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スモールM&Aを進める際の法律上のリスク


弁護士・中小企業診断士の荒武です。

 

中小企業庁の発表によると、2025年までに、70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者約245万人のうち、約半数の127万人が後継者未定となっています。

 

その結果、今後、10年間で60万件以上のM&Aニーズがあるとのことです。

 

同じく中小企業庁の発表によると、国内のM&A件数は年々増加しており、2019年には4000件を超え、過去最高となりました。

 

しかし、10年間で60万件以上のM&Aニーズがあるとすると、年間6万件以上のM&Aが実行されるはずです。

 

・良い会社があれば買いたい

・良い買い手がいれば売りたい

 

と考えている経営者は多数存在すると考えられ、M&Aの件数は今後、さらに拡大することが予想されます。

 

M&Aの中でも、譲渡金額が低額なものをスモールM&Aと呼びます。

スモールM&Aは、手軽に行える一方で、手続に十分な費用をかけにくいという特徴があります。

 

この記事では、今後、さらなる拡大が予想されるスモールM&Aについて、売り手側、買い手側、それぞれの立場の生じ得る法律上のリスクについて解説します。

 

1 売り手側のリスク

 

⑴ 情報漏洩

 

M&Aの社会的認知度が向上しているとはいえ、会社の売却にはネガティブなイメージが付きまといます。

 

一度売り情報が公表されると企業活動に支障が生じる可能性がありますので、売り手としては、自社の売却を検討しているという情報が漏洩しないよう、慎重に手続を進める必要があります。

 

近年増加しているM&Aのマッチングサイトには売り手の名称は公開されません。

しかし、地域、業種、売上等の情報から会社を特定されてしまう可能性があるので、その点は覚悟しておく必要があります。

 

交渉開始後、買い手候補との交渉を進める場合、売り手の情報を買い手候補に提供します。

 

しかし、交渉がまとまらなかったときに買い手候補が情報を公開しないよう、最初の情報提供と同時に秘密保持契約を交わしておく必要があります。

 

 

 

 

⑵ 基本合意後のノウハウ流出

 

買い手が事業拡大のために同業他社を買収することはよくあります。

 

基本合意後、譲渡金額等を決めるため、売り手は買い手に資産状況、仕入価格、利益率、ノウハウ等の重要情報を開示しますが、最終契約に至らないこともあります。

 

結果的に、売り手の情報が買い手に流出しただけという状態に陥ります。

 

最終契約を締結するか否かは自由に決めることができますので、一定の情報流出はやむを得ません。しかし、買い手が行うデューデリジェンス(売り手の調査)に不要な情報については、買い手の了解を得た上で不開示とするといった検討は必要となります。

 

例えば、秘伝のタレのレシピなどは、デューデリジェンスに必要ないと考えられます。そのため、基本合意の段階で、最終契約締結後にレシピを開示するといった条項を入れておくという対応が考えられます。

 

 

 

 

2 買い手側のリスク

 

⑴ 株主構成が特定できないことによるリスク

 

スモールM&Aの取引では、株式譲渡のスキームが多く用いられます。

 

株主は、株主総会の招集請求(会社法297条)、株主総会における質問(同314条)、会計帳簿の閲覧請求(同433条)等の株主権を行使することができます。

 

少数株主からの思わぬ権利行使を受けないためにも、株式譲渡のスキームでは売り手の全株式を取得することが望ましいです。

そのため、株式譲渡のスキームを進めるにあたっては、株主構成を可能な限り正確に特定する必要があります。

 

売り手との基本合意後、以下のような資料の開示を受け、株主構成を調査しましょう。

 

・株主名簿

・定款

・株主総会議事録

・取締役会議事録

・株券

・法人税申告書(別表欄)

・株式譲渡契約書、株式譲渡証人請求書

・名義書換請求書

・遺産分割協議書等の相続関係の書類

 

売り手の株式が複数人に分散している場合、売り手側で株式を買い集めることによって、株式を集約するように求めましょう。

株式を集約する際には、契約書等の文書を作成し、後に手続の適法性に疑義が生じないようにしておきます。

 

書類作成の不備によって、売り手自身も把握していない株主が存在することがあります。

書類作成の不備が発覚した場合は、覚書等の作成により契約関係を整備し、可能な限り株主が特定できる状態にします。

 

売り手における株式の集約ができない場合または売り手の株主構成を特定できない場合、スキームの変更を検討します。

 

