日以内であればクーリングオフできます。
この8日は、「クーリングオフできます」という書面等を受け取った日からスタートします。
事業者が書面を送らなければ、8日間のカウントがスタートせず、「いつまでもクーリングオフできる」という状態になってしまいます。
消費生活センターは細かい法的根拠まで説明しないので、その主張の根拠を検討します。
「電話勧誘販売」とは、事業者が消費者に、
①電話をかけ、または政令で定める方法により電話をかけさせ、
②その電話において行う勧誘により、
③郵便等により、申込みを受け、または契約を締結して行う取引
を言います(特商法2条3項)。
問題は、①の「電話をかけ、または…電話をかけさせ」にZOOMが含まれるかです。
もともと、電話勧誘販売という制度は、1990年前後に問題化した「不意打ちの営業電話」を規制するためのものです。
しかし、現在は電話勧誘自体が減り、営業手法が大きく変わりました。
そのため、政府は、この「電話」という概念を広くとらえ、ZOOM等のオンライン通信にも広げようとする流れにあります。
消費生活センターは、この拡張解釈に乗り、
「ZOOMでの勧誘=事業者が電話をかけた」
と扱っていると考えられます。
しかし、その解釈をそのまま受け入れて良いかといえば…かなり疑問です。
弁護士もZOOMによる法律相談を行いますので、ZOOMの中で裁判対応の委任契約を受けた場合は電話勧誘販売になってしまいます。
ZOOMは、対話者の顔がわかるため電話よりも透明性が高く、約束した日時にミーティングを行うため不意打ち性もありません。
それでも「ZOOMだから電話勧誘販売」というのは、事業者にとって極めて過剰な負担になります。
「政令で定める方法により電話をかけさせ」の部分については、以下の記事もご参照ください。
消費者庁が公開する特商法の逐条解説には、以下のような説明があります。
「販売業者等がWEB会議ツールを利用して、WEB会議を設定し、消費者に会議用URLを送って消費者の反応を待っているような場合」は、「事業者がURLを送った行為が、通常、『電話をかけ』に該当すると考えられる」
しかし、「消費者の反応を待っているような場合」とは、具体的にどのような状況を指すのか、よくわかりません。
ZOOMを実際に使ったことがある方なら、この解釈が現実とズレていることは分かるはずです。
特商法の解説本には、消費者庁の解説をもとに、事業者がZOOMを設定した場合は「電話をかけ」、消費者がZOOMを設定した場合は「電話をかけさせ」に該当するといった記載がありました。
しかし、どちらがZOOMを設定するかによって、クーリングオフの可否が変わることに合理性はあるとは思えません。
結局、消費者庁の解説を読んでも、どのようなZOOMの使い方が電話勧誘販売に当たるのかは明確ではありません。
神戸地方裁判所(令和6年3月22日判決)は、ZOOMで勧誘したスピリチュアル講座について、以下のとおり、判示して、契約が電話勧誘販売に該当すると判断しました。
「(消費者が)オンラインセッションに参加したものにとどまるから、この時点では、スピリチュアル講座等を受講する意思はなかったとみるのが合理的である。それにもかかわらず、被控訴人(消費者)は、インターネット回線を用いて音声等を送受信する方法により通話する中で、控訴人(事業者)から当該受講を勧められ、役務提供契約である本件契約の締結に至ったことが認められるから、本件契約に係る役務の提供は、電話勧誘販売に該当するものといえる。」
裁判所は、
「ZOOM参加時点で、消費者に契約の意思があったか」
を重視しています。
消費者が「ただオンラインセッションに参加しただけ」の段階で勧誘され、そのまま契約に至ったため、電話勧誘販売と判断していることから、契約意思の形成過程がポイントになることがわかります。
「ZOOMで契約=電話勧誘販売=クーリングオフできる」という単純な話ではありません。
ただし、ZOOMの使い方次第では電話勧誘販売に該当する可能性があるのは事実です。
想定外のクーリングオフを予防するため、事業者が取るべき予防策はシンプルです。
ZOOMに入る前に、契約意思をしっかり醸成しておく。
具体的には、以下のような対策が考えられるでしょう。
・事前にサービス内容、料金、契約条件を伝えておく
・メッセージで質問に答え、サービスや契約条件に対する理解を深めてもらう
・「契約について相談したいからZOOMに入りたい」という状態にしておく
問合せ直後に即ZOOMでは、「ZOOMで初めて勧誘された」とみなされるリスクがあります。
ZOOMは最終確認の場にする。
これが最も確実な対策です。
今回ご相談いただいた事業者の方々は、顧客からの問合せに対応して、事前にLINEで十分なやり取りを行い、ZOOMでは内容の最終説明をして契約していました。
にもかかわらず、数カ月後にクーリングオフの通知を受けておられました。
その理由は、「ZOOMで契約したから」です。
特商法はビジネスの実態に全く追いついていません。
もちろん、特商法の趣旨である消費者保護の目的は重要です。
しかし、規制対象を過度に広げすぎると、特商法の究極の目的である「国民経済の健全な発展」をかえって阻害するという矛盾が生じます。
「これがクーリングオフだなんて、おかしくないか?」
その違和感は、決して間違っていません。
無理筋なクーリングオフや過剰なクレームに悩む事業者の方は、一度、ご相談ください。
当事務所では、以下のようなサポートを提供しています。
・販売スキームの適法性についての法律相談
・LP、申込フォーム、利用規約、契約書のリーガルチェック
・特商法、消費者契約法、景品表示法に関するコンサルティング
・クーリングオフ通知の対応
・違約金請求
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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明