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【労務】同一労働同一賃金アップデート


弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

令和2年4月に「働き方改革関連法」が施行され、3年が経ちました(中小企業への適用は令和3年4月から)。

働き改革関連法には複数のコンテンツが含まれていますが、目玉の1つが同一労働同一賃金です。

 

当時は新聞で見かけない日はないほど話題になり、私もセミナーなどで解説させていただく機会が多かったのですが、最近はあまり話題にすることがなくなりました。

 

 

そんな中、令和5年5月24日、山口地方裁判所が注目すべき判決を下しました。

 

 

ざっくり言うと、

正職員の手当を削ることで、非正規職員との同一労働同一賃金を実現することは適法

と判断したのです。

 

 

この記事では、同一労働同一賃金の基本をかみ砕いて解説した上で、山口地方裁判所の判決について解説します。

 

1 同一労働同一賃金とは何か?

 

同一労働同一賃金とは、その名の通り、

「同じ労働をしたのであれば、同じ賃金を支払いましょう」

というルールです。

 

もう少し詳しく言うと、正社員と非正規社員(契約社員、パート社員、派遣社員など)との間に不合理な待遇差を設けることを禁止するルールです。

「不合理な待遇差」というのがポイントで、待遇差があっても合理的であればOKです。

例えば、仕事内容、仕事の責任の重さ、配置転換や転勤の範囲が異なる場合は、賃金や手当が異なるのもやむを得ませんので、不合理な待遇差ではありません。

 

 

 

 

2 同一労働同一賃金の対応

 

同一労働同一賃金が導入された!

ということで、中小企業は何をすればよいのでしょうか?

 

 

基本給、賞与、退職金といったところも対象になりますが、主に検討すべきことは、各種手当です。

まだ何もしていないという方は、一度、賃金規程や雇用契約書の各種手当を確認してみてください。

正社員には支給しているのに非正規社員には支給していないという手当があると思います。

 

そのような手当の待遇差がある理由を説明することはできるでしょうか。

理由を説明できない場合は要注意です。

 

 

例えば、最高裁判所は、正社員に支給している通勤手当を非正規社員に支給しないことは違法と判断しています(ハマキョウレックス事件 最高裁判所平成30年6月1日判決)。

 

この判決で、最高裁判所は、通勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当については、非正規社員に支給しないことを違法と判断しました。

一方、住宅手当については、正社員には全国転勤がある一方で、非正規社員には転勤がないことを理由に違法ではないと判断しています。

 

住宅手当は非正規社員に支給しなくても常にOKというわけではないので、注意してください。

非正規社員に支給していない理由を明確に説明できるか否かが重要です。

 

 

各種手当の考え方については、厚生労働省が発表している同一労働同一賃金ガイドラインも参照してください。

ガイドラインはあいまいな部分が残っているので、関連する裁判例の分析も必要になります。

 

 

ここで思いつくことが、

正社員の手当を無くして、非正規社員の基準に合わせてしまえば待遇差がなくなるのではないか?

ということです。

この点について判断したのが、今回紹介する山口地方裁判所令和5年5月24日判決です。

 

 

 

 

3 裁判の内容

 

⑴ 事案の概要

 

この裁判は、山口県にある済生会山口総合病院の正職員が病院を訴えたものです。

 

事案の概要は以下のとおりです。

 

・令和2年10月、病院が就業規則を変更し、正職員だけに支給していた「扶養手当」、「住宅手当」を廃止した。

・同時に、全職員を対象とした「子ども手当」、「住宅補助手当」などの支給を開始した。

・その結果、正職員196人の手当が減り、非正規職員25人の手当は増えた。

・正職員のうち9名が、手当減額分の支払いを求めて病院を訴えた。

 

この裁判は、

「正職員の手当を削ることで同一労働同一賃金を達成することが許されるのか」

という点について、法的判断が下されるものとして注目を集めました。

 

 

 

⑵ 裁判所の判断

 

結論として、裁判所は、正職員らの請求を認めませんでした。

つまり、正職員の手当を削ることで同一労働同一賃金を達成することも許されるという結

論になったのです。

 

 

 

⑶ 裁判所の判断の理由

 

就業規則を変更して労働条件を変更する場合、合理性が必要とされています。

合理性の判断にあたっては、以下の各事情が考慮されます(労働契約法10条)。

 

①労働者の受ける不利益の程度

②労働条件の変更の必要性

③変更後の就業規則の内容の相当性

④労働者との交渉の状況

⑤その他の事情

 

裁判所は、労働契約法10条に照らして、正職員の労働条件の変更に合理性があるかという点を検討しました。

 

 

まず、①労働者の受ける不利益の程度について。

 

制度変更に伴い、全職員の年間の総賃金は減少したものの、減少幅はわずか0.2%でした。

そのため、全体をみれば、労働者の受ける不利益は小さいとされました。

 

 

次に、②労働条件の変更の必要性について。

 

裁判所は、働き方改革関連法の施行をきっかけに、既存の手当を正職員のみに支給し続けるかを検討することは法の趣旨に沿う取組みだと指摘しました。

また、裁判所は、新病棟建設による負担で経営が右肩下がりであることを指摘しました。

その上で、人件費の増加抑制に配慮しつつ、手当の組み替えを検討する必要があったとして、労働条件の変更の必要性を認めました。

 

 

以上を踏まえ、裁判所は、今回の労働条件の変更が合理的であると結論付けたのです。

 

この判断について、正職員らは広島高等裁判所に控訴しました。

控訴審でどのような判断が下されるかも注目です。

 

 

 

 

4 裁判所の判断についてのコメント

 

この裁判では、正職員の手当を削ることで同一労働同一賃金を達成することも許されるという結論になりました。

 

しかし、正社員の手当削減のすべてに合理性が認められるわけではありません。

 

済生会山口総合病院は、正職員の手当を削減する一方で、全職員を対象とした別の手当の支給を新たに開始しています。

単に、正職員の手当を廃止するだけでは、労働条件変更の合理性が否定される可能性も十分にあります。

 

 

同一労働同一賃金を踏まえた賃金制度の設計を行うときは、単に人件費を削減したいという動機だけではうまくいきません。

 

同一労働同一賃金は、雇用形態にかかわらず、納得感のある待遇を提供することで多様な働き方を確保することを目指しています。

非正規社員のエンゲージメントを高め、会社に活躍の場を与えることを目的としているのです。

 

賃金制度を構築する際も、人件費の増額幅を考慮しつつ、人的資本の活用を考えることが重要です。

 

 

 

 

5 まとめ

 

働き方改革関連法の施行から時間が経ちましたが、同一労働同一賃金については、各地の裁判所で様々な論点について争われています。

情報収集を怠らず、情報をアップデートしておきましょう。

当事務所では、今後も注目すべき裁判例を紹介する予定です。

 

 

当事務所では、

・就業規則、賃金規程等のリーガルチェック(顧問契約締結の場合は無料)

・就業規則、賃金規程等の作成

・人事・組織戦略の構築と運用

・同一労働同一賃金に関するセミナーの開催

 

などなど、労使関連法務に関する業務を多数取り扱っております。

 

 

自社の就業規則が同一労働同一賃金に対応しているか気になる方は、問合せフォームまたは事務所LINEアカウントよりお気軽にお問い合わせください。

 

 

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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明