弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

今回は、賃料不払いによる不動産の明渡請求に関する当事務所の実績をご紹介します。

 

1 事件の概要

 

本件は、賃料を支払わず、明渡しにも応じない土地建物の借主について、当事務所が交渉、仮処分、訴訟を行い、最終的に明渡しを確認する内容の合意書への署名を得たというケースです。

 

相談に来られた不動産オーナーのAさんは、借主が1年近く賃料を支払っていないにもかかわらず、明渡しに向けた話合いに応じようとせず、困っておられました。

 

Aさん自身で内容証明を発送されましたが、借主の代理人弁護士からのらりくらりとかわされて、賃料の支払いも明渡しも話が進まない状況でした。

 

弁護士から賃料の支払いと明渡しを求めることで、具体的な進展があるのではないかと考え、ご相談にお越しになりました。

 

 

2 解決結果

 

交渉、占有移転禁止の仮処分、訴訟順を追って進めた結果、最終的に、建物の明渡しと残置物の所有権放棄を含む合意書を交わすことに成功しました。

 

 

3 対応内容

 

(1)ヒアリングによる状況の確認

 

まず、1年近く賃料不払いを続けながら、交渉に応じようとしないという不自然な状態に至った事情をヒアリングしました。

Aさんの説明によると、相手方は以下のように主張しているとのことでした。

 

・Aさんが賃料の受取りを拒絶している。

・退去を繰り返し強要された精神的苦痛に対する慰謝料と賃料を相殺する。

 

相手方の主張は法的に不合理なものでしたので、弁護士から内容証明郵便で通知書を送付すれば、進展があるのではないかと思いました。

 

(2)内容証明郵便の発送

 

Aさんの代理人として、弁護士名で相手方に内容証明郵便を送りました。

内容証明郵便には、以下の2点を記載しておきました。

 

①未払いの賃料を1週間以内に支払うこと

②支払いがない場合は契約を解除すること

 

ところが、相手方弁護士から届いた回答書には、これまでと同様の主張が繰り返されていました。

 

文書で支払いを求めているにもかかわらず、「賃料の受取りを拒絶している」という不合理な反論に違和感を覚えました。

Aさんとも相談した結果、借主は高齢で耳が遠いため、代理人弁護士と意思疎通ができていないのかもしれないと考えました。

 

いずれにせよ、1週間以内に借主からは未払賃料の支払いがありませんでしたので、賃貸借契約は有効に解除されたと判断しました。

しかし、法的に賃貸借契約が終了しているとしても、建物の鍵を勝手に取り換えたり、借主の荷物を勝手に搬出したりすることは違法です。

 

そのため、やむを得ず、裁判手続を進めることにしました。

 

(3)占有移転禁止の仮処分

 

代理人弁護士が就いていますので、借主と直接話すことができません。

しかし、代理人弁護士と借主の意思疎通が怪しい状況でしたので、何とか借主と直接接触できないかと考え、占有移転禁止の仮処分を申し立てることにしました。

 

建物の明渡しを命じる判決が出たとしても、建物に見知らぬ第三者が住んでいた場合、その見知らぬ第三者には判決の効力が及びません。

しかし、占有移転禁止の仮処分を申し立てれば、借主から第三者への建物の「占有移転」を「禁止」することができ、第三者ごと建物を明け渡させることができるのです。

つまり、占有移転禁止の仮処分とは、建物の明渡しを命じる判決が出た後、スムーズに明渡しを実現するために用いられる手続です。

 

占有移転禁止の仮処分の手続は以下のように進みます。

 

① 裁判所に申立書を提出する

② 執行官と一緒に建物に行く

③ 執行官が借主に仮処分の内容を説明し、裁判所の告示を壁に貼る

④ 借主が不在であれば、開錠して裁判所の告示を壁に貼る

 

③のタイミングで、借主と接触することができます。

 

本件でも、執行官、弁護士、Aさんとで建物に行きました。

執行官が外から借主の名前を何度も呼びましたが、応答がなかったため、開錠して中に入りました。

すると、借主が奥から驚いた様子で出てきたので、執行官が仮処分の内容を説明しました。

 

その際に弁護士から借主にも現在の状況を説明し、代理人弁護士に今後の対応を相談するように伝えました。

 

(4)再度の交渉

 

占有移転禁止の仮処分から1週間後、弁護士から借主の代理人弁護士に電話を入れました。

占有移転禁止の仮処分を行ったことを伝えましたが、借主の代理人弁護士は借主から何も聞いていないとのことでした。

そのため、明渡しに応じないようであれば、訴訟、強制執行と手続を進めざるを得ないため、借主本人と相談して退去する時期を決めるように伝えました。

ところが、借主の代理人弁護士から、本人と連絡が取れなくなったとの連絡がありました。

 

そこで、やむを得ず、訴訟を提起することにしました。

 

(5)訴訟提起

 

建物の明渡しと未払賃料の支払いを求める訴訟を提起しました。

 

借主からの応答がない可能性もあると考えていましたが、代理人弁護士から答弁書が提出されました。

答弁書では、これまでと同様の主張が繰り返されるのみで、合理的な反論はありませんでした。

こちらの請求が認められることは明らかでしたが、裁判官より和解の提案がありました。

 

Aさんとしても、借主が真冬に路頭に迷うという事態は避けたいとのことでした。

また、賃料の回収はもはや期待できないため、とにかく建物だけでも明け渡してもらいたいとのことでした。

 

そのため、こちらから、約2か月後の3月末に明け渡すのであれば、未払賃料の支払いは免除すると提案しました。

借主の代理人弁護士も本人を説得すると言っていました。

 

