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【実績】裁判で事業譲渡代金の請求を受けたが、支払ゼロで和解した事例


弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

建物の明渡請求や、登記の移転請求など、訴訟には色々なパターンがありますが、最も多いのが金銭の支払いを求める訴訟です。

 

原告(訴える側)は「お金を支払え」と主張し、被告(訴えられる側)は「支払わない」と主張します。

そのため、金銭を請求する訴訟で和解する場合、「少しお金を支払って和解」というパターンがほとんどです。

 

 

この記事では、相談者が事業譲渡代金と貸したお金を支払えと訴えられたケースで、1円も支払うことなく、「支払ゼロ」で和解した実績を紹介します。

 

「支払ゼロ」の和解は、原告(訴える側)にしてみれば、せっかく訴えたのに何も手に入れずに終わることを意味しますが、戦略次第では、これを実現することも可能です。

 

訴訟提起から和解成立まで9ヵ月でした。

 

1 ご相談内容

 

サービス業を営むA社のA社長から、以下のような相談を受けました。

 

・前に勤務していたB社の社長個人から、事業譲渡代金39万円の支払いと貸金100万円の返還を求める訴訟を起こされた。

・確かに、A社では譲り受けた事業を行っているが、事業譲渡代金についての話し合いはまとまっていない。

・100万円は既に返した。

・訴訟の長期化は望まないが、支払いには応じたくない。

 

 

 

 

2 対応方針の検討

 

資料を確認すると、A社からB社長個人に100万円を振り込んだ履歴が確認できました。

そのため、貸金100万円については、「既に返した」というこちらの言い分が認められるだろうと判断しました。

 

問題は、事業譲渡代金39万円です。

A社は、現に店舗を営んでおり、中にある設備も自分では購入していません。

となると、店舗や設備を誰かに譲ってもらったとしか説明がつかないのです。

 

A社長とB社長のLINEのやり取りをみると、お店の経費の負担をめぐってトラブルになった結果、金額は合意していませんが、「事業譲渡」という言葉や、「39万円」という金額が出てきていました。

 

「無料で譲ってもらった」という主張は無理があるので、とにかく「39万円支払うという合意は無い」と主張しつつ、相手方の対応を見ることにしました。

 

A社長は、店舗に勤務する従業員のために独立と同時にA社で事業を引き受けたが、利益も出ておらず、譲渡代金を支払うなんてとんでもないという考えです。

一方で、A社長は、訴訟が長引くことは望んでいないと言っています。

 

 

 

3 訴訟の進行

 

⑴ 簡易裁判所から地方裁判所への移送

 

請求金額が140万円以下の訴訟は、簡易裁判所でも行うことが可能です。

 

簡易裁判所は、文字通り、請求額の少ない「簡易」な裁判を扱う裁判所です。

簡易裁判所に訴訟が提起された場合であっても、法的な判断が難しい事件は、慎重な審理に適した地方裁判所に移されることがあります。

これを移送と言います。

 

今回の事件も、最初は簡易裁判所で審理されていたのですが、地方裁判所に移送されることになりました。

 

 

⑵ A社長のこだわり、B社長のこだわり

 

地方裁判所で双方が1回ずつ主張の書面を提出した後、裁判官から和解の意向について確認がありました。

 

B社長は、「100万円はともかく、39万円は譲れない」という立場です。

一方、A社長は、「1円も支払いたくない」という考えです。

 

和解は、お互いに歩み寄ってこそ成立するものなので、原告(B社長)が何も手に入れない内容の和解を成立させることは非常に困難です。

 

裁判官も、「A社から少しでもお金を払うことはできないのか」とこちらに検討を求めました。

 

 

⑶ 解決の糸口を探す

 

私は、とにかくA社長と打合せし、客観的資料を見直すことにしました。

A社長には、打合せには関係しそうな資料は全部持ってきてほしいとお願いしました。

 

A社長が事務所に持参した資料に、A社長がB社に勤務していた当時の労働条件通知書がありました。

労働条件通知書とは、給料や労働時間などの労働条件が書かれたものです。

労働条件通知書をみると、「賃金 月給 250,000円」とあります。

 

その後、以下のような会話をしました。

 

私 「給料は25万円だけで、手当などはなかったのですか?」

A 「ありませんでした。」

私 「残業代の支払いはなかったのですか?」

A 「ええ、残業はあまりなかったので。」

私 「少しはあったということですか?」

A 「そうですね。忙しい時期もありました。」

私 「それを使いましょう!」

 

B社がA社長に、適正な残業代を支払っていない可能性が浮上したのです。

 

 

⑷ 消滅時効を止める

 

給料の消滅時効は3年です。

つまり、未払いの残業代があっても、3年経つと、古いものから順番に請求できなくなっていくのです。

消滅時効を止めるためには、B社に内容証明郵便を送って、未払いの残業代を請求しないといけません。

 

訴訟の原告は、B社長個人でした。

そのため、私は、B社に対して、内容証明郵便を送りました(B社長の弁護士に送りました)。

 

 

⑸ 未払い残業代の計算

 

次の裁判で、B社長の弁護士は、「全く想定していないかった話なので十分な打合せはできていないが、未払いの残業代はそんなにないと聞いている」と述べました。

こちらも、未払残業代の金額は不明でしたが、「それなりにあると思われる」と、主張しました。

 

その後、B社からタイムカード、就業規則などの提供を受け、残業代を計算しました。

すると、残業代の金額は3年間で約65万円でした。

 

A社長に残業代の金額を伝えると、「そんなにあったんですね」と驚いておられましたが、訴訟が終わるのであれば、支払ってもらわなくてよいとのご意向でした。

 

 

⑹ 和解成立

 

B社長の弁護士にも残業代を計算したエクセルデータを提供し、未払残業代が約65万円あったと連絡しました。

そして、「支払ゼロ」で和解が成立するのであれば、未払残業代を請求するつもりはないと伝えました。

 

その次の裁判で、無事に「支払ゼロ」の和解が成立しました。

 

 

4 まとめ

 

冒頭でも記載しましたが、「支払ゼロ」の和解は、原告(訴える側)にしてみれば、せっかく訴えたのに何も手に入れずに終わることを意味します。

 

裁判所の判決で、「支払ゼロ」になることはあります。

ただし、判決まで進むまでには、尋問(法廷で証人、本人の話を聞く)を行うことが多いため、時間がかかります。

 

「支払ゼロ」で和解するためには、訴えた原告にとって、和解するためのメリットを絞り出さないといけません。

 

紛争を柔軟に解決するためには、裁判や交渉に出てきた材料以外にも幅広い情報を集め、想像力を駆使して、多面的に検討しなければなりません。

 

 

訴訟でよい結果を得るためには、クライアントにも情報収集、資料提供に協力いただく必要があります。

希望の結果に至ることを保証することはできません。

しかし、弁護士は、解決の糸口を探し続けます。

 

 

その他、弁護士が想像力を駆使して、解決の糸口をつかんだ事例について、以下の記事をご参照ください。

 

【実績】賃料減額請求から一転、退去合意による解決に至った事例

 

【実績】相手方の勤務先を裁判に巻き込み、全額を支払うとの決定を得た事例

 

【実績】賃借権の譲渡をめぐる契約締結交渉

 

 

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