例えば、株式譲渡ではなく、会社分割により会社を新設した上で、新設した会社の株式を買い手が取得するというスキームが考えられます。

その場合、株主構成が不明であるため、招集通知を行うことなく、株主総会を開催して会社分割のための決議をすることになります。

しかし、法律上、会社分割無効の訴えの提訴期間が6ヵ月に限定されているため、その後は株主が会社分割の効力を争うことができなくなります。

会社分割のこの特徴を利用して、株主構成が特定できないという点にふたをしてしまうのです。

 

ただし、会社分割は手続が重く、許認可の承継に影響が生じる等のデメリットがありますので、スキーム変更の可否は慎重に検討する必要があります。

 

 

 

 

⑵ 簿外債務の存在

 

買い手側のリスクとして重要なのが、簿外債務の存在です。

最終契約後、売り手の帳簿に表れていなかった債務の存在が発覚することです。

 

スモールM&Aでは、譲渡金額が低額なため、売り手は法的責任(契約不適合責任)を負わないという特約を付することが多いです。

しかし、M&A取引の終了後、売り手が所有する不動産に欠陥がある、残業代の未払いが存在するといった法的問題が発覚することがあります。

 

特に、売り手会社の従業員が買い手側(新しい会社のオーナー)の方針に賛同せず、退職後、未払残業代を請求するといったケースはしばしば存在します(そのため、M&A後の統合作業も重要です)。

株式譲渡の場合、株主が変わるだけですので、会社は未払残業代の支払義務を免れません。

売り手と買い手との間には情報の非対称性がありますので、買い手は売り手の欠陥を完全に把握することが困難です。

 

簿外債務のリスクを排除するためには、株式譲渡ではなく事業譲渡にスキームを変更するという方法があります。

 

事業譲渡であれば、対象となる事業を譲り受けるだけですので、原則として買い手が売り手の簿外債務を負担することはありません。

 

ただし、会社分割と同様に、事業譲渡は株式譲渡に比べて手続が重く、第三者との契約関係や許認可が買い手に引き継がれない等のデメリットがありますので、スキーム変更の可否は慎重に検討する必要があります。

 

 

 

 

⑶ デューデリジェンスの重要性

 

以上のとおり、買い手側は、M&A取引の終了後に思わぬ事態に遭遇する可能性があります。

また、売り手側との情報の非対称性から、事前にそのリスクを予測することが困難です。

 

そのリスクを少しでも軽減するためには、デューデリジェンスを行う必要があります。

デューデリジェンスとは、買い手が売り手の調査を行うことです。調査の対象によって法務デューデリジェンス、事業デューデリジェンス、財務デューデリジェンス等の種類があります。

 

デューデリジェンスの結果によっては、以下のような手段を講じることがあります。

 

・譲渡金額の見直し

・最終契約書への表明保証条項(売り手の開示した一定の情報が真実かつ正確であることを保証する条項)の追加

・スキーム変更

・取引自体の中止

 

スモールM&Aでは、コストの点からデューデリジェンスが実施されないことも多いですが、前述のようなリスクがあります。

デューデリジェンスの対象を限定すれば費用を抑制することは可能ですので、たとえ一部であってもデューデリジェンスは実施すべきです。

 

網羅的に行うことが望ましいですが、法務デューデリジェンスの観点からは少なくとも以下の2点に関するデューデリジェンスは実施しておくべきです。

 

・株式(株主構成、潜在株主の存否)

・労務(未払賃金の有無、賃金構成)

 

当事務所のデューデリジェンスの実績については以下をご覧ください。

【実績記事】中小企業の法務デューデリジェンスを行い、問題点等の報告を行った事例

 

 

 

3 まとめ

 

当事務所では、専門知識を有する公認会計士、司法書士、中小企業診断士等と連携し、スモールM&A支援に関する以下のような業務を幅広く扱っています。

 

・アドバイザリー業務

・各種文書の作成、リーガルチェック(秘密保持契約書、基本合意書等)

・各種デューデリジェンス

 

●同業他社を買って、事業を拡大したい

●既存事業と異なる会社を買って、事業の多角化を図りたい

●後継者不在のため、信頼できる第三者に会社を譲りたい

●不採算事業を第三者に譲渡したい

 

といった方は、まずはお気軽にお問合せください。

 

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弁護士・中小企業診断士 荒武 宏明