【飲食店における無断キャンセル対策】 - 大阪市で労使、飲食、M&Aに関する相談は「findaway法律事務所」へ

 

弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

飲食店における予約の無断キャンセル(No Show)は深刻な問題です。

 

食材や準備時間が無駄になる上、予約のために確保した席が空席になることによって売上獲得の機会を失うことになってしまいます。

 

無断キャンセルは新型コロナウィルス感染症の拡大により疲弊する飲食店の経営に深刻なダメージを与えます。

このような無断キャンセルを予防するためにはどういった手を打てるでしょうか。

この記事では、飲食店における無断キャンセル対策について、説明いたします。

 

1 無断キャンセルがあった場合、飲食店は損害賠償請求をすることができる

 

一般に、無断キャンセルによって飲食店に何らかの損害が生じたのであれば、顧客(そもそも顧客と言えるか不明ですが)の行為は、債務不履行や不法行為に該当します。

 

そのため、飲食店は顧客に対して損害賠償請求をすることができます。

 

しかし、損害賠償請求するためには、飲食店に発生した損害の内容を具体的に示す必要があります。

 

 

 

2 無断キャンセルによって飲食店に生じる損害とは?

 

では、無断キャンセルによって飲食店にはどのような損害が生じるのでしょうか?

 

損害と言うためには、

「顧客の行為(無断キャンセル)によって、お店はこれだけのお金を損しました。」

と説明できなければなりません。

 

法的には、「行為と損害との間に相当因果関係がなければならない」と言います。

 

以下では、

(1)コース料理の予約のキャンセルの場合

(2)アラカルトの予約の無断キャンセルの場合

に分けて、損害について検討します。

 

 

(1)コース料理の無断キャンセルの場合

 

コース料理の予約があった場合、予約の時点で、飲食店がコース内容の飲食物をお客様に提供する契約が成立したと考えられます。

 

コース料理の無断キャンセルがあった場合、その料理を別のお客様に転用することは困難です。

そのため、実際に予約されたコース料理の代金が飲食店に生じた損害となります。

 

例えば、5000円のコース10名分の無断キャンセルがあった場合、飲食店に生じた損害は5万円(5000円×10名)ということになります。

ただし、飲み放題で提供することを予定していたビールや日持ちのする食材など、転用可能な飲食物の代金は、損害額から控除すべきことになります。

 

また、予約を理由に入店をお断りしたお客様がいた場合には、そのお客様から得られるはずの利益も飲食店に生じた損害ということになります。

 

例えば、以下のような計算で、損害を算定することが可能です。

(平均客単価)×(お断り客数)×(粗利益率)

 

さらに、仕込みや接客に要した人件費も損害と言えるでしょう。

 

 

(2)アラカルトの予約の無断キャンセルの場合

 

アラカルトの予約、つまり席のみの予約があった場合、飲食店が提供する料理の内容が確定していません。

そのため、コース料理の無断キャンセルの場合とは異なる検討が必要となります。

 

そもそもアラカルトの予約によって、お客様との間に契約が成立しているのでしょうか?

 

この点については、少なくとも一定の時間に飲食店が一定の席数を確保しておくという内容で合意に至っている以上、契約が成立していると解釈することは可能と思われます。

 

アラカルトの予約の無断キャンセルの場合、以下のような計算で損害を算定することが可能です。

(平均客単価)×(予約客数)×(粗利益率)

 

仕込みや接客に要した人件費については、コース料理の無断キャンセルと同様です。

 

 

3 直前にキャンセルの連絡があった場合

 

無断キャンセルの場合、本来であれば入店できたはずのお客様の入店をお断りすることに

なるため、損害が拡大するということを述べました。

 

では、予約時間の1時間前にキャンセルの連絡があった場合はどのように考えられるでしょうか?

 

この場合、食材のロスが生じる可能性はあるものの、飛込客を席にご案内できるため、損害は抑制できるでしょう。

 

また、無断キャンセルと異なり悪質性が低いことから、キャンセルが直前になった理由次第では厳しい対応を控えることも検討すべきです。

 

 

4 損害賠償請求のためのキャンセルポリシー

 

(1)損害賠償額の予定

 

これまでの説明でお気付きかもしれませんが、無断キャンセルによって飲食店に生じた損害を算定することは非常に困難です。

 

この困難を克服するのが、損害賠償額の予定です。

 

民法420条1項は契約違反があった場合、違反者がいくらの賠償金を支払うのか予め決めておくことができると定めています。

 

 

(賠償額の予定)

第420条 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。

 

 

つまり、予約時点で、キャンセル時にいくら支払ってもらうかをお客様と合意しておけば、個別に損害の算定をすることなく、合意した金額を請求することができるのです。

 

予約時にこのようなルールを提示すると、お客様から反発を受けるのでは、と心配されるかもしれません。

 

しかし、宿泊業などでは、無断キャンセルだけでなく、当日キャンセルでも予約金額の100%の支払いを求められることは一般的です。

 

宿泊業では、無断キャンセル、当日キャンセルがあった場合、その部屋が空室のままになってしまうことから、ホテル等に料金を支払わなければならないという考えだと思います。

 

飲食業でも同様に、無断キャンセル、当日キャンセルがあった場合、その席が空席のままになってしまいます。

そのため、お客様に一定の負担を求めることは不合理なものではありません。

 

 

(2)消費者契約法との関係

 

賠償額の予定は、どれくらいに定めるのがよいでしょうか?