ところが、次に裁判所に行った際に、代理人弁護士も借主と連絡が取れなくなってしまったとの事実を知らされました。

ただし、借主は既にその建物には住んでおらず、転居先の住所はわかるとのことでした。

 

借主の知らないところで和解をするわけにもいかず、結局、判決が出ることになりました。

 

最終的に、借主の代理人弁護士は辞任し、こちらの全面勝訴の判決が出されました。

 

(6)建物の明渡し

 

判決が出れば、次は強制執行によって建物の明渡しを強制的に実現します。

これを明渡断行の強制執行といいます。

 

しかし、本件で明渡断行の強制執行をする場合、建物内に残された物を運び出し一定期間、倉庫などで保管しておかなければならず、余分な費用がかかります。

 

そのため、弁護士がAさんと一緒に借主の転居先を訪れ、合意書を交わすことによって、明渡断行の強制執行を経ずに解決することを目指しました。

 

合意書には以下の内容を入れておきました。

 

① 建物の明渡しが既に完了していることを確認する

② 建物に残っている物の所有権を放棄する

③ 合意書への署名を条件として、未払賃料や原状回復費用を免除する

④ 互いに一切債権債務がないことを確認する

 

③は相手方に有利な内容ですが、相手方の資力からして賃料の回収が期待できなかったことから、合意書を確実に交わすためにあえて入れておきました。

 

借主は、大阪市内のマンションに転居していました。

そのマンションを訪問し、ようやく会って話をすることができました。

 

合意書の内容を丁寧に説明した末、借主の署名捺印を得ることができました。

借主もさすがに反省している様子で、「建物に残っている物で換金できるものがあれば、家賃の足しにしてください」と言っていました。

 

 

4 弁護士の見解

 

(1)契約解除の一般的な流れ

 

契約違反があった場合、相当な期間内にその契約違反を是正するように求め、それでも是正されないときには、契約を解除できるというのが民法の原則です。

 

具体的には契約解除の一般的な流れは以下のようになります。

 

① 内容証明郵便によって、相当な期間内に契約違反を是正するよう求める。

② 相当な期間の経過後、内容証明郵便によって、契約の解除を通知する。

 

①を、法的に「催告」といいます。

相当な期間は、是正を求める内容にもよるのですが、金銭の支払いであれば1週間程度みておけばよいでしょう。

 

②は、法的に「解除の意思表示」といいます。

 

内容証明郵便を①と②で2回送る必要はなく、①の内容証明郵便を送る時に、

「期限内にお支払いがないときは、あらためて解除の通知をすることなく、本通知書をもって賃貸借契約を解除します」

などと書いておけば、②を兼ねることができます。

 

将来、訴訟などに発展する可能性がありますので、「催告」や「解除の意思表示」は内容証明郵便を用いることによって、確実に相手方に届いたことが確認できる状態にしておかなければなりません。

 

(2)賃貸借契約の解除

 

契約解除の一般的な流れは上記のとおりですが、賃貸借契約は、例外的に、契約違反があっても、貸主と借主との信頼関係が破壊されていない限りは解除できないことになっています。

 

家賃の不払いが1ヶ月程度であれば信頼関係が破壊されていないを評価されるかもしれませんが、不払いが数ヶ月にもなれば、信頼関係が破壊されているといえるでしょう。

 

本件では、家賃の不払いが1年近くになっており、信頼関係の破壊は明らかでした。

 

(3)占有移転禁止の仮処分の活用

 

占有移転禁止の仮処分は、明渡しを命じる判決の実効性を高めるための手続です。

 

借主に知恵があり、判決後の執行を妨害してくる可能性があるような場合には積極的に申立てを行うべきです。

 

また、仮処分の執行の際、相手方と顔を合わせる機会を持つことができますので、口頭で状況を説明したい、説得したいなどの事情がある場合にも活用することができます。

 

 

(4)明渡しの方法

 

明渡しを命じる判決を得た場合、まずは、相手方に対し、判決に従って任意に明け渡すよう求めます。

 

それが難しい場合には、明渡断行の強制執行を行います。

 

明渡断行の強制執行は、残された物を搬出し、保管するといった手順を取らなければならないことがあり、費用がかかります。

だからと言って、強制執行の手続によらず、勝手に建物内に入り、残された物を処分してしまうことは違法ですので、後に損害賠償請求などを受けるリスクがあります。

 

本件でも、相手方が既に転居していることはわかっていたので、強制執行の手続によらず、勝手に片付けてしまってもよいのではとも考えました。

 

しかし、後に迷惑を被るのはAさんですので、住所がわかっている以上、借主と会って、最後の交渉を試みることにしました。

 

以下の点について、承諾を得ておけば、損害賠償請求を受けるなど、Aさんに不利益が生じることはありません。

 

① 建物の明渡し既に完了していることを確認する

② 建物に残っている物の所有権を放棄する

 

 

5 解決結果のまとめ

 

本件では、借主と代理人弁護士との連絡が滞ったことにより、解決までにやや時間がかかりました。

 

しかし、最終的には、合意書に署名捺印を得ることによって、余分なコストをかけずに建物の明渡しを完了させることができました。

 

賃料不払いによる不動産の明渡請求は、目的はシンプルですが、目的を達成するための手続や手順には様々な選択肢がありますので、進め方を慎重に検討する必要があります。

 

当事務所では、不動産関連法務に特化したリーガルサービスを提供しております。

 

一例として以下のような業務を行っておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

 

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