 

「無断キャンセルなんて許せないから、罰として100万円支払ってください!」と言いたくなるかもしれませんが、このようなルールを定めても、法的に無効とされます。

 

消費者契約法に以下のような規定があります。

 

 

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)

第9条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

 

 

飲食店は「事業者」であり、お客様は「消費者」ですので、飲食店とお客様との契約には消費者契約法が適用されます。

 

そのため、無断キャンセルに伴う損害賠償額の予定に関するルールを定めておいても、過剰な部分は消費者契約法9条により無効とされてしまいます。

 

つまり、損害賠償額の予定に関するルールを有効にするためには、予定額を「平均的な損害の額」にとどめておく必要があるのです。

 

 

(3)キャンセル料の具体的内容

 

飲食物の転用の可能性など、細かいことを言い出すとキリがないですが、例えば、以下のようなキャンセル料金の内容であれば妥当な範囲ではないかと思います。

 

① コース料理の予約の場合

(無断キャンセル)

コース料金×予約人数の100%

(当日キャンセル)

コース料金×予約人数の80%

(前日キャンセル)

コース料金×予約人数の50%

 

② アラカルトの予約で、飲食店の平均客単価が5000円の場合

(無断キャンセル)

5000円×予約人数の100%

(当日キャンセル)

5000円×予約人数の80%

(前日キャンセル)

5000円×予約人数の50%

 

 

(4)キャンセルポリシーの作成

 

キャンセル料金の内容を決めたら、次はお客様に提示するキャンセルポリシーの作成です。

 

キャンセルポリシーとは、いかなる場合にいかなる内容のキャンセル料金が発生するのかを明らかにするものです。

 

キャンセルポリシーには、以下のような情報を記載しておく必要があります。

 

① 予約の受付が完了したこと

② キャンセル時にはこのキャンセルポリシーが適用されること

③ キャンセル料が発生する条件

④ キャンセル料の具体的な金額

 

 

(5)キャンセルポリシーを示す方法

 

キャンセル料を請求するためには、予約時にキャンセルポリシーをお客様に対して明示することが必要です。

 

電話予約の場合、連絡先の携帯電話番号を聴取ことが多いと思います。

そのため、SMS(ショートメッセージ)でお客様にキャンセルポリシーを送信し、確認を促すという方法があります。

 

予約の電話を受けた際にも、キャンセルポリシーの概要を説明しておきます。

そうすることによって、無断キャンセルを抑止することにもつながるでしょう。

 

LINE公式アカウント等のSNSを通じた予約の場合、SNSを通じてキャンセルポリシーを明示することができます。

 

グルメサイトを通じた予約の場合、予約確認メールにキャンセルポリシーを明示しておきましょう。

 

また、予約日が近づいてきたら、キャンセルポリシーを示したSMS等にリマインドの連絡を入れておきましょう。

 

 

(6)予約時に収集すべき情報

 

一般的には、氏名、携帯電話番号等の個人情報を収集することが多いと思います。

 

キャンセル料を請求することを考えるならば、住所も聴取しておきたいところです。

 

しかし、飲食店の予約時に住所を聴取することは一般的ではないと思われますので、住所を聴取することは難しいかもしれません。

 

もし、キャンセル料を請求するための文書送付等が必要になった場合、弁護士会を通じた照会によって携帯電話会社から利用者の住所を聞き出すことが可能です。

ただし、携帯電話会社によっては回答を拒否することもあります。

 

 

5 キャンセル料を請求する方法

 

残念ながら、無断キャンセルが発生し、キャンセル料を請求する場合にはどのような手順を踏めばよいでしょうか。

 

 

(1)電話連絡

 

まずは、飲食店から無断キャンセルを行った顧客に電話し、キャンセルポリシーの適用により、キャンセル料が発生することを伝え、支払いを求めます。

 

 

(2)内容証明郵便

 

電話連絡をしても支払いに応じない、または電話に出ないといった場合には内容証明郵便による催告書を送付します。

 

その際、弁護士名義で催告書を送付すれば、支払いを受けられる可能性は高くなるでしょう。

 

 

(3)裁判手続

 

催告書を送付しても支払いに応じない場合は裁判手続を検討することになります。

 

数十人規模の無断キャンセルであれば、裁判手続をもってしても請求する価値があるかもしれません。

しかし、裁判手続には弁護士費用と手間がかかりますので、請求するキャンセル料が高額でない場合、どこまで行うかは悩ましいところです。

裁判手続の中にも、支払督促という簡便な手続きがありますので、それらの手続を用いてもよいでしょう。

 

 

6 当事務所のサポート内容

 

当事務所では、予約の無断キャンセルについて、以下のようなサポートを行っております。

 

・キャンセルポリシーの作成

・キャンセルポリシーの顧客に対する明示方法の助言

・キャンセル料請求に向けた顧客の住所調査

・内容証明郵便による催告書の送付

・裁判手続(支払督促、訴訟)

 

前述のとおり、キャンセル料が高額になるケースは限られますので、キャンセル料の請求をどこまで追求するかは悩ましいところです。

 

そのため、キャンセルポリシーの作成とお客様への明示を徹底し、無断キャンセルを予防することが重要となります。

 

無断キャンセルの予防によって利益を確保できれば、その利益をお客様や従業員にも還元することができます。

つまり、無断キャンセルの予防は、売上獲得だけでなく、顧客満足度、従業員満足度の向上といった好循環へとつなげることができるのです。

 

無断キャンセルの被害に遭われた方やキャンセルポリシーの作成を検討されている方は、お気軽にお問い合わせください。